第184話 みんなを信じて
「イチロウさんだっけ? 悪いけど、あなたじゃ、俺には勝てないよ。俺はもう追放されたころの俺じゃない」
その立ち姿、構え、呼吸、そして≪理力≫の大きさと動き。
ムソー流杖術を極めた俺には、目の前のサムライかぶれが完全に格下であることが一目でわかった。
「何を~、生意気な……。≪
イチロウは青筋を立て、目を吊り上げた凄まじい形相と甲高い声で、俺の頭部めがけて刀を振り下ろしてきた。
峰打ちでも、普通は頭をやられたら命に関わると思うんだけど……。
俺はそのスローで、大きな面打ちを白刃取りチャレンジで対応してみることにした。
杖を出すのが面倒くさかったのだ。
「ほい!」
両の手の平で合わせるように挟んで、迫る刃を頭上で止める。
「にゃにぃー! 白刃取りだとぉ」
えーと、この後どうすればいいんだっけ?
刀を取り上げたらいいのかな?
「えいっ」
俺は両手で挟んだ刀を、力に任せに自分の方に引き寄せてみた。
時代劇とかではどんなふうにしていたか、たいして見たことが無かった俺は強引に武器を取り上げる選択をした。
すると、ボクッ、ブチブチッと、どこか鈍くて間が抜けたような音がして、容易く刀を奪うことに成功できた。
イチロウは何が起きたのかまだ理解できていないようだったが、俺は自分でやったことでありながら、思わずぎょっとしてしまう。
イチロウの両肩が変形して、前側にだらんとぶら下がったように長くなり、なんとも不気味な見た目になっていたのだ。
刀は武士の魂。
よっぽど奪われたくなかったのか、彼は相当に強く握っていたらしい。
それを俺が力一杯に引っ張ったものだから、両肩が引きちぎれて脱臼してしまったようだ。
「あぁあああー!私の肩がー。動かない、まったく動かせないぃー」
ワンテンポ遅れて、イチロウが絶叫し、地面に倒れ込んだ。
その場に居合わせた誰もが驚きのあまり固まってしまっていた。
俺は何だか悪いことをしてしまった気がして、取り上げた刀をイチロウの傍において、「わざとじゃないよ。ごめんね」と声をかけた。
「今のを分かる人が見たらわかると思うけど、俺は強いよ。念のために、これを見てほしい。ステータス・オープン!」
名前:
職業:セーブポインター
レベル:45
HP:832/832
MP:509/509
能力:ちから65、たいりょく65、すばやさ65、まりょく44、きようさ65、うんのよさ65
スキル:セーブポイント
≪効果≫「ぼうけんのしょ」を使用することができる。使用時は「ぼうけんのしょ」を使うという明確な意思を持つことで効果を発揮することができる。
スキル:場所セーブ
≪効果≫任意の場所を三か所までセーブできる。「場所セーブ」を使うと≪おもいでのばしょ≫の一番から三番まで指定してセーブが可能。セーブした場所はロードすることによって、いつでも訪れることができる。仲間など、視野内の認識可能な複数対象にも効果を及ぼすことができる。使用回数制限なしだが、対象人数に応じてMPを消費する。
解放コマンド:どうぐ
≪説明≫自らに占有権があるアイテムを≪どうぐ≫の中に収納できる。「コマンド、どうぐ」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。所持数制限なし。使用回数制限なし。
解放コマンド:しらべる
≪説明≫対象のアイテムがどのようなものなのか調べることができる。「コマンド、しらべる」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。使用回数制限なし。
解放コマンド:まほう
≪説明≫下記の≪まほう≫を使用できるようになる。対象を決め、その≪まほう≫を使用するという確固たる意志を持つことで発動可能。各≪まほう≫に応じたMPを消費する。
≪まほう≫一覧
≪
たぶん、≪
能力値の数字が、確かな強さの指標になっているこの世界ではこうして自分の目で見てもらった方が話が早い。
「HPが800越え! MPも500台だと?」
「無職が……ありえん」
「能力値も軒並み、俺の二倍はあるぞ」
「……人間じゃない。これなら異世界勇者だという話も、≪
「これならスキルなど必要ないかもしれん。というよりもこの能力値の異常な高さこそが異能と呼べなくもない気がしますわいな……」
拡大してないので、この会場にいるすべての人たちに見えたわけではないと思うが、それでも俺のステータスボードを目の当たりにした人々はその驚きを隠せなかったようだ。
すぐ間近で見た国王一派もまた同じ反応で、パウル四世は口に手のひらをあて、指をくわえて震えている。
「き、貴様! この私を騙したのか。召喚直後の貴様はまさに無能の極み。救いようのないカスだった。それが……なぜ……」
「騙したわけじゃないよ。その頃の俺は、この世界でもまさに最弱だったと思う。だけどレベルが上がって、すべてが変わった。みんなもこれでわかってくれたと思うけど、この強さの俺が世界の滅亡だなんて嘘を吐くメリットが何もないんだ。誤解を恐れずに言えば、この場に居る全員、いや世界中の人間をおそらく俺は時間がかかってもいいのであれば一人で皆殺しにできる。そんな俺が、どうしてこんなみんなを無駄に混乱させるような予言を言わなきゃならなくなったのか。それは、この話が本当に現実に起こるからなんだ。信じてほしい。そして、ここにいるみんなの力を貸してほしい。世界の滅亡まであと900日とちょっと。このままじゃ、今がどんなに恵まれていて、幸せな人生を送っていても何もなかったことになってしまうんだ。みんな死んで、大事な人も、資産も、名誉も何もかもが消える。そんなの、みんなだって嫌でしょ?」
俺の言葉を、みんなが真摯な表情で黙って聞いてくれていた。
そして静かに頷く者、天を仰ぐ者、反応は様々だったが、みんなに世界の破滅を何とか回避させたい俺の気持ちが伝わったという手ごたえはあった。
「ちょっと、待ってくれ。お前の現状の強さと、言い分はとりあえずわかった。だが、知りたいのはその世界の破滅とやらが本当に間違いなくやって来るのかということなのだ。私とて、愛しい我が子タクミに王位を無事に譲るその日が来るまでは、あの子を養い、この国をより強く、より豊かな国にする責務がある。だが、ここにいる皆も知っての通り、現在、我が国は魔王勢力と交戦中だ。多くの犠牲と引き換えに召喚した異世界勇者たちによる魔王討伐隊は魔王領への境すら越えることができず解散を余儀なくされたし、今後はその劣勢を撥ね退けねばならん状況だ。世界の破滅に備えるために方針転換をするとなると、我が国は多大な損失を被ることとなる。万が一、お前が言うその破滅が起きなかった場合、間違いでしたではすまされんのだ」
パウル四世は床で転がっているイチロウを足で
配下の者たちが慌てて、頭と足を持ち、イチロウをどこかに片づける。
「信じてもらえないなら、無理強いはしないよ。強制するつもりも、俺が上に立って、みんなを指図する気もないんだ。俺はこの通り、人並み以上に強くなったけど、世界を救う知恵は持ち合わせていないし、正直、途方に暮れてる。だから、俺に無い知恵やアイデアをここにいるみんなに借りたくて、こうして集まってもらったんだ。ひとり、ひとりが破滅を避けようと考えて行動してくれたら、きっと世界を救える……そう信じてね」
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