第69話 コマンド「まほう」


「ねえ、その話本当なの? だって、ラウラなんてその詠唱を最後まで唱えきれなくて、さっきも、一発も魔法撃ってないんだよ」


「むぅ~、かたじけないなり~」


ラウラは自分の頭をこつんと叩くふりをしておどけてみせる。

謝罪を口にしているが、全然反省している気配はない。


「≪火球ファイアーボール≫!」


ウォラ・ギネが、石人形を形作っていた石が落ちている辺りを指差し、そう唱えると拳よりも二回りくらい大きい火の玉が出現し、そこに飛んで行った。


すごいな。

ウォラ・ギネは魔法も使えるのか。


「詠唱の本来の目的は、その魔法がどのような効果なのかを学習することにあったのだと儂は思っておる。魔法名だけ知っていても、それがどのような魔法なのかわからなければ、MPメンタルパワーを具象化できないからな。おそらく、音読することで、文章から魔法効果をイメージできるようにするという狙いがあったのではないかなと儂は考えておるが、真相はわからん。文章の形でそれを後進に伝えようとした先達たちの創意工夫が間違って伝わったのだとすると嘆かわしいことだな」


「で、では、神聖魔法はどうなのですか? 女神リーザに祈りを捧げ、その祈りが聞き届けられた結果が奇跡となって顕れるのが、神聖魔法のはず……」


「神聖魔法はね……、ただのスキルなんだよ。女神リーザが起こした奇跡なんかじゃない」


「そんな……」


テレシアはよほどショックを受けたらしく、顔面蒼白だった。


「神聖魔法も、その他の魔法も一緒だ。ステータスで確認して、その魔法の所持が認められたなら、あとはその魔法が引き起こす現象の具体的なイメージがあれば使用可能だ。僕がさっきやって見せただろう。強いイマジネーションがあれば、魔法名を言う必要すらない」


「で、では、厳しい教団の修行に耐えたり、徳を積むための慈善活動は……。教団への寄付などは?」


「無論、関係ないよ。前にも言ったが、僕はもう教団、その下部組織にあたる教会にすら所属していない。そもそも、もう女神リーザを信仰してさえいないんだよ。その僕が神聖魔法を使えるんだ。ここまで言えば、何を言ってるかわかるよね」


「……わかりません。何を……信じたらいいのか……」


「おっと!」


突然、倒れそうになったテレシアを慌てて受け止める。

どうやら、完全に気を失ってしまったようだ。


仕方がないので、テレシアが目を覚ますまでその場で少し休憩をとることになった。

そして、俺は束の間、物陰に入り、一人になる。


記帳所セーブポイントの部屋に行きますか?』


半透明なメッセージウィンドウが出て、その下の「はい」という選択肢を選ぶと周りの風景が変化した。


「セーブポインターよ。よくぞ参った。吾輩は、記帳所セーブポイントの妖精、名前は、……お……」


お?


「名前、思い出せたの?」


「いや、今何となく出て来そうだったんだが、やはり駄目であった」


「そうか、残念だったね。でも、今確かに『お』って言ったから、『お』で始まるなまえなんじゃないの? 例えば、おじいちゃんとか、おっちゃんとか……」


「それは名前ではないと吾輩は思うのだが……。そんなことより何しに来た? 今日はセーブはできないぞ。以前にこの日付の分は消費されているからな。前にも言ったがセーブは暦上で一日一回までだ。過去に戻ってやり直した場合でも、同じ日にはセーブできない」


「それはもう理解してるよ。今日はセーブ特典ポイントの交換に来ただけ。リストを見せてもらえる?」


セーブ特典ポイント:24


ポイント交換リスト


人セーブ(使用回数制限なし):10ポイント

「まほう」解放:10ポイント

「はなす」解放:5ポイント

「つよさ」解放:5ポイント



今までは魔法のことを馬鹿にしてたようなところがあったが、ウォラ・ギネやカミーロさんが使っているのを見たら、何だか自分も使ってみたくなったのだ。


俺は、10ポイントを使い、コマンド「まほう」を解放することにした。

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