第151話 ビンゴか!?

情報収集と事前準備にもう一日を費やした亀倉かめくらであったが、調べを進めていくにつれ、今が王城潜入の絶好の機会であることを確信した。


というのも、現在、城内では王太子の後宮を作るべくの大改修工事が行われていて、昼間は様々な職人や工人が出入りしているため、そうした者たちに扮すれば割と簡単に侵入することができそうな状況であったのだ。


常識ではありえないことだが、王太子の後宮は玉座の間がある四階と吹き抜けになっている五階を全面的に改修して作られるそうで、さらにその五階からしか出入りできない塔を作って、そこに集めた女性たちを住ませるのだという。


その塔は、「愛人形ラブドールの塔」とすでに名前が決まっていて、現在の進捗では基礎の工事が終わったばかりなのだという。


「何が愛人形の塔だ。趣味が悪い奴だぜ、そのタクミとかいう奴は……」


塔に使われる石材を運ぶ人足にんそくに扮装した亀倉は、資材搬入を監視する衛兵の目を盗み、首尾よく城内に潜り込むことに成功した。


城の一階は予想通り、様々な恰好、身分の者たちが行き来しているため、動きやすい平民服に着替え、ほっかむりをした亀倉が歩いていても、貴族などがやってきた際に、平伏して見せれば、特にとがめだてなどされない状況ではあったが、さすがに各所に衛兵が配置されていて、工事が行われている四階以上に行くための動線は厳しく限定されていた。


玉座の間と同じ階にある王の居室は、王太子のものとして造り変えられている最中のため、国王自身はその普段いる場所を違う階に移動しているはずである。

そして王太子の座についたというそのタクミという名の異世界勇者もまた工事中のエリアに居住しているわけはないので、捜索エリアが狭まっている分、出くわしてしまう可能性が高まってしまっている。


だが、亀倉が集めた情報によると、この新王太子タクミは悪評の塊のような人物で、しかもかなり変わった生活をしているとのことだった。

城の、それも限られた場所から一歩も出ることは無く、庭に出て太陽の光を浴びたり、散歩するなどは一切しないらしい。

そして、自らが指定した美しい少女の給仕に食事や欲する物すべてを運ばせ、許可していない人間が、一歩でもその部屋に足を踏み入れようものなら、烈火のごとく怒り出すそうなのだ。


亀倉としては、そのタクミの部屋を避け、国王の仮の居室まで行ければと考えていたのだが、それは案外、容易くできそうだと踏んでいた。


王太子タクミとそれを溺愛する国王に対して城の者たちの愛想尽かしが起きているのは、余所者である亀倉の目にも明らかで、城内の警備をする兵たちの士気は低そうであったし、四階以上にいる可能性を除外すれば、おそらくその居場所は三階であろうことはすぐに察しがついたからだ。


亀倉もまた短い期間ではあったがこの城に滞在しており、立ち入りを制限されていた四階以上よりも、むしろ三階以下の間取りの方が詳しい。


三階には、亀倉たちが寝泊まりしていた複数の貴賓室や客室などがあり、盛大な宴などを催す大広間ホールなどがある。

国王やその家族は、それらの貴賓室に移り、大広間は謁見などのまつりごとの場として代用しているのではないだろうか?


玉座の間や自分たちの居住スペースを召喚した異世界勇者に奪われるなど、まさに「庇を貸して母屋を取られる」という異様な状況なのだが、それがなぜ起きたのかなどを考察している時間は無いので、亀倉はそうした数々の疑問に蓋をして、今は自分が為すべきことに集中しようと、もう一度、心の中で兜の緒を締め直した。


あの王を取っちめて、元の世界に戻る方法を絶対に聞き出してやる。


亀倉は、工人の通路に指定されている階段を上り、三階に行くと、その通路から外れて、大広間に向かおうとした。


貴賓室などがあるエリアへは警備上の観点なのだろうか、この大広間の左側にある控えの間と通路を経なければ行くことができない間取りで、どちらにせよ、こちらに進むしかない。


「おい、貴様! そっちは違うぞ。戻れ!」


配置されている見張りの兵の呼び掛けを無視し、亀倉は駆けだした。


もうここまで来てしまえば、こっちのものだ。

強行突破で、一気にあの国王の元まで行ってやる!


亀倉はさらに先の通路に配置されている衛兵を蹴散らし、そしてまずは来賓をもてなす宴用の大広間に飛び込んだ。


「ビンゴか!?」


大広間は、やはり謁見用の場として改装されており、上階にあったはずの玉座がここに移設されていた。


だが、国王の姿は玉座には無く、代わりにそこにあったのは、王冠と高貴なガウンだけを身に着けた見知らぬ半裸の男であった。

小太りで、この異世界では見かけることがない眼鏡をかけている。

身の回りに、首輪をつけさせた一糸まとわぬ姿の美少女たちを多く侍らせているばかりか、その中の一人を自らの膝に乗せ、その小さな乳房を愛でていた。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る