第三章 ゼーフェルト王国

第60話 武器の魂

「そうだ。いいぞ。そのままの状態を維持し続けろ」


俺は≪ヒノキの長杖≫に流し込んだ≪理力りりょく≫の存在をしっかりと認識しつつ、その力が分散してしまわぬように安定化に全神経を注いでいた。


≪ヒノキの長杖≫には、それ自体の≪理力≫が存在しており、その≪理力≫と俺の≪理力≫を結び付け、固定化させるイメージだ。

こうすることで長杖は強度が増し、その物質が持つ限界を超えた耐久性を発揮することができるのだ。


とはいえ、この状態を維持したまま戦闘をするなど、現時点では到底できそうもない。

少しでも気を抜こうものなら、込めた≪理力≫が外に発散されてしまいそうで、この感じは、おならを限界まで我慢している時の括約筋のイメージに近いかもしれない。


これに使用するMPメンタル・パワーは1だが、これを逃がさず身の内に戻せば、消費することは無い。


「すごいな、ユウヤは……。私は、武器に宿る≪理力≫を感じ取る段階でつまずいてるよ。MPを使って技を繰り出すことはできるのに、本当に不思議だ」


「私なんて、自分の中の≪理力≫とMPが同じものだという説明がいまいち理解できませんわ。神聖魔法を使うために使用するのがMPだと思ってましたから……」



王都を旅立った俺たちは、街道沿いの水場で荷馬車の牽き馬を休ませる傍ら、ウォラ・ギネから≪理力≫操作に関する指導を受けていた。


ウォラ・ギネの≪職業クラス≫は≪導師どうし≫。

武芸や魔法など多岐にわたる分野をかなり高度に習熟できるほか、己が習得している技術や知識を他者に効率よく伝授することを得意とするものらしい。

物覚えの良し悪しは、教わっている者、各自のステータスの≪きようさ≫に左右されるそうなのだが、その数値に自動で≪強化バフ≫がかかるらしい。


「導師、この大剣はかなり長く使った愛用のものなんですが、一向に≪理力≫が感じられない。なぜでしょうか?」


かなり苦戦している様子のアレサンドラがウォラ・ギネに尋ねた。


「ふむ、それはおかしいな。その大剣はなかなかの業物。そうした武器には魂が宿り、帯びる≪理力≫も多いものだが……」


虫魔人をぶった切るのに使わせてもらったけど、たしかに初めて持ったとは思えないほどに良い感触だったのを覚えている。


「ちょっといいかな」


興味が湧いてきたので、近付いて行って、解放コマンド≪しらべる≫を使ってみた。

この解放コマンドは、取得したままあまり使ってなかったのだが、良い機会である。


アレサンドラが持っていた大剣はこんな感じだった。


名前:黒鋼の大剣

レア度:B

耐久度:A

威力:B

所有者:ユウヤ・ウノハラ

説明:高度な鍛冶技術により生み出された黒鋼を用いた大剣。



あれ? 所有者が俺になってる……。


何か気が付いたのか、呆然とする俺の傍らにウォラ・ギネもやってきて、大剣を調べ始めた。


「これはどうやら、この大剣自身が心を閉ざしてしまっているようじゃな」


「大剣が心を閉ざしている……ですか?」


「うむ、極まれにではあるが、そういうことがあるのだ。先ほども言ったが優れた武器には魂が宿っておって、その魂が自らに相応しい所有者を選んでしまうことがある。この大剣にはおそらくおぬし以上に意中の所有者がおるのかもしれんな。それが誰なのかはわからぬが、その者以外には使ってほしくないというところなのだろう。別に、これまで通り武器として使う分には支障は無いのかもしれぬが、≪理力≫を宿して、その性能のすべてを引き出すのは、現時点では難しいのやもしれぬな」


ひょっとして、俺が勝手に使っちゃったから、無意識にこの大剣をアレサンドラからNTRネトリしちゃったってことなのか……。

虫魔人を俺が倒したっていう事実は当然、秘密にしなくてはならないし、ばれないように気をつけよう。


「導師、それでは私はどうすればいいのでしょうか」


「そうだな。≪理力≫の練習はこれを使え。その大剣については、おぬしが精進し、真の所有者であるとその大剣に認められるほかは無かろう」


ウォラ・ギネはそういうと自分が持っている長杖をアレサンドラに渡した。


「それはユウヤが使っているのと同じ≪ヒノキの長杖≫だ。くれてやるから、しっかり練習せよ。いいか、これは我がムソー流の始祖の言葉だが、『突かば槍 、払えば薙刀、持たば太刀。杖はかくにも外れざりけり』というものがある。これはムソー流の千変万化する多種多様な技術を表したものだが、長杖の扱いはすべての武器に通ずるものがあるのだ。なぜ儂が数ある武器の中でこの長杖を選んだのかというと、理由はここにある。長杖で最強の達人は、すべての武器で最強たり得るのだ」







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