第63話 パラサイト・シングル
ふざけんなよ。ふざけんなよ。ふざけんなよ。
これじゃあ、今までと何も変わらねえじゃねえか!
百冊以上は持っていたファンタジー系のラノベや漫画などの関連書籍を通して、憧れを抱いていた異世界にやって来れたまでは良かった。
もう詰んでた元の世界での人生とおさらばし、一発逆転で異世界での理想の生き方が実現できるとぬか喜びしていたのだが、一気に絶望に叩き落とされた形だ。
この醜い容姿のまま、若返りもせず、しかもチート能力も授かっていない。
「
拓海は感情をコントロールできずに地団太を踏み、髪の毛を掻きむしった。
「おお、なんということだ。貴重な、最後の異世界召喚だったというのに、まさか再び大外れを引くとは、無職でしかもスキル無しの無能とは……」
ゼーフェルト王国国王パウル四世の絶望の嘆きが聞こえた。
「てめえ、節穴か!
「何を言っておる? 貴様の職業欄は空欄。つまり無職だ。能力値はすべて最低の1で、しかもスキル無し。ああ、頭痛がしてきた。だれかこやつを牢にぶち込んでおけ、前のやつは慈悲で放免してやったが、こいつはどうにも気に入らん。しかるべき時に酷刑に処す」
ふらふらと額を手で押さえたパウル四世がそう命じると、屈強な近衛兵二人が近づいてきた。
「やめろ!俺に触るな」
拓海は滅茶苦茶に手を振り回し、暴れた。
牢屋など御免だ。
自分たちの都合で召喚しておいて、横暴にもほどがある。
しかも「こっけい」って何だか分からないが、一度牢屋に入れられたら、きっとひどい目にあうに決まってる。
絶対に捕まるわけにはいかない。
拓海はまだ開いたままのステータスボードの中に、生き残りのためのなにか手段が無いか懸命に探した。
自宅警備、パラサイト・シングル、子供部屋おじさん。
ちくしょう。
スキル名が全部、俺への悪口じゃねえか。
近衛兵が両手を掴んできた。
凄い力で、俺の腕力では振りほどけそうにない。
「嫌だー。
懸命に大声を出すが、それが目障りだとばかりに、パウル四世が歩み寄って、手に持つ杖で顔面を殴りつけてきた。
口の中に血の味が滲み、頭に血が上った。
「殴ったな。親にも殴られたことなかったのに!お前、責任を取っておれを養え!」
スキル:パラサイト・シングル
≪効果≫対象者1名を自分の親代わりにして、扶養させることができる。このスキルの対象者は強烈な暗示にかかり、術者に我が子以上の愛情を抱いてしまう。このスキルを使うことができるのは生涯で1回だけである。
このスキルにすがるしかない。
他の二つのスキルは自宅や自室でしか力を発揮できないもののようであるし、元の力がこんなにも非力では強化したところでたかが知れている。
ここに書いてある通り、この国王を暗示に賭けることができるなら、まだ生き延びるチャンスがあるかもしれない。
頼む!効いてくれー!
拓海は祈るような気持ちで≪パラサイト・シングル≫をパウル四世に発動した。
「ぐうっ……」
パウル四世が苦しげな声を上げて、よろめいた。
どうだ?
どうですかー!
「お前たち、その者を……タクミを放してやれ」
イエス!
パウル四世は戸惑う近衛兵たちを押しのけ、拓海の両腕をやさしくつかんだ。
「殴って済まなかったな。我はどうかしていた。あまりの不運に己を見失っておったようだ。この世界に呼び寄せたのは我らだ。今後の生活の面倒は我が責任を持って、みようではないか。この城を自分の家だと思って好きに過ごすがいい。こうして、見慣れてみると、妻が飼っている愛玩用の子豚のように、そなたなかなかに愛らしい顔つきをしておるではないか。よし、決めたぞ。そなたを我が養子とし、爵位も与えようではないか」
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