第169話 頼もう!
「頼もーう!頼もーーう!ウォラ・ギネー!いるんでしょ?どうせ暇なんだろうし……、絶対、居るよね?」
チャイムもないし、こんな時、どうやって中の人を呼んだらいいかわからなかったので、なんか時代劇とかでよく見る掛け声を使ってみた。
かつて師匠であったウォラ・ギネが住んでいるスッヒルパッドゥは、相変わらず殺風景な場所で、入り口にある巨石には、「来客者お断り。ただし、要相談」と文字が彫られていた。
王都で例のごとく愛用のザイツ樫の
リーザイアでの女神ターニヤやカミーロがらみの問題で、人生をそこでリセットしてしまったために俺の修業は、まだ途中だった。
いくつかの奥義ともいえるような技は教えてもらったが、≪
備わったパワーとスピード、それと≪理力≫を効率良く、かつ最大限に生かす術を学べば、まだまだ強くなれる確信が俺にはあった。
当たり前のことだが、向こうは俺のことを覚えていない。
まずは最初の印象が大事なので、俺なりに工夫して「頼もう」という呼びかけを使ってみたのだが果たしてどうだろうか。
年寄りはだいたい時代劇が好きだし、この異世界でも感性的にはマッチするんじゃないだろうか。
「キエーッ!」
突然扉が開き、中からウォラ・ギネが飛び出てきたのも束の間、ものすごい勢いで殺意のこもった長杖の突き技のラッシュを繰り出してきた。
俺はそれを自分の長杖と、ムソー流の身体の防御技術をうまく使って往なし、飛び退って「待った!」と声をかけた。
「ほう、今の連撃を防ぐか。小僧、なかなかやるようだな」
「なかなかやるようだな、じゃないよ。なんで初対面の人にいきなり襲い掛かって来るかな……」
前の時もいきなり攻撃してきたし、やはりヤバい爺だ。
もし、これが普通の行商人とかがセールスに来たとかだったら、とんでもない大怪我をしているところだろう。
今回はマルフレーサから教わった≪理力≫の抑制方法を使ってたから、俺の存在はそれほど目立っていなかったはずだし、一般人並みに抑えていたつもりだった。
例えるなら、以前はズボンのチャック全開で中のものを露出したまま歩いていたようなものだったが、今はそれが中に納まり、ちゃんとした紳士のたたずまいだったはずである。
つまり、今の俺は強者のオーラを出してない普通の人を装っているわけで、要らざる警戒心をウォラ・ギネに与えてはいないと思うのだが……。
「ふん、朝っぱらから道場破りに来るような輩にそんな説教受けたくはないわ。「頼もう!」というのは、我ら武の道に生きる者の中では「一手、お手合わせを頼もう」という意味があるのだ。人がくつろいでおるところにそんな剣呑な掛け声をかけてきたのだから殺されても文句は言えまい」
「あれって、そう言う意味だったのか、知らなかった。ごめんなさい」
「まったく近頃の若い者は常識を知らぬから困る。それで、一体、儂に何の用だ。見たところ、かなりやるようだが、その杖術は誰から学んだ?」
「いや、誰っていうか、その……」
「ふん、言いたくないか。まあ、言わずとも察しはつく。我がムソー流の技を知る者はこの世に二人しかおらん。儂と、あとは元弟子のグラッドだけだからな。何人かには≪理力≫の扱いや初歩の手ほどきをしたが、長杖をこれほどに扱えるように指導するとなるとグラッドしかおらん。お前が手に持っておるザイツ樫の長杖、それは儂が作り、グラッドに別れの選別として送った物だ。この世に二つと無い」
「厳密には違うんだけど、まあ、そう言う事でいいや。そんなことより、ウォラ・ギネ、お願いがあります。俺にムソー流杖術のすべてを授けてください。この通りです」
俺は、その場で土下座し、教えを乞うことにした。
人生でたぶん初の土下座だ。
こんな真似をしてでも、俺は強くなりたい。
魔王に殺されないくらいに強く。
そして、誰にも俺らしい人生を乱されない程度に強く。
「それは、ムソー流に古くから伝わる礼式のひとつで、座礼の最敬礼「ニホンシキ・ドゲザ」!それはグラッドにも教えておらん。なぜ、それをお前が……」
「この通りです。お願いします」
「……不思議な若者よ。なぜ、それほどまでにムソー流杖術を求める? 」
「……強くなりたい。負けたくない相手がいるんです」
「求めるのは力か……。近頃では見栄えの
「突かば槍 、払えば薙刀、持たば太刀。杖はかくにも外れざりけり!」
これは、別の展開の人生でウォラ・ギネから教わったムソー流の始祖の言葉だ。
今の俺はとにかく早く認められて、早く強くなりたかった。
ウォラ・ギネは、この言葉を聞くと両目を刮目し、驚きを押さえようとでもするかのように顎を触った。
「驚いたな。どう考えればいいのか、やはりお前はグラッドの弟子ではないかもしれん。どういうことなのか……まあ、そこはおいおい聞くとして、お前が負けたくない相手とは誰だ?」
「…………魔王」
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