第110話 アフターフォロー
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エルフの血の影響か、耳の先が少し尖り、手足はすらりとして長く、その八頭身のスタイルと整った顔立ちは、雑踏の中にあっても
通り過ぎたあとで振り返る者、ため息を思わず漏らす者、こちらを見てこそこそと噂話をする者など、一緒に通りを歩いているとそのことが身にしみて感じられる。
マルフレーサに言わせると「それはお前とて同じじゃろう」ということらしく、黒髪黒目の異国人である俺とエルフとの混血であるマルフレーサの二人連れはやはり相当に目立ってしまっているようだった。
その人目を避けるように俺たちは、一軒の食堂に入り、その隅のテーブルに腰を落ち着けると、向かい合って遅すぎる朝食を取り、今後のことについて話し合った。
「ユウヤ、お前はしばらくこのハーフェンに滞在して観光すると言っていたが、その予定に変わりはないか?」
「えっ、まあ……、そのつもりだけど」
「そうか。では、少し私の用事に付き合ってはもらえないかな。もちろん、
マルフレーサはそう言うと、どこから出したのか、俺の前に金貨を二枚置くと、意味深な笑みを浮かべた。
金貨二枚といえば大金だ。
贅沢しなければ、一年間働かなくても暮らしていける。
「このお金、どうしたの? 」
「領主からの褒美の一部さ。呪いを解いたことの礼にということだが、ただそれだけで金貨十枚は過分だ。だから、ちょいとアフターフォローをつけてやろうと思ってね。その手伝いを、ユウヤに頼みたいのさ」
「ふーん、アフターフォローね。俺は、何をすればいいのさ?」
「領主に呪いをかけた奴とそれを依頼した奴の正体をつきとめて、捕まえたい。ことと次第によっては荒事になりそうだからね。私の手伝いをしてほしいのさ」
「マルフレーサは強いし、一人で十分でしょ。俺はもう貴族だの領主だのに関わりたくないな……。それに褒美なら俺ももらったし、当面は働く必要ないもんね」
「ずいぶんと薄情だね。もう他人というわけでもない仲なのにね……」
マルフレーサは意地悪そうな顔で言った。
「ぐっ、それを言われると弱いな」
「あんたの話では、フローラを襲った連中はそれなりの手練れだったんだろ。私は魔法職だし、近接戦闘に持ち込まれると幾分、苦しいことになる。こんなか弱い老婆が頭を下げてお願いしているのに、それを断るなんて、あんたには人の心というものが無いのかい? 万が一、私の身に何かあったら、一生化けて出てやるよ!」
「あー、もうわかったよ。手伝えばいいんでしょ。それで、俺は何をすればいいわけ?」
「さすが、私が見込んだユウヤだよ」
マルフレーサは椅子を引きずって俺の隣にやって来て、ほっぺにキスしてきた。
そして、俺の首に手を回すと顔を近づけ、怖い顔で言った。
「呪いというのはね。解呪されると、その呪いをかけた術者のもとに帰るんだ。私はその呪いにさらに新たな呪詛を上乗せして返してやった。術者は今頃、強力な呪いに苦しみ、七転八倒していることだろうけど、そこに今から二人でお邪魔するのさ。呪いが戻ったらしいだいたいの場所は、実はもうすでに突き止めてある。食後のデザートを食べてから、ゆるりと出かけることにしようじゃないか」
こ、怖ぇ~。
呪いだの、呪詛だのと、やっぱり、大賢者というより魔女という呼び名の方がしっくりくる気がする。
今更だけど、俺はとんでもない女に関わってしまったんじゃないだろうか。
ここで逃げたりしても、呪いとかかけられそうだ……。
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