第92話 アニキ現る
テレシアたちと同じパーティになろうとしたのだが、失敗した。
前回は、三人との面談の前日に、街道でゴブリン退治をすることになり、そこでアレサンドラと出くわすというイベントがあったのだが、それをすっかり忘れていたのだ。
結局、テレシアたちはアレサンドラと女性オンリーのパーティを組むことになり、俺はそれに入りそびれてしまった。
最初からまたリセットしようかとも過ったが、そこまでするほどの失敗ではないと思い直し、このまま続けることにした。
女の子はアレサンドラやテレシアたちだけじゃないし、この展開の先にも新たな出会いが待っているかもしれない。
ただここでひとつ問題が生じた。
C級案件『洞窟調査依頼:プレメント近郊ロブス山中、依頼者:プレメント領主』
ひとまず彼女たちが殺されないように、この依頼を代わりにやっておこうとしたのだが、俺の冒険者ランクはEで受注不可だったのだ。
あのロブス山中にいた虫魔人たちは、アレサンドラたちでは倒せない。
俺がいないことで、少し展開が変わってしまう可能性もあるけど、先回りして倒しておかないと、きっと悲しい結末を迎えてしまうことになるだろう。
「参ったな。ただ働きはしたくないし、E級のままじゃ、ろくな依頼がない。ねえ、サクッとC級に上がれる方法って無いの?」
俺はカウンター向こうの受付嬢メリルに尋ねた。
「あらあら、新人なのにあなた、随分と強気なのね。E級じゃ不満なの? 登録の時にも説明したけど、冒険者ランクは地道に依頼をこなしてギルド貢献度を上げるしかないわ。EからDになるには200ポイント、そこからさらにC級になるには500ポイント必要なの。わかる? これは仮にゴブリンの討伐依頼で換算したら700匹分にも相当するポイントなのよ。パーティだとポイントは人数割になるし、ソロなら普通はどんなに優秀でも昇格まで二年はかかるわ」
700匹か。
あのバンゲロ村のゴブリンだけじゃ到底足りないな。
ゴブリンだけでこれを達成するとなると、探すのだけでもかなり骨が折れそうだ。
討伐の証拠となる耳や鼻を削ぐのだけでも、グロいのを我慢しなきゃならないし、大変だ。
王都からプレメントの街までは荷馬車で三日。
そこからあのロブス山までは半日かからないくらいだから、ロス日を入れても四日前後しか余裕が無い。
「おい、小僧。その依頼がどうかしたのか?」
背後から声がして、振り返ってみるとそこにはモヒカン頭の冒険者が立っていた。
「あっ、お前は……」
そう言いかけて、俺は慌てて口を押さえた。
このモヒカン頭は、アレサンドラのストーカーのリックだったのだ。
アレサンドラとイチャラブ展開だった時に、彼女を巡って決闘までした間柄だ。
たしか≪スチールボール≫という二つ名で呼ばれていたはず。
「その依頼書はさっき、アレサンドラが見てたやつだよな。張り直される前に、カウンターに持ち込まれるのも見た。お前、アレサンドラとどういう関係だ。お前、狙ってんのか? ぶっ殺すぞ!」
さすが、ストーカー。
どこかに隠れて見てたのか。
しかも、その後、面談でアレサンドラたちと話してた俺も監視していたわけだ。
「いや、俺はアレサンドラのパーティにいるラウラ推し。アレサンドラさん、凄い美人だけど年齢も離れてるし、俺はラウラ一筋で行こうかなって……」
「ラウラ? どっちかわからんが、アレサンドラが新しくパーティ組んだ二人組のどちらかだな。それならいい。それで、この依頼書が一体何だって言うんだ。なんでこの依頼書にこだわってる?」
「見てたかもしれないけど、俺、さっきアレサンドラたちのパーティに不採用になってさ。彼女たちを見返すために、この依頼を先に達成しようって思い立ったわけよ。でもランクが足りなくて受注できないって言われちゃってさ。もし良かったら、この依頼、俺の代わりに受注してくれないかな。二つ名で呼ばれてたくらいだし、少なくともC級くらいは、いってるでしょ」
「なんで、俺様がそんなことをせにゃならんのだ。それにお前、新人の癖に偉そうだぞ。シメられたいのか?」
「……アレサンドラのこと、好きなんでしょ?」
「ぐっ、お前、どうしてそれを……」
「いや、顔に書いてるよ。そして、なんとかお近づきになりたいとか考えてるんじゃないの? この依頼を受注したらチャンスあると思うな~」
「いや、その、しかし、そんな……依頼の横取りしたら、嫌われてしまうに決まってるだろ」
「ノン、ノン。逆だよ。そりゃ、ちょっとは反感買うかもしれないけど、スピーディに依頼を達成して見せたら、絶対見直すって。それにどうでもいいって思われてるくらいなら、絶対に嫌われた方がましだと思うよ。少なくとも記憶には強く残るわけだし、覚えてもらいさえすれば、何かのきっかけで好きになってもらえるかもよ」
「……お前、その若さで、意外と策士だな。ぐぬぬ、わかった。ここはお前の提案に乗ってみよう。十年以上も追いかけていて、実は手詰まり感があったんだ。一発、ここいらで勝負に出るのも悪くはないかもしれん」
「よし、交渉成立。この依頼中は、とりあえずパーティに入れてもらうけど、それでいいよね。あと、他にもいくつかお願いがあるんだけど、もし聞いてくれたら、とっておきのアレサンドラ情報教えちゃうよ。好きな食べ物とか、服の好みとか、他にも色々ね」
「お前、一体……何者なんだ?」
「俺はユウヤ。ただの槍使いの新人さ。お互い、理想の彼女ゲットのために協力して頑張ろう。よろしく頼むよ、リックのアニキ」
なんだかんだで冒険者稼業は性に合ってるし、この世界でのし上がるため、このリックを使ってショートカットしよう。
地道にコツコツやるのは、どうにも性格的に向いてない。
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