第176話 運命の出会い?

「ちょっと、待って。それって、つまり……、どういうこと?」


俺がこの異世界に来た日を0日目とすると、この1ページ目がそれに当たるわけで、998ページは997日目ということになる。

998ページの内容を見ても、やはりこの日、ムソー流杖術の第十八代継承者として認められたことが記されているし、あの未曽有の大災害が起こったことも書いてあった。


「ねえ、全部で999ページって、なんか中途半端な感じがしない? 最後のページは≪ポイント交換リスト≫でおまけみたいなものだし、日記帳的なものだと考えても998日分しか書けないなんて不親切だよね。なんで、キリが良く1000日分じゃないんだろう?」


「そんなに気になるなら、最初のページを0日目ではなく1日目と考えればよいのではないか?」


「それでも998日分じゃん。総ページ数を1000にするか、もしくは記録できるページを1000日にするか、揃えた方が良かったんじゃないのかな。ねえ、妖精のおじいさんは、何か知ってるんじゃないの?」


「知らん! 吾輩は自分の名すら思い出せず、なぜ自分がここにいるのかさえわからんのだ。そんなこと知っているわけが無かろう」


「はあ……、そりゃそうだよね」


「それにページ数などこの際どうでもいいではないか。とにかく大事なのはこの先おぬしがどうするかだろう」


「まあ、ロードするしかないよね。記録できる日、つまりセーブできる回数に限りがあるってわかっただけでも収穫あったよ。ますます今後は考えてセーブしなきゃね」


「そういうことになるな。では、さっさと旅立つがいい。吾輩は忙しいのだ」


そういうと妖精の爺さんは、立派な無垢材の茶箪笥の下の引き出しから、キャットフードの袋を取り出した。


どうやら飼っている三匹の猫のご飯の時間らしい。




ぼうけんのしょ3の「はじまり、そして追放」をロードした。


例のごとく、城から追放された俺は、呆然とした様子の衛兵二人を尻目にその場を離れた。


とにかく学生服は目立つし、この異世界にあった身なりと相棒のザイツ樫の長杖クオータースタッフ、それと下げ鞄や外套など必要と思われるものをその売却代金を元手に買い揃えた。


「さて、これからどうすればいいのかな……」


来たる997日目の世界の破滅カタストロフィ


あれがいったい何に起因するものなのか、俺はその原因をまず突き止めなければならない。


そうしなければ、どんなにかわいい彼女ができて、ハッピーな毎日を過ごせるようになったとしても、全部が無駄になってしまうからだ。


俺は、平穏そのものの通りの様子を眺めながら、あの終末のような未来の景色を思い出した。


激震する大地。地上のすべてを焼き尽くさんとする猛火。木々を薙ぎ倒す衝撃波と

突風。そして得体の知れない黒い閃光。


あと、あれだ。

血のように燃える赤色と夜を呑み込んでしまえそうな漆黒が入り混じった空に光る物体がいくつかあって、それらがぶつかり合うたびに、地上はその余波を受けて、大きな被害を受けていたように思えた。


