第95話 乱れた農村

アレサンドラたちが護衛するクラッセ商会の荷馬車の一行を追い越し、≪正義の鉄槌≫たちを乗せた馬の一団は、街道をひた走る。

その風貌と黒で統一された厳つい見た目の装備が、見る者によっては馬泥棒の一味か野盗などを連想させ、すれ違った旅人たちは戦々恐々とした様子でその一団が通り過ぎていくのを見守っていた。


さらにそうした旅人たちを驚かせたのは、馬の速足トロットに負けぬ速さで、一緒になって走る少年の姿である。

黒い外套を身に着けているが、馬上の男達のように周囲を威圧するような出で立ちではない。

片手に長い杖のようなものを持ち、涼しい顔で、夕日が照らす街道を駆けてゆく。


「リックの兄貴、どうしてこんなに急ぐ必要があるんですか? アレサンドラたちとはもうかなり差が離れているし、この先の水場で少し馬を休ませましょう。このペースじゃ、馬が参っちまう」


「どうしてって、それは……、ユウヤ、なんでなんだ?」


「なんて言ったらいいのかな。でもまあ、馬を潰しちゃったら元も子もないし、いいよ。みんなは野営して、あとから追いついて来てよ」


「追いついてって、お前はどうするんだ?」


「俺はこのまま、先にバンゲロ村に行って待ってるよ。いつ何時ゴブリンたちに襲われるかわからない状況だからさ。早い方がいいんだよ!じゃあ、俺は行くから、渡してあった地図を見ながら、明日の夕方ぐらいまでには来てよ」


「あっ、おい、待て。どうして、ゴブリンたちが襲ってくるなんてわかるんだ? おい!ユウヤ……。あいつ、なんて脚力してやがるんだ」




アレサンドラたちに先行して、虫魔人と戦うだけならこれほど急ぐ必要はない。


だが、バンゲロ村を壊滅の危機から救うには、ロブス山の依頼をこなす前にゴブリンを殲滅しておく必要があるのだ。

何かのきっかけで運命が変わっていなければ、ゴブリンの襲撃があるのは王都を出て四日目の午前中くらいだったはず。

それは二日後にあたり、ちょうどアレサンドラたちがロブス山の洞窟依頼に取り掛かるであろう日時なのだ。


バンゲロ村のゴブリン退治を今日明日で終わらせ、急いでロブス山に向えば一日違いでアレサンドラたちと虫魔人の遭遇を阻止できる。


すっかり夜が更けてからバンゲロ村についた俺は、村長にギルドカード見せて、夜分にこの村を訪れた理由を話すことにした。

頭の固い門番が相変わらずいたが、何とか説得し、村長の家に向かう。


冒険者ランク:E

所属パーティ:正義の鉄槌

ネーム:ユウヤ ウノハラ

ギルド貢献度:0


「おお、かの有名な≪正義の鉄槌≫が、あの依頼を受けてくださったとは、まさに天の助け。これで、この村は救われる」


村長は目に涙を浮かべ、俺の両手を取ると、まだ何もしてないのに感謝の言葉を繰り返し口にした。


そして、「長旅でお疲れのことでしょう」と俺を家の中に招き入れると食事を出してくれたほか、休む部屋まで用意してくれたのだった。

村長の孫のサンネがあれこれ世話を焼いてくれて、この料理も彼女が母親と一緒に作ってくれたものであるらしかった。


サンネちゃんって、エロいだけの田舎の農村女子だと思ってたけど、家庭的な一面もあるんだな。

この料理もけっこう旨い。


遅い夕食を取りながら、村長には今後のことを説明し、もうすでにゴブリンたちの集落の場所を突き止めていると話した。

仲間たちはそこを殲滅してから村にやってくることになっていると説明し、殲滅作戦の決行は翌日。

魔物の狂暴性がやや弱まる日中になってから、行う手筈になっていると言い、リーダーのリックは指揮と作戦の準備のため現場を離れることができず、一番新入りの自分がまず村長に一言あいさつを兼ねて、報告に伺ったのだということにしたのだ。



贅沢ではなかったものの歓迎の意志が伝わる食事に、身も心も満足した俺は、用意された部屋の床に置かれた毛皮の敷物の上に横になった。

そして、そのままうとうととしながら、あることを期待して待った。


そのあることとは、サンネちゃんがこっそり夜這いにやって来ることである。


まだゴブリンも退治してないし、かっこいいところも見せてないけど、王都からやって来た有名な冒険者パーティの一員であるというネームバリューに彼女が食指を動かすのではないかと微かな望みを持っていたのだ。


前に別の展開でサンネちゃんとエッチした時は、アレサンドラと付き合っていた手前、ロードしてその事実自体をなかったことにしたけど、今は誰とも付き合ってないし、フリーだ。


エッチしたって誰にも文句を言われる筋合いのものではない。


やがて夜がさらに更けていき、一度寝落ちした後で、ある異変に気が付いて目を覚ました。


身体に人肌のぬくもりが感じられて、乳首のあたりに何か湿ったものが這っているような感触があった。


サンネちゃん!

やっぱり来たね。


目を覚ましたことを悟られぬように薄目を開けて確認してみると、俺にのしかかり、舌を体中に這わせている女の姿が確認できた。


だが、それはサンネちゃんではなく、三十代半ばは過ぎているであろう年増の女で、肉付きが良く、グラマラスな感じの体型をしていた。

その女の手が下半身に伸びてきて、慣れた手つきで愛撫し始めた。


うわっ、誰だかわからないけど凄いテクニックだ。

俺は思わず声を漏らしてしまいそうになる。


「起きているんでしょう。我慢しちゃって、かわいい」


「あの、誰なんですか? いったい、何を……」


「ふふ、初めまして。私は村長の娘のフランカよ」


「村長さんの娘……っていうとサンネちゃんのお母さん?」


「そうよ。娘と私が作った料理をおいしそうに食べてるのを見て、久しぶりになにか燃えてきちゃった。あなた、とって異国情緒がある素敵な顔立ちをしているのね。意外と引き締まったカラダしてるし、とっても魅力的だわ」


サンネの母フランカは、俺の頭を抱きしめながら熱烈なキスをしてきた。


凄い美人というわけではないが、たれ目に泣き黒子。

なんというかとても艶っぽい奥さんだ。

親子だけあって、口元なんかはどことなくサンネちゃんにも似ている。


「静かにしていて、私に全部任せて……」


「奥さん、困ります」


「嘘よ。もう我慢できないんでしょう?」


図星だった。

しばらく誰ともエッチしていなかったこともあり、十代のはち切れんばかりの性欲に俺は抗うことができなかったのだ。


「大丈夫。これは二人だけの秘密。あなたも今夜のことは誰にも言っちゃだめよ」


窓から差し込む月明かりが映し出す人妻の妖しい笑みに俺はただ黙って頷くことしかできなかった。


サンネちゃんのお父さん、本当にごめんなさい。


そして、やっぱり乱れているな、農村の性風俗。

(個人の感想です)










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