第62話 新たなる異世界勇者
地上に戻った国王パウル四世とその側近たちは、召喚儀式のために整えられた秘密の部屋で、その時が来るのをじっと、固唾を呑んで見守っていた。
前回とは異なり、今回召喚されてくる異世界人は一人だけであり、生贄の入手方法の後ろ暗さもあって、国民には公表しないことになった。
この場に立ち会っているのも、ごく限られた側近たちだけである。
騙して生贄となる血判状に連名させた南部のルモン村などに住む住人たちがどうなったかの確認はとれていないが、足りない人数を埋めるために使用した囚人たちが息絶えたとの報告があったことから、女神リーザは確かに報酬の供物を受け取ったようであった。
あとはこの部屋の床に描かれた召喚陣に、異世界人が出現するのを待つばかり。
「陛下、いよいよ来ますぞ。この部屋の気配が変わりましたじゃ!」
暗灰色のローブ姿の老婆が喜々とした表情で言った。
ちなみにこの老婆は、先代の国王の時代から王宮魔術師として仕えており、「ゼーフェルトの魔女」とかつては諸外国に恐れられる存在であったが、最近は少し痴呆が入って来ており、力も衰えた。
だが、この召喚の儀式についても先代国王から聞いていて詳しく、初めてこの儀式を行った時などは彼女の助け無くしては難しかった。
老婆が到来の時を予言してしばらくたってから、突如、室内に轟音が鳴り響き、溢れんばかりの光が満ちた。
そして、光が消えた後、召喚陣の上に現れたのは、なぜか下半身だけ裸の男だった。
少し小太りで、眼鏡をかけており、二重顎だった。
鼻息が荒く、顔は紅潮していて、髪は短めでおかっぱ頭だった。
無精髭も生えていて、歳は三十前後に見える。
「うわっ、なんだ!? ここ、どこ? ティッシュは?」
胡坐をかき、目を閉じたまま何かもぞもぞやっていたようであったが、さすがに周りの視線に気が付いたのか、慌てて股間を隠し、辺りをきょろきょろした。
「異界の勇者よ。我が召還に応じ、よくぞ参った」
「はあ? 召喚ってなんだよ! 俺の部屋はどうなった? 自慢の美少女フィギュアコレクションは、どこにやったんだよぉ!」
股間を押さえたまま男は絶叫した。
「き、貴様っ、陛下に向かって何という態度を!」
「構わぬ。いきなりこのような場所に連れてこられて、さぞ困惑しておることだろう。誰か、この者に着る物を持ってまいれ。見苦しいし、いつまでもこのような恰好のままでは
いきり立つ近衛兵たちを制止し、パウル四世は努めて笑顔でそう命じた。
用意させた衣類に着替えさせたうえで、パウル四世は再び男に語りかけた。
「そなた、名は?」
「……拓海。
「タクミか、良い名だな。我はゼーフェルト王国国王パウル四世である。お前もニホン人か?」
「そうだよ。これってさ、異世界召喚ってやつ?」
「そうだ。話が早いな。お前は我らの召喚儀式によって、この異世界にやってきた。我が国を脅かす北の魔王を打倒するのがお前の使命だ」
パウル四世は他の異世界勇者たちにも説明した同じ内容をタクミという名の男に言って聞かせた。
「魔王を倒すまでは元の世界には戻さない。……つまり交換条件ってわけだ」
「そういうことになるな。戻りたければ、我らの言うことを聞くしかない。帰還の方法を知っているのは我らだけなのだからな」
「クソッ、最悪だ。しかも、せっかく異世界にやってこれたのに転生じゃなくて、転移なんて……。この見た目、元の世界のままじゃないか。イケメンのチートじゃなきゃ、意味が無いんだよ。ちくしょう! 異世界で美少女ハーレムを築き、モブ相手に無双するのが俺の夢だったのに……」
タクミはどこか苛立った様子で貧乏ゆすりをしながら、爪を噛み始めた。
「こいつ、意味の分からぬことをぶつぶつと……。陛下、この者の頭の方は大丈夫でしょうか。何か様子が……」
近衛兵長が傍らで呟いた。
その呟きに、パウル四世もため息を漏らす。
「そろそろ事情は呑み込めたであろう。それではさっそくステータスを見せてくれ。やり方はさっき教えた通りだ」
「そうだ!まだチート能力の方は可能性がある。女の子たちだって、力づくでものにすれば問題ないんだ。……ステータス、オープン!」
名前:
職業:
レベル:1
HP18/18
MP4/4
能力:ちから1、たいりょく1、すばやさ1、まりょく1、きようさ1、うんのよさ1
スキル:自宅警備
≪効果≫戦闘に関する己の能力を大幅に強化することができる自動スキル。ただし、その効果は自宅でのみ発動し、その場所を自宅化するには家主の了解、周囲の認識など一定の条件を満たさなければならない。
スキル:パラサイト・シングル
≪効果≫対象者1名を自分の親代わりにして、扶養させることができる。このスキルの対象者は強烈な暗示にかかり、術者に我が子以上の愛情を抱いてしまう。このスキルを使うことができるのは生涯で1回だけである。
スキル:子供部屋おじさん
≪効果≫自室に引きこもるだけで少しずつ成長できる。引きこもる時間が長ければ長いほどボーナスが付く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます