第70話 聖なる雷(いかずち)

コマンド「まほう」を解放した瞬間、俺の目の前に半透明のメッセージウィンドウが次々と出てきた。


「LV30で、まほう≪回復ヒール≫を覚えました」

「LV31で、まほう≪透視シー・スルー≫を覚えました」

「LV33で、まほう≪聖結界パワーバリアー≫を覚えました」

「LV35で、まほう≪聖雷セイクリッドサンダー≫を覚えました」


おお、すごい!

これが、現時点で使える魔法なのか。


俺は嬉しくなって、急いで現実世界に戻った。


ちなみに、俺が記帳所セーブポイントの部屋に行っている間は、こちらの世界の時間は止まっているらしく、状況の変化はない。


テレシアは気絶したままだし、ラウラとアレサンドラはその傍らに寄り添い、心配そうな顔で様子を見ている。

ウォラ・ギネは腕組みした状態で少し離れた石の瓦礫に腰を掛け、カミーロは調査のための道具の手入れをしていた。


「ねえ、ちょっといいかな?」


「なんじゃ、ユウヤよ。稽古でもつけてほしいのか」


「いや、さっき魔法の話をしてたじゃない。あれって、俺も使えるのかな」


「いきなり何を言い出す。おぬしは無職ノークラスで、しかもスキル無しじゃろう。物を、ゲフンゲフン……できる秘密の能力はあるが、スキル無しでは魔法は使えん」


ウォラ・ギネはコマンド≪どうぐ≫については秘密を守ってくれていて、今も周囲の様子を探りつつ、小声で話してくれた。


「いや、それが魔法覚えたみたいなんだよね。ちょっと、ステータス見てもらえる?」


名前:雨之原うのはら優弥ゆうや

職業:セーブポインター

レベル:45

HP:832/832

MP:509/509

能力:ちから65、たいりょく65、すばやさ65、まりょく44、きようさ65、うんのよさ65

スキル:セーブポイント

≪効果≫「ぼうけんのしょ」を使用することができる。使用時は「ぼうけんのしょ」を使うという明確な意思を持つことで効果を発揮することができる。


スキル:場所セーブ

≪効果≫任意の場所を三か所までセーブできる。「場所セーブ」を使うと≪おもいでのばしょ≫の一番から三番まで指定してセーブが可能。セーブした場所はロードすることによって、いつでも訪れることができる。仲間など、視野内の認識可能な複数対象にも効果を及ぼすことができる。使用回数制限なしだが、対象人数に応じてMPを消費する。


解放コマンド:どうぐ

≪説明≫自らに占有権があるアイテムを≪どうぐ≫の中に収納できる。「コマンド、どうぐ」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。所持数制限なし。使用回数制限なし。


解放コマンド:しらべる

≪説明≫対象のアイテムがどのようなものなのか調べることができる。「コマンド、しらべる」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。使用回数制限なし。


解放コマンド:まほう

≪説明≫下記の≪まほう≫を使用できるようになる。対象を決め、その≪まほう≫を使用するという確固たる意志を持つことで発動可能。各≪まほう≫に応じたMPを消費する。

≪まほう≫一覧

回復ヒール≫(消費MP10)、≪透視シー・スルー≫(消費MP20)、≪聖結界パワーバリアー(消費MP50)、≪聖雷セイクリッドサンダー≫(消費MP50)



「なんじゃ、レベルが一つ上がっておるが、他は前と変わっておらぬではないか。魔法を覚えたなどと噓を吐くでない」


「いやいや、ここにちゃんと書いてあるはずだけど、視えて無いの?」


「視えているも、いないもない。能力値は異常に高いが、おぬしは無職ノークラスで、スキル無し。黙って、杖術の修行に専念いたせ。それがおぬしのためだ。魔法などと夢を見るでない」


「嘘じゃないって。≪聖雷セイクリッドサンダー≫とか覚えたことになってるから……」


「≪聖雷セイクリッドサンダー≫だと? それは≪職業クラス≫勇者のみが使える伝説の魔法の一つだ。おぬしなどに使えるはずは無かろう!」


「……ううっ、…ん……、勇者がどうしたんですの?」


ウォラ・ギネの大声にテレシアが目を覚ましたようだ。

カミーロとラウラも、俺たちが喧嘩でもしているのではと気にしてこちらを見ている。


「 嘘じゃないんだって。向こうにあるあの建物の廃墟に向かって撃ってみるから、見ててよ」


「やれやれ、まだまだ子供じゃな。そういうできもしない必殺技や魔法などを使えると夢見がちに考える時期が誰しもあるものだが……」


くそ、俺がスキル無しだと思って、完全に馬鹿にしてるな。

見てろよ。みんなをびっくりさせてやる!


えーと、たしか対象を決めて、俺が使うって強く思えばいいんだよな。


「いくぞ! セイクリッドサンダァーーーーー!」


俺の普段以上に気合がこもった掛け声が廃墟都市リーザイアに響き渡る。


頼む!これで何も起きなかったら、俺は完全に残念な人認定されてしまう。


するとどこからともなく真っ黒な雲が上空に現れ、そこから普通の雷とは異なる、緑色を帯びているように見える稲妻が、目標にしていた辺りの地上に落ちた。


一筋の光が瞬いた後、轟音が響き、目標に定めていた廃墟の辺り一面を焼き尽くしたのだ。


「な、なんと……」


ウォラ・ギネは言葉を失い、他の者たちも唖然とした様子だった。


俺でさえ、あまりの威力と音の大きさにビビってしまい、飛び退いて、頭を抱えたまま、しゃがみ込んでしまった。


範囲の広さも想定外で、屋外の戦闘では、味方を巻き込んでしまうので使えそうもない。


「ごめん。初めて撃ったから、どんな感じかわからなくて……」


俺は頭を掻きながらみんなの方に戻った。


「≪聖雷セイクリッドサンダー≫……。古より伝わる勇者様の魔法……」


テレシアは俺の顔をまじまじと見つめながら、そう呟いていた。



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