第165話 御破算
「帰る方法がある……。そっか、そう言えば、あのパウル四世とかいう王様も「魔王を倒して、その体の中にある特別な魔石を手に入れれば、帰れる」みたいなこと、言ってたような気がする」
「ははっ、あの王は、今度はそんな嘘をお前たちに吹き込んだのか」
「嘘?」
「そうとも。私の体の中にはそんな魔石は存在していない。何より次元を超えて、異なる世界に移動させることなど、神以外にできるはずがない。しかも、あの女神リーザと同等、いや、それ以上の神でなければな」
「ふーん。つまり、それをお願いできる神様のあてがあるってことなのか。あのカメクラとかいう人が聞いたら喜びそうな話だね」
「カメクラ……。ああ、君と一緒にこの異世界にやって来たという男か。どこか、昔の私に重なって、気にかけていた。なんとか仲間に引き入れたかったが、少し遅かったな。彼は今、パウル四世の囚われの身だ」
驚いた。
カメクラが捕まった話もそうだが、この魔王が遠く離れた王都の状況を把握していることに。
「助けだそうにも、こちらが把握していなかった新たな異世界勇者が存在していてね。こいつがなかなかに厄介そうなんだ。すっかり予定が狂ってしまったし、もう一度、計画を練り直す必要が出てきてしまった」
「計画ねえ……」
ハーフェンやバレル・ナザワなどに魔人たちを派遣して、こそこそやってたあれもその一部なのだろうか。
「私に協力してくれると約束してくれるまでは、詳しく言えないが、とにかくあの連中の異世界勇者を呼び出す手段を取り上げなければ、我らのような犠牲者が次々と生み出されてしまう。異世界勇者の出現先があの城である以上、まずはあそこを落としたかったのだが、困ったね。……なあ、ユウヤ君。君も元の世界に帰りたいだろう。どうか、それを条件に、私に手を貸してもらうわけにはいかないだろうか」
「あ、あの!すいません。我が国、ヴァンダン王国と手を組むという話はどうなるのでしょうか?」
突然、話に割り込んできたマリーに、魔王は一瞬、苛立ったような表情をしたが、すぐに笑みを浮かべ直した。
「ああ、ヴァンダン王国ね。いいよ。君の国には恨みもないし、それにあの天竜山脈の竜たちを敵に回すのは私としても避けたいところだった。魔界の神が創造した魔竜と異なって、あの竜種たちは魔物ではないからね。魔物であれば私は直にコンタクトさえできれば思いのままにできるんだが、彼らはそうはいかない」
「それじゃあ、両国の間の密約は成立したと考えていいんですね」
「ああ、もちろんだ。ゼーフェルトがヴァンダンを攻めたら、我らがゼーフェルトの背後をつく。その代わり、ゼーフェルトが魔王領を越えてくるようなことがあった場合は、君たちには天竜山脈を越えて援軍に来てもらうか、同様に国の境を侵してもらうという条件でいいね」
「はい。ありがとうございます。これで、胸を張って、国に帰れます!」
「国に帰る? いや、それはできないよ。この密約の担保として、君にはこの魔王領に残ってもらう」
「それは、話が違うぞ! そのような条件は言っていなかったではないか」
マルフレーサが声を荒げた。
なんか、本気で焦っているようだ。
大賢者って割には、誤算が多すぎるし、だからいつもトラブるんだよ。
「マルフレーサ、君もよく知っているだろう? 人間は、よく平気で嘘を吐く生き物だ。私がこの異世界に呼び出された時は、あの王はこう言った。「世界征服をたくらむゴーダという国の王を倒す手助けをしてほしい。あの王は悪逆非道の限りを尽くし、悪政で民を苦しめ続けている。正義のために、その力を貸してほしい」とな。そして、君たちが慕う勇者マーティン。彼もまた、私と同じ被害者だ。私を殺すためにあの男がついた嘘を鵜呑みにして、この魔王領にやって来た。そして、あの男がやって来なければ、ディアナも死ぬことは無かったんだ。私はもう人間というものが信じられない。この娘にはここに留まってもらう必要があるんだよ」
「そんな……」
誰もが恐れる魔王領に自分一人が残る。
おそらく自分でもこの展開は想像していなかったのだろう。
マリーは蒼白になり、無意識に指を口元に寄せて歯を震わせている。
「……ねえ、さっきの話だけどさ。断るよ。俺は、あんたに協力しない。マリーも、マルフレーサも無事にこの魔王領から連れ帰る」
「それは、どういうことなのかな?」
「この話はもう無くなったってこと」
「ハハッ、この期に及んでそんな子供のようなわがままが通ると思うのか? これは国同士の命運がかかった話なのだ。そんなに簡単に撤回できるようならば、ヴァンダンもこの魔王にそのような話を持ち掛けては来なかっただろう」
「それは、その通りだろうね。でも、そんなの俺には関係ない。俺がこの話を御破算にする。魔王、いや
「貴様……、この私が、あの大噓つきと同じだというのか!」
魔王の顔色と表情が変わった。
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