第94話 運命の相棒

ちょっと嫌な奴だと思われたかもしれないが、実力を見せつける作戦は功を奏した。


歳下の新人である時点でまともに話を聞いてもらえそうになかったが、俺が実力者だとわかるとリックたちの態度は目に見えて軟化した。

彼らは武闘派であることを売りにしていたこともあって、俺の強さには一定の敬意を持ってくれたようである。


金髪角刈りはタスマン。

長柄に金槌のようなものが付いたアイアンハンマーの使い手で、C級冒険者。

背が高く、タンクトップのような服を着て、無駄に筋肉を誇示している。

現在、恋人募集中らしい。


眼帯をした隻眼の老け顔は、マックス。

B級冒険者で、≪正義の鉄槌≫のサブリーダー。

愛用の武器はメイスで、彼も現在、恋人募集中らしい。


小太りで毛深い半裸の男はネルソン。

近接格闘が得意なC級冒険者。

毛深い男が好きな恋人を募集中らしい。


すきっ歯が特徴的なのは、斥候スカウトのディックだ。

飴玉くらいの大きさの特注の鉄球を投擲して戦うらしいが、一個当たりの単価が高いので、投げた後、拾いに行かなければならないらしく、滅多に投げないらしい。

彼もまた美人の彼女を募集中らしい。


こうして自己紹介してもらうと、最初の強面な印象から一転して、少し親しみのようなものが感じられないでもない。

性格は割と真面目だし、世紀末感あふれる見た目よりもずっとまともなのかもしれない。


「ユウヤ、お前も恋人はいないみたいだし、ウチのパーティに加入させても問題が無い実力者だと確認できた。だが、その得物は駄目だな。先がとんがってるだろ。そいつは卑怯だ。刃物だとか、そういう先端が鋭い武器は、うちは認めてねえんだ。俺のモーニングスターだって、あえて棘無しの鉄球を使ってる」


リックが、俺の≪青銅の槍≫にケチをつけてきた。


「いや、みんなの武器だって、そんなので殴ったら死ぬじゃん。卑怯とか意味わかんないんだけど……」


「いいか。このパーティのモットーは、『打撃武器こそ至高だ』なんだ。刃物や先端が鋭い槍などの武器は非力な奴が使っても殺傷能力があるが、俺たちが使っているような武器は鍛え抜かれた肉体の持ち主でなければ、持ち運ぶことすら困難だったり、その威力を発揮することができなかったりする。圧倒的な重量を持ち上げ、振り下ろす。この単純な攻撃にこそ、戦いの神が宿る。そうは思わないか?」


「いや、それを言うなら武器を使ってる時点で卑怯だと思うけど。拳にメリケンサック嵌めたり、遠くから鉄の玉投げる人もいるし……。それに、重くなる分スピードは落ちるけど、威力が増す分でメリットデメリットが相殺される気が……。まあいいや、文句あるならお古でもいいから、何か余ってる武器くれないかな? こっちは有り金はたいてこの武器買っちゃったから、代えが無い」


槍先を捥いで、ただの≪木の棒≫にしてもいいけど、それじゃあ、さすがに恰好がつかない。


俺は、アジトこと、男たちのシェアハウスに行き、何か武器として使えそうな物が無いか探したが、結局、丁度いいものが見つからなかったので、仕方なく、≪青銅の槍≫を売却した金で、例の武器屋のザイツ樫の長杖クオータースタッフを購入することにした。

少し足りなかったが、その分はリックにおねだりして出してもらった。


ザイツ樫の長杖クオータースタッフは、埃をかぶり、相変わらず買い手がつかないでいたが、こうして手に取ってみると、やはり良い。


今まで手に取ったどの武器よりもしっくりとくる。

こうしていると、破損し、一度は手放した相棒がもう一度戻って来てくれたという得も言われぬ喜びがじわじわと込み上げてきた。


結局、この長杖は俺の元にくる運命だったのかもしれない。




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