「あの光る飛行物体が、天変地異を引き起こしていたのかな?」


光る飛行物体といえば、最初に浮かぶのはUFOユー・エフ・オーである。

もしあの激しくぶつかり合う光たちが宇宙などから飛来した未確認飛行物体であったと仮定するなら、この星が宇宙戦争か何かに巻き込まれたみたいな感じだったのだろうか。


そうであるならば、スケールがでかすぎて俺にできることはない。

俺が何をしようが、そんな規模の戦いの発生に影響を与えるとは思えないからだ。


あとは、あの光が飛行物体などではなく、プラズマや雷などの自然現象的なものだった場合だ。


その場合も俺にできることはない。


俺は学者ではないし、高校の教科書レベルの科学の知識でそんな惑星規模の大災害の原因なんか突き止められるはずがない。


「ふぅ、あきらめるか……」


そう呟いた俺に何か柔らかくて、良い匂いのする何かがぶつかってきた。


「きゃっ」


どうやら考え事をしていて、周囲に意識がいってなかったらしい。


目の前には十代半ばくらいの小柄な少女がいて、俺は無意識にそれを受け止めていた。


「大丈夫? ごめん。俺ちょっと考え事しててさ」


「あっ、はい、私の方こそ、すいません」


少女は目をほとんど閉じたまま、顔を上げた。


「君……、ひょっとして目が?」


「ええ、すいません。それであなたのことに気付けなくて。ごめんなさい」


少女の足元を見ると、俺が使う長杖よりも細くて短い木の杖が落ちていた。

俺はそれを拾うと、少女の華奢な手に持たせてやった。


「怪我とかないよね。もしよかったら家まで送ろうか?」


「いえ、家は近くなので大丈夫です」


「でも、目が見えないと大変でしょ。ぶつかったお詫びに、せめて家まで送らせてよ」


「とても親切な方なのですね。でもわたし、リーザさまの教会と家を毎日往復しているので、大丈夫ですよ。目が見えなくても、こうして杖を使えば、道に迷うこともありません」


「そっか……、すごいね。俺にはとてもできそうにないや。俺はユウヤっていうんだけど、君、名前は?」


金髪なので、ゼーフェルト人なのかな?

服装を見ると、なんか良いところのお嬢さんという感じで、見た目も可愛いから、一応名前聞いておこう。


出会い方からして、これが運命の出会いかもしれないからね。


「私は、フェナといいます。そうですか、あなたのお名前はユウヤさんとおっしゃるのですね。姿を見ることはできないけど、声の感じからすると私とそれほど歳は離れていない感じがします」


「本当にすごいね。そんなことまでわかるんだ。そうだね、たぶん俺の方が少し年上かも。でも、そんなには違わないと思うよ」


「……ユウヤさん、あなたは女神様を信じますか?」


あなたは女神様を信じますか?


あなたは女神様を信じますか?


あなたは女神様を信じますか?


えっ、この会話の流れでいきなりどうしたの?


フェナの顔は真剣そのもので、冗談で返していいような雰囲気ではない。


ヤバい。この娘、ひょっとしたらガチ信者とかそういう感じなんだろうか。

ふだとか、水晶玉とか、謎の霊水とか売りつけられたりしないしないよね。


「……ああ、えっと、信じてるよ。も、もちろん! でも、いきなりどうしたの? 」


「ご、ごめんなさい。リーザ教団では、今、新規教団信者を絶賛募集中で、勧誘した信者の数によって、信者としてのランクが昇格するキャンペーン中なんです。私、この通り、目が不自由でしょう。なかなか勧誘がうまくいかなくて悩んでいたんです。信者ランクが上がれば、僧侶になるのは無理でも、教団勤めのシスターにはなれるかなと思って……」


そっか、教団信者募集してるってことは、リーザ教徒イコール教団信者ってわけじゃないんだ。

ということは、他にもそういった宗教団体とか宗派とかもあったりするのかな。

一番、メジャーな団体がリーザ教団という理解であってるだろうか?


「へえ、なんかずいぶんと世俗的なんだね。でもなんだって、そんなにシスターとやらになりたいの? 」


「それは……。私、また元の通りに、この目を見えるようにしてほしくて、それで教団に入信したんです。一般信者から、シスターの位になれば大神官様やそのほかの高位司祭の皆様のお近くでお仕えすることができますし、そうすれば直にこの目を治していただけるようにお願いできるのではと、浅はかな望みを持ってしまったのです。本来、高位の聖職者の方々の、すべてを癒すと言われる最上級回復魔法を受けるにはそれはもう多額の寄付が必要です。私の父も商売で得た利益から、私の目を治そうと多額のお布施を続けてくれていますが、その目標額には到底及びません。私はこれ以上、父の負担にならないように自分の力でこの目を治していただけるようにお願いしてみようと、まずはシスターを目指しているのです。ユウヤさん、もしよろしければ入信していただけないでしょうか。この通りです。お願いします!」


「はあ……、そうなんだ」


なんか一気にテンション下がっちゃったな。

これはやっぱり運命の出会いではないかもしれない。


ただの宗教の勧誘だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る