第168話 強くなりたい

気が付くと俺は、記帳所セーブポイントの部屋に戻って来ていて、真新しい匂いのする畳の上で這いつくばっていた。

焼死した時のリアルな苦しさや苦痛の余韻がまだはっきりと脳に残っている様な状態で、呼吸が乱れ、涙目になっている。


落ち着け、落ち着け。

大丈夫、俺は死んでない。


深呼吸をしながら、激しく波打つ鼓動が平静を取り戻すのを待つ。


「今回は、ずいぶんと酷くやられたな」


記帳所セーブポイントの部屋に住み着いている妖精のおじいさんが無表情のまま、声をかけてきた。


「そうだね。過去一の苦しさだったかも。生きながら、じわじわ焼かれるってこんなに苦しいんだね」


「ふむ、あまり善い死に方ではないな。吾輩はそういうのは御免こうむりたい」


「はあ。……ねえ、今回はいったいなんでうまくいかなかったんだろう」


「さあな。それは吾輩の知ったことではない。自分で思い当たる節はないのか?」


「俺って、けっこう強くなったし、この異世界のこともだいぶ分かってきたと思ってたけど、前回のリロードからたった百日も経ってないのに死ぬってありえなくない? 」


「実際に殺されたのだから、あり得るのだろう。吾輩からは特に言うべきことは無いが、胸に手を当てがって考えれば、理由が見えてくるのではないかな。とにかく、そう言った大事な問題をすぐ安易に人に尋ねるのは感心せんな」


胸に手をあてがってか……。


今回はまずあのマルフレーサと知り合ってしまったことで、すごく楽しくて幸せだったけど、次第に勇者としての名声が高まってしまい、それが結果、魔王との対立につながってしまった気がする。


俺は別に勇者になんかなりたくなかったし、有名にもなりたくはなかった。


気ままに、面白おかしく生きていられたらそれでよかったのになんでこんな結果になっちゃったんだろう。


「マルフレーサ……」


不思議なことに思い出されるのは楽しかった思い出だけ。


でも、やはりどこか価値観に相違があった気がする。


マルフレーサは、根っこの部分では割と功名心が強くて、贅沢な暮らしも嫌いではなかったから、一緒に生きていくにはかなり頑張ってお金を稼がなければならなかった。

真っ当な方法で、大金を稼ごうとするとそれが権力者に近づくことになってしまい、失敗を引き寄せる原因の一つにはなってると思う。


……いや、違うな。

今回の自分の死をマルフレーサのせいにするのは間違ってる気がする。


俺が魔王に負けて死んだのは、単純に俺が魔王よりも弱かったからだ。


俺の方が強ければ、あのまま魔王を倒して二人を救うことができたはずだ。


力が欲しい。

自分の主義主張を貫けるだけの力が。


「どうするのだ。そんな所でうじうじしてないで、どうするかをさっさと決めぬか。吾輩も暇ではない。よもや、ここで全部諦めてしまうわけではあるまい? お前自身が諦めてしまえば、それこそ本当の死が待っている。お前が善いなら、それでも吾輩は構わぬが……」


近くを歩いていた三毛猫を抱っこして、妖精のおじいさんが言った。


俺の目にはヒマそうに見えるけど、妖精のおじいさんはどうやら忙しいらしい。


まだ一人反省会の途中だったが、俺はぼうけんのしょ3「はじまり、そして追放」を再びロードした。


また一からのリスタートだと思うと本当にウンザリしてくる。




「ぐあっ、いきなりなんだ!」

「貴様、抵抗する気か?」


「自分の足で出ていくから、ここまでで良いよ。ご苦労さん」


俺の両腕を掴んでた兵士たちを一瞬で振りほどき、俺は城門から外に出た。


そうだ。

力さえあれば、こうして他者に振り回されることなく、自分の意志で自由に生きていける。


単純に強くなるだけなら、セーブポインターである俺は、まだこれまででセーブしていない日に、≪ぼうけんのしょ≫に現状を記録することでレベルアップすることができる。


だが、セーブできるのは暦の上での、一日一回。

やり直す前の人生でセーブに使ってしまった日はもう新たにセーブすることはできない。

強さと引き換えに人生をやり直す分岐点と可能性を失うことになり、それが嫌であえて今回はセーブを控えていたのだ。


俺はこの異世界に住む他の人たちのように魔物を倒してもレベルアップできないので、今よりもステータスを上げるにはどこかの日でセーブするしかない。


魔王と戦ってみた感じでは、スピードはほぼ互角だが、もう少し力を上げ、技の威力を高める必要がありそうだ。


あと数回はどこかでセーブをして、レベルアップによる能力上昇を図り、その上で他に俺にできることは……。


「あった!レベルアップ以外で俺がまだ強くなれる方法が!」


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