第71話 修羅場
「ユウヤさん、いえ勇者さ……」
「ユウヤ君! 君は、勇者なのか? まさか……、マーティンの生まれ変わりなのか!?」
ゆっくりと近づいて来たテレシアに割り込むようにして、カミーロが俺の手を取ってきた。
長い若白髪の前髪の下の目が赤く充血し、涙で潤んでいた。
「いや、違いますよ。勇者でもないし、生まれ変わりでもないです」
「し、しかし今の≪
やばい。
そんな大それた魔法だなんて知らなかったから、ついみんなの前で使っちゃったけど、なんとか誤魔化さなくては……。
このままでは、無理矢理、勇者だということにされかねない。
「師匠、何とか言ってくださいよ。俺、無職っすよね?スキルも持ってないし……。勇者じゃないってカミーロさんに説明してくださいよ」
「いや、確かにお前のステータスは
「周りの者がどう考えるかは関係が無いんだ。僕は君の中に、勇者を見た。そのことが大事なんだよ」
カミーロは俺の手を取ったまま、両膝をつき、まるで神に祈るかのような表情で俺を見上げた。
「ユウヤ君、僕の残りの生涯のすべてを君に捧げさせてくれないか。マーティンに注ぐはずだった忠誠と献身を持って、必ずや君の力になって見せる。これからは僕のことを君の
重い。重すぎる。
女の子にだったらそんなこと言われてみたい気も少しはしなくはないけど、五十歳目前のむさい髭男が相手では、正直引いてしまう。
長い髪と髭のせいでガチ〇ピンの相方みたいな見た目をしているし、陶酔しきった目がなんだかヤバそうだ。
「カミーロさま、抜け駆けはひどいです。ユウヤとは私の方が先に知り合いになったのです。勇者に仕える僧侶の座は、私に譲ってください!」
「テレシアさん、教団が定めた勇者認定の話をしているなら好きにすればいい。僕はもう女神リーザに仕える僧侶ではないからね。僕がなりたいのは勇者たるものの片腕、いや半身だ。ある時は勇者の盾となり、ある時は勇者のために己の手を汚す。そういうかけがえのない存在になりたいんだ。仕えるべき勇者マーティンを失ってから、僕の胸には大きな穴がぽっかりと空いたままだ。その穴を埋めようと廃墟都市リーザイアの研究に没頭したが、虚しさと無力感は増すばかりだった。ユウヤ君、君のその大いなる勇者としての使命で僕の心を救ってくれ、お願いだ」
「いかに伝説の勇者を見出した先輩の僧侶であってもこれだけは譲れません。ユウヤさんから離れてください!」
「いや、譲れないよ。勇者は僕のものだ。ユウヤ君、二人で世界を救う旅にでかけよう。さあ、首を縦に振ってくれ」
「ユウヤさんは、私の勇者です。は、な、れ、な、さい!」
俺を巡って、テレシアとカミーロが激しい争奪戦を始めてしまった。
「ストーップ!」
その二人の間を割るようにしてラウラが俺に抱きついて来た。
「二人ともストップ! もうユウヤはわたしと付き合うことになったの!勇者じゃなくて、私の王子様!わかった? べたべたしないで」
「付き合うことになった? ラウラ、いつの間にそんな抜け駆けしたんだ。パーティ内でそんなことを影でこそこそするなんて……。ユウヤ、嘘だよな?」
アレサンドラが血相を変えて争いの輪に入って来た。
「お姉さまは関係ないじゃないですか。引っ込んでてください!」
「関係なくなんてない!私だってユウヤのことが好きだったんだ。ロブス山で虫魔人と戦った時、≪狂戦士化≫してておぼろげだったけど、私にキスしてくれたの、あれはユウヤだよな?」
うっ、記憶があったのか。
どうしよう、しらを切るか、それとも……。
「ユウヤ~、アレサンドラとキスなんかしてないよね? 向こうは一回りくらい年上のおばさんだし、ユウヤはわたしに夢中なんだよね?」
ラウラがお得意のあざとい上目遣いで迫って来る。
ああ、なんかもう面倒くさくなってきた。
ただ、魔法のことを聞きたかっただけなのに、どうしてこんなにややこしいことになるんだ?
もういい。全部リセットしよう。
二度とみんなの前で≪
俺は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます