第68話 魔法って……
ウォラ・ギネに教わった通り、≪ヒノキの長杖≫に≪理力≫を込めたままの状態で、迫ってくる
この石人形は、文字通り石でできた人型の魔物で、廃墟都市リーザイアで最も多く遭遇する魔物らしい。
人型と言ってもその造形は手抜きで、顔は何の凹凸も無いただの丸い石だし、手足の先なんかも同様だ。
沢山の石が目に見えない力で繋がっているような感じで、まるで操り人形のような印象を受ける。
指のない丸い手をやたらめったら振り回してくるだけの単調な攻撃は、今の俺には
≪きようさ≫が高いおかげなのだろうか、≪理力≫の扱いにもかなり慣れて、今の石人形の頭部を砕いた一撃は、かつてグラッドにやられた≪彗星打ち≫だ。
あの時は杖術の必殺技のようなものだと思っていたのだが、これはムソー流の技の中では初歩に当たるものらしい。
それにしてもなるほど、これなら食料も水もいらないわけだ。
どんな仕組みで動いてるか分からないけど、魔物って生き物っぽいやつだけじゃないんだね。
感心しながら、襲ってくる他の石人形たちの相手をしつつ、仲間の様子を見やる。
アレサンドラは相変わらず力任せに石人形を大剣で殴りつけているが、≪理力≫が扱えていないせいか、かなり苦戦していた。
テレシアは逃げ惑い、後衛のラウラは必死で魔法の詠唱をしようとしているが、敵が接近しそうになる度に中断し、一向に魔法を発動できないでいた。
「偉大なる火の眷属神、きゃっ、怖い!い、偉大なる……」
俺は自分に向かってくる敵を倒しつつ、ラウラを庇っていたが、これなら一人で戦った方が楽だなと思い始めていた。
そんな俺たちの様子をウォラ・ギネは鼻くそをほじりながら、カミーロは微笑みを浮かべながら見守っている。
「なるほど、これがあなたの新しい仲間ですか。随分と実力にバラつきがありますね」
「まあ、儂はユウヤを弟子に欲しかっただけで、あとはまあオマケだからな。若いピチピチのギャルたちと旅をすれば、気持ちも若返るし、何より目の保養になる。寿命が伸びそうじゃわい」
ウォラ・ギネはそう言って、揺れるアレサンドラのビキニ型鎧の胸当ての部分を凝視した。
「とはいえ、この実力ではこの先の調査で足手まといになりそうですね。少し、手本を見せましょうか」
カミーロはそう言うと一気に駆け出し、苦戦中のテレシアの方に向かった。
俺とラウラの方にいた六体はもう全部倒してしまったし、アレサンドラもその硬さに苦戦しつつも三体ほど片付けたようだ。
残るはテレシアの前の一体だけだ。
「テレシアさん、少し見てなさい。僧侶はパーティの要。得物をむやみに振り回すのがその役割ではありませんよ」
カミーロは、テレシアの肩にポンと触れた。
するとテレシアの全身が柔らかで温かい光に包まれ、転んだときに出来た擦り傷や、自分の武器がぶつかってできた打撲が癒えた。
そして間髪を入れず、反対の掌から、光る玉を出現させ、それを石人形に放つ。
光る玉が命中した石人形は、人の形を保っていられず、ばらばらと地面に崩れ、ただの石が散らばっているような状態になった。
「≪
テレシアが呆然とした様子で、微笑みを浮かべるカミーロを見た。
「テレシアさん、僧侶の役目はあくまでも前衛の援護と仲間の傷の回復。それを忘れて、目の前の敵に夢中になっていてはいけませんよ」
「カミーロさん!今のは何なのですか? 女神リーザに祈りを捧げずに神聖魔法を使ったように見えました。そんなことは教団の司祭様たち、いえ、大神官様でさえできないはずです。あなたは今、いったい何をなされたのですか?」
「教団の司祭たちができない?それは嘘だよ。君たち一介の僧侶たちが勝手にそう思い込んでいるだけだ。神聖魔法を使うのに女神リーザへの祈りなど必要ない。僧侶が指で形作る≪聖印≫も不要だ」
「ど、どどっ、どういうことですの……」
テレシアは眩暈を起こし、今にも倒れそうだ。
「神聖魔法だけじゃないぞ」
ウォラ・ギネがやって来て、話に加わって来た。
「おおよそ魔法と呼ばれるものに詠唱だの、祈りだのは不要だ。それらが必要だというのは誤った認識なのじゃよ。意図してか、意図せずしてか世の中の常識はそういうことになっておるがのう」
まじかよ。
通りで、魔法って弱すぎだろって思ってたけど、あの馬鹿みたいに長い詠唱が要らないなら、話は別だ。
カミーロが放った≪
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