第162話 はるばるきたぜ、魔王領
「ねえ、あなた。私とそんなに歳、違わないわよね。一体どこでその強さを身に着けたの? 」
「……」
「師匠とかはいるの?」
「……」
「えっと、 その長い杖みたいな武器、珍しいわよね。流派とか、あるのかしら……」
「……」
天竜山脈の麓ちかくまで、竜騎士たちの飛竜に乗せてもらって、そこからは徒歩で歩いた。
帰りは
だが、それを使うかは状況次第。
信頼ができない人間の前では使う気はない。
長距離を一瞬で移動できるこの能力は悪用すれば軍事利用もできちゃうし、それを知った何者かが悪巧みしないとも限らないからだ。
「ちょっと! 何でさっきから私のこと無視してるのよ。何か、怒ってるの?」
「いや、普通は、頭に剣を刺されそうになったら、怒るでしょ。それに、俺はあれこれ詮索されるの嫌いなんだよね」
「器の小さい男ね。さっきのこと、まだ根に持ってるの? ……わかった。悪かったわよ。謝るわ。ね、これで水に流しましょ」
「いいよ。でも、悪いけど、さっきみたいな質問には答える気はないから」
「なんでよ!秘密にする意味ある? これから当面は仲間になるわけでしょ。互いの長所短所を知っておかないと、連携とかとれないじゃない!」
「……仲間じゃないよ。マリーは、護衛される人。俺たちは護衛する人だ。連携なんか必要ないよ」
「何言ってるの? 私は自分の身くらい自分で……」
マリーは気付いていないが、先ほどから俺たちの上空を様子を伺うようにして飛ぶ何かがいた。
丸い球体に羽が生えたような見た目。
名前は知らないが、たぶん魔物だろう。
せわしなく動かしている羽音が、俺にはさっきから耳障りだった。
ブランカは俺よりも早くそいつの存在に気が付いていて、目線で俺に知らせようとしていた。
その何かが突然、マリーの頭めがけて飛んできて、胴体にある大きな口をパックリと開いた。
口の中からは尖った触手のような舌が伸びてきたが、俺は、長杖を素早く構え、その何かがマリーに触れるよりはやく≪
「きゃっ!」
マリーは俺のとっさの行動に驚き、頭を抱えてかがんだが、地面に落ちてきた魔物を見て、二度驚いていた。
「ふむ、≪
マルフレーサは特に驚いた様子もなく、マリーが立つのを手助けした。
見るとマルフレーサの持つ杖の頭の部分に大小四つの青白い光の玉が浮かんで旋回しており、何かに反応してか、それぞれの玉が大きくなったり、小さくなったりを繰り返してる。
「マルフレーサ、それ何?」
「ああ、これはいわば魔力による魔物探知機のようなものだ。接近してくる物体に反応し、その色や動きの変化で敵の有無を知らせてくれる。私に危害を加えようとした相手に対しては自動防御膜の働きもする。まあ、それほど強力な備えではないが、気休め程度にはなる」
「ズルいな。そんなのがあるなら最初から言っておいてよ」
「ふふ、おぬしやブランカには必要ないだろう。それに私のこの≪
マルフレーサに立たせてもらったマリーは少し呆然とした様子で、俺たちのやり取りを見ていた。
天竜山脈の麓の森を抜けると、そこは拓けた平野になっていて、その向こうにはなだらかな丘陵が続いていた。
「ここが魔王領か……」
何か思っていたような雰囲気とは異なり、とてものどかで眺めのいい場所だった。
かなり遠くに離れた場所に立っていた一つ目の巨人と目が合った気がしたが、その巨人はまるでヤンキーと遭遇してしまった一般生徒みたいな感じで慌ててどこかに行ってしまったし、角を生やした四つ足の魔獣の群れが地平線の向こうから出てきたと思ったが、それらも急に進路を変更し、どこかに消えてしまった。
見渡す限り魔物の姿は無くなり、空を見上げるとようやく少し変な形の鳥などが飛んでいるのを見つけることができたが、別にこちらに向かってくるわけではなく、ただの動物だと思えば、それほど気にはならない。
さっき襲ってきた一匹のようにマリー狙いでくる個体だけ防げば余裕じゃないのかな。
「なんだ、魔王領って平和じゃん」
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