第四章 ダンジョンマスター
第80話 帰りたい
テレシアとラウラはレベル上げに勤しんでいる。
アレサンドラは、新しく手に入れた大剣を使いこなすために修練に励んでいる。
カミーロは地下宝物庫から運び込まれた発掘品の鑑定で忙しい。
俺はというと、モチベーションが上がらないまま、ウォラ・ギネの修行をそつなくこなし、適当に相手している。
≪きようさ≫の高さのおかげで、基本技と型はすべてマスターし、奥義のいくつかも授けてもらったが、使う機会は無いかもしれない。
基本技をただ速く、強く放つだけで、師匠のウォラ・ギネも受けるのがやっとという状態なのだ。
技術だの、精神論だの色々いうけど、結局はパワーとスピードなのだと俺は最近悟った。
まほう≪
大金を手に入れた今、額に汗して働く必要など何処にあるのだろう?
王宮があった場所の地下にあるという神殿や女神リーザがどうのという話には興味が無いし、俺はもう王都に帰りたくなっていた。
王都に戻って、贅沢三昧の暮らしをしたり、かわいい女子とイチャイチャしたい。
こんな瓦礫しかない廃墟の景色はもう真っ平だった。
ああ、あれだ。
部活を辞めて、帰宅部になった時の気持ちと少し似ている気がした。
「 先に王都に帰りたいだと?」
俺の提案に、ウォラ・ギネは予想通りのリアクションを見せた。
渋い顔をし、あからさまに呆れた表情を見せた。
「いや、しばらく水浴びだけで、ゆっくりお風呂にも入ってないし、なんか、ここも飽きちゃったな~、みたいな……」
「熱い湯に浸かりたいなら、水を汲んできて火にかければ良かろう」
「いや、それだけじゃなくて、食事とか色々さ。しばらく向こうで過ごして、リフレッシュしたら戻って来るというのじゃダメかな?この場所って、あまりに刺激が無くて、欝な気分になって来るんだよ」
「駄目だ。ここしばらくおぬしと行動してみてわかったが、一度王都に戻ったら、二度とこの場所には戻って来ぬつもりであろう」
ウォラ・ギネの指摘は図星だった。
来る日も来る日も没個性な
遊ぶ金が尽きない限りは、ここには二度と戻る気はない。
「まあ、単調すぎて刺激が無いというおぬしの気持ちもわからないではない。テレシアとラウラも少しはマシになってきたところであるし、ここらで仕上げに取り掛かるか」
「仕上げとかそういうことじゃなくて、もうすぐにでも帰りたいんだけど……」
「そう言うてくれるな。儂はおぬしたちにどうしても見せたいものが、このリーザイアの王宮跡にはあるのだ」
「地下神殿でしょ? なんとなく想像つくからいいよ」
「はっはっ、はたしてそうかな? 百聞は一見に如かず、カミーロには一旦、研究を中断させるから明日にでも皆で行ってみようではないか。まあ、騙されたと思って、もう少しだけ付き合ってくれい」
一度帰りたいと思ったら、何が何でも帰りたい気分になってきたのだが、アレサンドラにも諭されて、俺はしかたなくこの廃墟都市リーザイアの滞在を少しだけ伸ばすことにした。
そして翌日、かなり本格的な探索の準備をした俺たちは地下神殿があるという王宮跡の廃墟へと向かった。
カミーロは一月分の食料と水、それと巨大な洞窟にでも探検しに行くのかというような装備や物資を自前の≪
地下に続く階段を降りて行って、その地下神殿とやらを拝んで帰って来るだけじゃないの?
そこはもう王宮があったのだとは思えないほど破壊され尽くされていて、この街の他の場所と比べても一番酷い有様だった。
「さあ、こっちじゃ」
ウォラ・ギネに案内されてやってきた場所にあったのは、クレーター状に変化した地面とその中心にある大穴だった。
その大穴は深い闇をはらんでいて、中の様子は少しも窺えなかった。
さらにその穴のすぐ傍には、伏せた竜の巨大な石像があり、今にも動き出しそうな迫力があった。
というよりも、あの石人形たちの例からすると、きっとこの竜は動くのだろう。
関節部分と言うか、可動に必要な部位がそれぞれ部品のように分かれていて、ただの鑑賞用の像というよりは、美術室とかにあるデッサン人形みたいになっていたからだ。
ただ、石人形と比べると細部まで造形がしっかりしていて本当にリアルだ。
少しは強くなったとはいえ、テレシアたちもその威圧感に呑まれたのか、すっかり立ち尽くしてしまっている。
「ユウヤよ、まずはおぬしが一人で行ってみるのだ」
「えっ、なんで?」
「おぬしが欲していた刺激とやらが得られるぞ」
戸惑う俺に、ウォラ・ギネは何も答えず、意味有り気な笑みを浮かべたままアゴの動きで「行け」と促してきた。
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