第156話 ドラゴンライダー

はるか頭上から落下してきたそのドラゴンと思しき生物は、地上の俺たちに向かってまっすぐ向かってきていると思われた。


だが、激突すると危惧した俺が長杖を構えたその直後に、その大きな翼を広げてブレーキをし、周囲に凄まじい風を巻き起こしながら、その場に留まった。


聖狼のブランカが上空を睨み、けたたましく吠えたが、往来にいた人々の反応はそれとは逆に好意的なものだった。


竜騎士ドラゴンライダーだー!」

「飛竜、やっぱりかっこいいなあ」


子供たちからもまるでヒーローに向けるような歓声が上がり、危険ではないと判断した俺とブランカは警戒を解いた。

マルフレーサは最初から敵の襲来とは思っていなかったようで、ニヤニヤしたまま、ビビって反応した俺たちを眺めている。

本当に底意地が悪いこと、この上なし。


背に誰かを載せているらしいドラゴンは、人々が着陸のための場所を空けたのを確認して、ゆっくりと大地に足をつけた。


深緑色の硬そうな鱗に、鋭い爪と歯。

その体躯は、大人のアフリカゾウほどは優にあるだろうか。

想像していたよりも大きくは無かったが、その二本の足で立つその姿は、まさに圧巻という感じだった。


今になって気が付いたが、リンディ・キャピタルの道が、王都に比べて途方もなく広いのはもしかして、このようなドラゴンが着陸しやすくするためでもあるかもしれない。

周囲の人々の反応を見ても、俺にすれば大事件と言っても過言ではないこの襲来を日常のことの様に平然と受け止めている。


「お姉さまー。マルフレーサのお姉さまー!」


大人しく伏せをしたドラゴンの背から、俺と同じくらいの歳の女の子が飛び降りてきて、マルフレーサが駆け寄ってきた。

赤毛のカウガールを思わせる服装で、短めのデニムスカートからすらりと伸びた長い脚とボーイッシュな感じの笑顔が眩しい。


降りた時に、ついパンツ見ちゃったけど、白だった。


「はて、記憶にないが、おぬしは誰だ?」


「ショック! 覚えてませんか? マリーです。ほら、ソフィアの娘のマリーですよ」


なんかすごいオーバーリアクションな感じで、何だか微笑ましい。


「おお、マリーか。大きくなったな。見違えたぞ」


「お姉さまはお変わりなく! 私は当時、九つだったから、あの森の素敵なお家でお会いしてからもう十年にもなりますね。おばあちゃんの変装はもうやめちゃったんですか? 」


「まあ、色々あってな。心境の変化という奴だ」


「その服、とっても似合ってます! 目立つから、上空から気になってよーっく見たら、お姉さまだったんで、急いできちゃいました。お母さまが、マルフレーサさまが来たことを知ったら、きっと大喜びしますよ。あの≪世界を救う者たち≫の一員として活動していた時期が懐かしいって、いつも言ってましたから」


「そうか。ソフィアはお前を身ごもってすぐに父親のロイと共にパーティを離脱したから、所属期間こそ長くは無かったが、たしかにあのころが一番楽しい時期であったのは間違いないな。ロイの奴は、元気にしていたか? 」


「お父さまは……、お母さまとは別居中だけど、元気にしてますよ。なんで別居中になったか知りたいですか?」


「いや、そういうことに深入りするのはやめておこう。男女の間には当人同士にしかわからぬことがあるものなのだ。それより、私の連れを紹介しておこう。こっちがユウヤで、……ブランカのことは知っておるな」


「うわー。ブランカ、あなたもずいぶん大きくなって。あんなにぷにぷにの子犬だったのに! あ、ごめん。狼だった」


マリーは、俺には一瞬だけ視線を向け、ブランカを一生懸命、わしゃわしゃと触りだす。


おい、俺は無視かよ。







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