第135話 勇者を騙る者?
国境線の街バレル・ナザワの東側の三分の一は、ヴァンダン王国の領地であり、西側とはまた少し違った雰囲気を持っている。
バレル・ナザワには二領主制が布かれており、東西にそれぞれの国から派遣されてきた領主がいることも影響しているのだろう。
両国のお国柄が、街並みや通りを行く人の人種や服装などにも表れている。
ヴァンダン王国が治める東側は、西側よりも有色人種や亜人種の割合が少し増え、狩猟が盛んな文化を反映してか、毛皮などを加工した服や装飾を好む人が多い印象だった。
酒場や食堂などで提供される料理もやはりそれぞれの特色があって、観光している身としては、一粒で二度おいしい、そんな街であった。
奴隷の存在についても、マルフレーサの解説のおかげで、少し抵抗感が薄まった。
この異世界では俺がもとにいた世界よりも貧困率が高く、奴隷とならなければその生命を維持することすら不可能な人が多くいて、社会全体の労働力の確保の面からも必要な仕組みであるとのことであった。
仕える
「だいたい観る物も観たし、そろそろ別の土地に移動するかな。マルフレーサ、なにかおすすめのプランとかないかな?」
「ふむ、そうだな。せっかく国境沿いにいるのだから、このままヴァンダン王国を見て歩くというのはどうだ? ヴァンダン王国は森と美しい湖がある自然豊かな土地で、様々な種族が暮らす多様性に満ちた国だ。建国の祖であるメアリー・ヴァンダーンが掲げた、「自由の国」という理想が今なお色濃く残るなかなかに面白い国だが、この国も周辺国との紛争を多く抱えていてな、戦時下にある」
「……そうなんだ。なかなか良さそうだと思ったんだけど、戦争中っていうのがちょっとね。どこか平和な国はこの辺に無いの?」
「……無いな。人は常に争う生き物。国の境を接していれば、何かしら揉めるだろう。侵攻する側、される側。いずれにせよ、どの国も存続をかけて他国と競い合っている。恒久平和など幻想にすぎない。災害や飢饉、疫病など国内に問題を抱えた場合に、解決する方法は常に外にある。持たざる者は持つ者から奪うことでしか、問題を解決できないからな」
「この世界って、そんなカオスな状況なんだ。なんか、幻滅……」
「お前がもとにいた世界というのはよほど豊かな場所であったのだな。このようなことは、この世界で生きる者にとってはごく普通のことであるし、それは国々の話に限定したものではない。長引く戦乱により、それぞれの地方の領主たち、はては庶民まで、ほとんどの者が現状を維持することすらままならぬのが実際のところなのだ。地の利に恵まれたあのハーフェンの領主の様にうまくやっている者などごく一部だと思うぞ」
「そっか、じゃあどうするかな。ゼーフェルト王国内は、魔王とかいう奴ともめてる北方以外は、ほぼほぼ大まかには巡ってみたんだよな~。仕方ない。細かい一つ一つの都市巡りでもしてみるかな。それと、フローラの親父さんからもらった活動費が、まだ四十枚近くあるから金には困ってないけど、冒険者としての仕事もちょっとはしないと、ギルドカードが失効になっちゃうからね」
「……やれやれ、よくよく考えてみれば、支給された金で豪遊三昧とは、とんだ勇者様だな」
「何言ってんの? マルフレーサだって、一緒に飲み食いしてるんだから共犯じゃん。それに、具体的にこういうことしろって言われてないんでしょ? ノルマとか、特に書かれてなかったし……」
「いや、だが、定期的に報告のための
「いやいや、それ初耳だから! なんで、もっと早く言ってくれなかったの?かなり贅沢してもう金貨十枚以上使っちゃったよ」
「領主からの手紙は見せたし、その中に書いてあったであろう。『勇者の志を知り、その助けをしたいと申し出てきたマルフレーサとともに今後のますますの活躍を期待しておる』とな。お前に手渡した金貨五十枚は、後援者たるハーフェン領主の権威と名声を高めるための投資であり、あくまでも世を救う勇者としての活動資金だ。お小遣いや褒美などではない」
共犯者であるはずのマルフレーサは、まるで他人事のような態度で、にやにやしながら言った。
「なんてこった……。あの金、てっきりご褒美か何かだと思い込んでしまってたわ」
くそっ、勇者になった覚えなんかなかったのに、なんかハメられたような気分だ。
俺は思わず頭を抱えてしまう。
「仕方ないのう。こうなってはとりあえず適当に人助けになるようなことをやって、活動実績を作るしかないな。なに、私とお前なら、たいていのことなら楽勝であろう。とりあえず、人助けになりそうな依頼がないか、ここバレル・ナザワの冒険者ギルドに行ってみることにしよう。さあ、善は急げだ」
「マジか……」
マルフレーサは、がっくりと肩を落とす俺の尻を叩き、そして強引に背を押してきた。
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