第185話 解散、そして再結成

「……以上が俺から話せることの全て。話を聞いて、ちゃんと理解してくれた人はわかったと思うけど、この天変地異は一旦それが起こってしまったら、もう滅びはまぬがれない。これが起きる前に原因をつきとめ、それが起こらないように阻止しなければならないんだ。あと900日くらいしか残ってないけど、ここに集まってくれた皆さんには、それぞれの得意分野で、原因究明に動いてほしい。そして何かを掴んだら、すぐに俺に教えて欲しいんだ。どうか、皆さんの知恵と力を俺に貸してください」


全てを話し終えた俺は、壇上で深々と頭を下げた。


「説明を聞いて、ますます疑わしく思った部分がある」


少しの間、続いていた沈黙を破ったのは、上座に臨時で設けられた席に落ち着いていたパウル四世だ。


「詳しいことは言えぬが、わが王城は、現在、特別な力に守られており、ありとあらゆる地上の建造物よりも強固となっている。ユウヤ、お前の話では、その未来において、他の建物のがれきが残っている中、わが城が跡形もなく消え去り、その辺り一面が巨大な大穴になっていたといったな? だが、そのようなことはあり得ぬのだ」


「それは逆に有力な証言になってくるのではないか?」


集められた英傑たちが座っている席の方から年老いた女性の声がした。

やや、かすれしわがれていたが、活舌が良く、声量があった。


「お前は……大賢者マルフレーサ。来ていたのか、この場に……」


パウル四世と老いた姿に変身しているマルフレーサが視線を交差させた。


「被害の状況が周辺よりも甚大であるということは、パウル四世、貴方の城が標的の一つになっていた可能性を示唆しさしている。つまり、そのように仮定すると、この世界規模の異変は超常的な自然災害などではなく、意思を持った何者かによる世界全体への攻撃であったと考えられ、しかもその相手があなたがた王家になんらかの理由で敵対した者と関りがあるのではないかという疑いを抱かせるのだ。これは滅びの原因を探る上での貴重な手掛かりとなる。何か、思い当たる節はありませぬかな? ふふっ、思い当たりすぎて、相手が特定できぬとあれば、このマルフレーサが王城の調査を請け負ってもよいですぞ」


「だ、だれが貴様なぞに……。不愉快だ。我が城のことは、我らで調べる。余所者の手を借りるつもりはない。もう得るべき情報は得た。城に戻るぞ!」


パウル四世はそう言うとどこか慌てた様子で部下たちを引き連れ、勝手に帰ってしまった。


この一幕をもって、第一回の≪救世会議きゅうせいかいぎ≫はお開きとなったが、最後まで残っていた者たちには、大神官カルバランにより当面の活動資金としての金貨が入った革袋が手渡された。

もし仮に協力してもらえなくても返還の義務はないことを申し添えて。


しかし、この会場に集まった英傑、賢者、学者など、すべての者たちの表情からは十分なほどの危機感が伺えており、この集会は大成功に終わったのだと俺は確信を抱いた。


誰だって死にたくはないし、大事なものを守りたいはずだ。



≪救世会議≫を終えて、彼らが帰っていく姿を見守っていた俺のところにウォラ・ギネとマルフレーサがやって来た。


「マルフレーサ、さっきは国王に対する発言、ありがとう。パウル四世もあれで尻に火がついて、世界の破滅を阻止する方向に動いてくれるといいけど……」


「なに、気が付いたことを思うがまま、発言しただけだよ。そんな事より、私に送って来た招待状。これはどういう意図か、説明してもらおうか。私の招待状には、随分と詳しく、私の出自だの、秘密だのについて書かれていたが、気持ち悪いね。どうやって、あのふみに書かれている内容を知った?」


「儂の一子相伝のムソー流杖術についても非常に詳しく書かれていた。元弟子のグラッドにさえ伝えていなかったことが詳細に、しかも秘奥義についてまでな」


「二人ともごめんなさい。どうしても力を借りたくて、二人の招待状だけは俺が自分で書いたんだ。手紙にも書いてたと思うけど、さっきの説明で、俺は未来から来たって言ったでしょ。もう色々と違うことやったから、展開が変わっちゃったんだけど、ウォラ・ギネは別の未来で俺の師匠だったし、マルフレーサとは同棲してた」


「なんだと、このババアと同棲? お前ずいぶんと玄人好みの性癖をしておるのだな」


「誰がババアか、この童貞爺め!まったく久しぶりにあったというのに口が悪い」


「お互い様じゃ。童貞言うな。まったく、人が気にしていることを……」


「まあまあ、二人とも。そういうわけで、もし良かったら二人には俺と一緒に行動して、俺が至らない部分をできればサポートしてほしいんだ。正直言って、何が何やらわからないだろうし、俺のこと疑わしいって思ってるかもしれないけど、俺は二人の実力を把握してるし、信じられる仲間だと思ってる。この通り、お願いします」


「まあ、私の本当の姿だけでなく、お気に入りの勝負下着の色と柄まで知っていたようであるから、同棲の事実は、信じないわけにはいかないが、私はもはや隠棲した世捨て人の身、このような世界の危機に対してどれほどの力になれることやら……」


「儂は、おぬしに付き合ってもよいと考えておるぞ。どうせ、暇だしな……」


「ギネ、お前らしくないな。『勇者だの、世界を救うなどくだらん』と言って、パーティ解散を決めたのはそなたではなかった?」


「それは、今も変わらずそう思っとる。儂のように老い先短くなると、未来だの、世界だのどうでもよくなるのだ。だがな、別の未来で儂自身が育てた弟子と、完成されたとこやつが招待状に書いてあったムソー流杖術には大いに関心がある。すべての欲を捨て、この杖術の究極に至ろうとした儂がついに完全発動はできなかった三大秘奥義もこの目で見てみたい。そのためなら、残るすべての余生をこの若者にくれてやっても善いかなと思ったわけだ。マルフレーサよ、おぬしもあんな寂しい森の中で、この世の終わりを迎えてもいいのか? せっかくこうして再びあったのだ。しばらく、このユウヤに付き合ってやっても良いのではないかな? 儂も実は久しぶりにおまえの顔が見れて懐かしかったし、うれしかった。新生≪世界を救う者たち≫を儂ら三人で再結成するのも良いのではないかと思えるほどにな」


「……まあ、いいだろう。森での暮らしにも少し飽きが出てきていたところだった。だが、別の未来の私を知っているというなら知っていると思うが、私はとても気まぐれで、わがままだぞ。嫌になったら、すぐにでも隠者の森に帰らせてもらう」


「大丈夫。そう言いながら、こっちが逃げてもどこまでも追いかけてくるぐらい執念深くて、情けも深いでしょ。二人とも、どう考えても怪しげな俺の申し出を受けてくれてありがとう。世界の破滅、俺たちで何としても回避させよう。どうか、よろしく頼むよ」


俺は、ウォラ・ギネとマルフレーサの手を取り、改めて協力してくれる事への礼を伝えた。


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