第75話 秘密の扉
解放コマンド≪しらべる≫を使って、カミーロが調べている鉄板を見てみると、『ラバンタール公爵の秘密の地下宝物庫の扉』という半透明の吹き出しが浮かび上がってきた。
「すごいな。地下宝物庫ってことは、宝の山があるかも」
思わずそう口にしてから、俺は自分の口を慌てて塞いだ。
「地下宝物庫? どうして、この下が宝物庫だってわかるんですか?」
カミーロが物凄い勢いで振り向き、周囲の視線が俺に集まってしまう。
「あ、いや、その、……あれです。勘というか、ほら、立派な扉でしょ。しかもカミーロさん、この辺は貴族とかが住んでいた区画かもしれないって言っていたし……」
「他の場所にはほとんど目もくれないで、この入口をいきなり発見したことにも驚きましたが、私の予想とまったく同じことを呟くからびっくりしましたよ」
「やっぱり、宝物庫なんですか?」
アレサンドラが目を輝かせながら、カミーロに尋ねる。
「ああ、この感じだとおそらく……。しかもこの家紋はたしかかなりの大貴族のものであったと記憶しているし、期待できるかもね。ほら、この傍らにある変色した絨毯か、敷物のようなものがあるだろう。普段はこれで覆われていて、隠されていたんじゃないかな。さらにその上に物を置くとかしてね」
「やったー。お宝、お宝!」
ラウラも無邪気に喜んでいる。
ナイスだ。
皆の関心が、うっかり発言をしてしまった俺からカミーロの方に移った。
それにしてもカミーロさん、俺の行動にけっこう注目してたんだな。
これからは、不審に思われないように気をつけねば……。
重い鉄の扉を退けて、階段を降りていくと、そこはやはり宝物庫であった。
元の世界で俺が住んでいた家のリビングとダイニングを足したくらいの広さがあって、壁に作りつけられた棚には見るからに値打ちがありそうな物が並んでおり、床には宝箱がいくつも置かれていた。
階段をかなり降りた先にあったので地上のような悲惨な状況ではなく、おそらく当時のままの状態がそのまま残っているようだった。
「……この大剣、かなりの業物だよ」
壁に飾られていた大剣に気が付き、アレサンドラがそれに駆け寄った。
カミーロやラウラもそれぞれに自分の興味がある辺りに近づいて行き、感嘆の声を上げながら物色し始めた。
「皆さん、見てください。黄金でできた女神リーザ像までありますよ。ありがたや、ありがたや……」
テレシアも先ほどまでの暗鬱な表情はどこへやら、笑顔を見せている。
皆がそれぞれに喜びの表情を見せる中、俺だけが出入口付近で固まってしまっていた。
それは、宝物庫に入ってすぐにあるものが目に入ってしまったからであり、そのあまりにもインパクトがあるその存在を、この場にいる誰も気が付いていないことに驚いてしまっていたからだ。
部屋の中央に半透明な全裸のおっさんが立っている。
立派な髭をたくわえ、お腹は丸く突き出ていた。
安心してください!履いてませんよ。
「そんなところで、何してるの?」
その全裸のおっさんと思わず目が合ってしまい、つい声をかけてしまった。
「おぬし、この私の姿が見えるのか?」
「いや、見たくないけど……ばっちり股間も……」
俺の言葉におっさんは頬を赤らめ、慌てて前を隠す。
「わ、わたしはこの館の主、ラバンタール公爵だ。そなたが何者かは知らぬが、生きた人間の姿を最後に見たのはいつぶりのことだったか……」
「……そうなんだ。ところでなんで全裸なの?」
「お、おい。ユウヤ、さっきからひとりで何をぶつぶつ言ってるんだ?」
ようやく皆も異変に気が付き、集まってきた。
「一人でっていうか、みんなにはこの裸のおっさん見えないの?」
「裸のおっさん!ど、どこに?」
女性陣が一斉に驚きの声を上げ、周囲を見回す。
どうやらやはり、このラバンタール公爵を名乗る全裸の人物の姿は俺にしか見えないようだった。
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