第155話 リンディ・キャピタル
「竜騎士の国」と呼ばれるヴァンダン王国の首都は、リンディ・キャピタルという名前なのだとマルフレーサに教わった。
このリンディというのは、この国の祖であるメアリー・ヴァンダーンの元の世界における
もともとは違う名前の都市であったらしいが、彼女の死後、その当時の人々が話し合ってリンディ・キャピタルに改めたという経緯があり、その町の名前が百五十年以上経った今もそのまま残っている。
いくつかの町や村を経由し、更に寄り道をしながら辿り着いたこのリンディ・キャピタルは、どこか西部劇の舞台を思わせるような街並みで、多くの人間と様々な種類の亜人が入り混じって生活していた。
国境の町バレル・ナザワ以上に騒々しく、そして活気があった。
洗練され歴史を感じさせるゼーフェルト王国の王都は、石造りの如何にも中世ヨーロッパ
そして、亜人という存在に慣れていない俺は、時折行き会う様々な容姿の者たちに、目を輝かせたり、ぎょっとしたりと表情を目まぐるしく変えていたようで、その様子をマルフレーサに笑われてしまった。
リンディ・キャピタルの都市を囲む城壁に設けられた跳ね橋のある城門をくぐる際には、越境許可証とバレル・ナザワの東西領主の添え書きが役に立った。
ヴァンダン王国は東側の国境を接する国々との領土をめぐる紛争を抱えており、間者などを警戒する理由から、都市入場の際には厳しく素性の確認を求められたのだ。
西のゼーフェルト王国とは相互不可侵の同盟を結んでおり、ここ数十年の関係は悪くはないらしい。
だが、かつては何度もヴァンダン王国に侵攻してきた過去があり、ゼーフェルト王国側からの越境者だとわかると複雑な表情をされてしまった。
ここに来る道中でも、どこか冷ややかな視線を向けられることが何度かあったのだが、この時になってようやくその理由がわかった。
今は敵ではなくとも、過去の侵略の歴史から、ゼーフェルトから来る旅人は歓迎されてはいないのだ。
そうした事情から、一目でゼーフェルト王国からの越境者だとわかる服装を何とかしたくて、俺とマルフレーサはリンディ・キャピタルの繁華街で服を調達することにした。
「……マルフレーサ、いくら何でも買いすぎじゃないか。どうして十着以上も買う必要があるのさ? もう、じゃらじゃらうるさいくらいに装飾品も身に付けちゃってるし、完全にみんなの注目集めちゃってるよ」
「
買ったばかりの
うっ、なんか、すごいセクシー。
スカートの丈が短く、つい露な太ももに目がいってしまう。
スタイル良いから、何を着ても似合うけど、褒めると調子に乗るから、ここはビシッと注意しなきゃ。
「いや、似合ってるけどさ。でも、初めて会った時と比べてどんどん派手になっていってないかな。その魔法杖もってなきゃ、とても賢者には見えないし、何よりそんなに貴金属をたくさん身に着けて、どこの貴族だよって格好だよ。もっと、こうさ、俺みたいに目立たない服装の方がいいんじゃないかな」
俺の方はというと、デニムっぽい生地のズボンにシャツ。
それに皮製の軽防具、長靴、コートといったこの往来でもよく見る感じの見た目だ。
しかも全部中古の寄せ集め。
マルフレーサの服装の購入代金と比べたら天と地ほどの差がある。
「ふふっ、貴族。結構ではないか。これから、この国の女王に会いに行くのだ。ふさわしかろう」
「えっ、そうなの?」
「ああ、せっかくヴァンダン王国の首都までやってきたのだ。会わない手は無かろう。それに言ってなかったが、この国の女王とは面識は無いが、その娘とは旧知でな。実は、≪世界を救う者たち≫の一員だ」
げっ。
また≪世界を救う者たち≫が出たよ。
なんか嫌な予感しかしない。
そんなことを考えていると、はるか頭上から何か大きなものが急降下してくるような音が聞こえた。
慌てて空を見上げるとそこには黒い点のようなものがあって、それがどんどん近づいてくるとその姿が次第に明らかになっていく。
翼を折りたたみ、頭部を先にして、まるで水泳の飛び込み競技の選手の様な勢いで落ちてくるその存在を表現する言葉を、俺は一つしか知らない。
ドラゴンだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます