第109話 俺はもうかつての……
チュン、チュン……。
小鳥たちのさえずりと窓から差し込む日の明るさで俺は目を覚ました。
昨夜は記憶が飛ぶくらい痛飲したはずだが、≪たいりょく≫の数値の高さのおかげか、二日酔いにはなっていなかった。
目覚めは良く、朝立ちするくらいに元気だ。
「はっ!」
見覚えのない天井に、俺は一瞬、過去の失敗を思い出し、がばっと上半身を起こすと、周囲を慌てて見渡した。
セーフ。
ここがどこなのか記憶にはないが、寝台の横に女性の姿はなく、俺は胸を撫で下ろした。
アレサンドラと初めて出会った夜、酒に酔った俺はそのままの勢いで彼女と一夜を共にしてしまった。
あの失敗を繰り返さないと誓い、深く反省したので、よもや再び同じ過ちは繰り返してはいないであろうとは思っていたのだ。
自分はどうにも酒好きであるらしく、火が付くととことん飲んでしまうようなところがある。
かといって、すべて酒のせいにするのは人間としてどうかとは思うので、昨夜も記憶があるところまでは、紳士的であろうと強く自制を利かせていたのだ。
エルフの血のおかげで若く、その上、麗しい見た目をしているが、マルフレーサは百歳近いおばあちゃんである。
その上、性格も悪そうだし、城を追放されたという経歴の持ち主だ。
あぶない、あぶない。
だが、俺はもうかつての未熟なユウヤではないのだ。
そう思いつつ、腰の下のシーツをはがしてみると、俺は思わず息を吞み込んでしまった。
下着を履いていない!
そして、股間から立ち上る独特の匂いに気が付き、愕然としてしまった。
女性とエッチして、そのまま寝てしまったときにするあの独特な生物臭。
男女の分泌物が混ざり合ったものが放つそのイカくさい感じのあれだ!
やばい。
相手は部屋にいないけど、俺はまたやっちまったのか。
慌てて全身を確かめてみると体中にキスマークらしき跡があり、寝台にはよく見ると長い銀髪がいくつも落ちていた。
「ようやく、起きたようだな。この寝坊助め」
扉が開き、そこには言葉とは裏腹のはにかんだような笑顔を浮かべたマルフレーサがいた。
「うわっ!」
俺は慌てて、シーツを掴み、それで体を隠す。
「何を恥ずかしがっておる。昨日、散々、獣のように何度も交わりあった仲ではないか。童貞と思っておったが、かわいい顔して、ベッドの上では一人前の男だったぞ。久しぶりに男というものを堪能した」
今、なんとおっしゃいましたか?
何度も交わりあった仲……。
なんてこったい!
俺は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「なんだ? 昨夜のことを覚えておらんかったのか。もったいない。濃密な夜であったぞ」
マルフレーサは俺のすぐそばに腰かけ、その細い指先で乳首をまさぐってきた。
「いや、そのごめんなさい。馬鹿みたいに酔っぱらってて……」
「ふふ、気にするな。私も楽しんだし、この歳で今更、責任を取れだとか、伴侶になれだとか、言う気もない。だが、そうだな……。悪いと思うならば、たまにこのご立派なもので、性処理に付き合ってもらうか。こう見えてもまだそういう気分は旺盛なのでな」
マルフレーサはシーツの中の股間に手を伸ばし、その陰茎を掴んだ。
「おうぅ」
その瞬間、俺は自分の首根っこを掴まれてしまったような気になり、これはどうやらマルフレーサには頭が上がらない状況になってしまったと嘆きたくなった。
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