第65話 古い友人
廃墟都市リーザイアにほど近いなだらかな山の中腹に、ウォラ・ギネの古い友人が庵をかまえて住んでいるという。
その友人の名はカミーロ。
かつて≪世界を救う者たち≫に籍を置き、
ウォラ・ギネの案内でその庵を訪ねてみると、丸太を組んで作った大きな山小屋風の家の煙突から白い煙が出ているのが見えた。
家の周りには何やら物置小屋のようなものがいくつもあって、一人で住むには大きすぎる印象だった。
「カミーロ、儂だ!ウォラ・ギネだ」
家の前でウォラ・ギネが叫ぶと、中から一人の男がのっそりと姿を現わした。
「やあ、ウォラ・ギネ。元気そうだね」
ひょろりと背が高く、顔の半分が髭で覆われていて、随分と老けた印象だった。
五十前という話だが、その髪はほとんど白髪で、伸ばし放題という感じだった。
カミーロはそのままウォラ・ギネのところに歩み寄り、無言で固く手を握り合った。
「ウォラ・ギネ、彼らは?」
「ああ、こいつは弟子のユウヤ。あとは新たなパーティの仲間だ」
「パーティだって? 驚いたな。たしか、現役は退いたんじゃなかったかい? それに弟子って、グラッドはどうしたの?」
「ああ、実は儂自身も驚いておる。マーティンが逝ってしまったあの日以来、止まってしまった儂の人生が、このユウヤと出会って再び動き出したのだからな。グラッドは相変わらずだ。杖術の継承には結局、興味を示さず、今は国王に取り入ってギルドマスターなんぞをやっておる。あれを後継者にするのはもうあきらめた。だが、儂とユウヤを結び付けたきっかけにはなったようであるし、今はもう何とも思っておらん。完全に儂との道は違えた」
「そうか……。グラッドにもそれなりに考えがあるのだろう。一緒に活動した期間はそれほど長くは無いが、一度はあなたの目に適っただけあって、非凡なものを持っていた」
二人の間には、他の誰も入り込めないような強い絆のようなものが感じられた。
「カミーロ師。私はこのパーティのリーダーで、テレシアと申します。女神リーザに仕える者として、伝説の
意を決したようにテレシアは前に出て、深々とお辞儀した。
「堅い、堅いよ。テレシアさんだっけ? 僕はもう信仰を捨ててしまったし、そんなに畏まられても困るよ」
「えっ、今なんと仰いましたか?」
「ああ、僕はもう教会に所属する僧侶じゃない。ただの世捨て人だ。だから、戒律に従って、そんな態度をとる必要は無いんだよ」
「そういうことだ。おい、カミーロ。実は儂らはこれからリーザイアに向おうと思うのだが、良かったら久しぶりにいっしょに行かぬか?」
呆然とするテレシアの尻をポンとはたくと、ウォラ・ギネは割り込むようにして話を続けた。
「あなたが、リーザイアへ? 」
「ああ、ここに寄ったのはそのついでだ。目的は色々あるのだが、リーザイアでしばし滞在し、可能であればあれに潜る気でいるのだが、ここで長年調査を続けているおぬしの助けがあれば非常に助かるのだが……」
「……いいでしょう。他ならぬあなたの頼みだ。それに私も二、三日中にはまたリーザイアに戻る気でしたし、タイミングもちょうど良かったですね。皆さん、その辺の相談を中でゆっくり話しましょう。僕の手作りの焙煎豆茶をご馳走しますよ」
このカミーロという人は、話し方も穏やかであるし、見た目こそ気を使っている様子はないものの、過激なグラッドやウォラ・ギネの知り合いとは思えないほどに常識的で、良い人そうだった。
信仰を捨て、世捨て人になったそうだが、過去にいったい何があったのだろう。
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