第59話 冒険の旅路
ラウラがやっているのを真似して、皿に残った料理のソースをパンにつけながら食べていると、再びテレシアが口を開いた。
皆あらかた料理を食べ終わり、話し合いを再開するにはちょうどいい雰囲気になったと思ったのだろう。
ウォラ・ギネの過去の話は聞いたが、俺たちの今後についてはまだ何も決まっていない。
「ウォラ・ギネ導師の話を聞いた上で、やはり私は勇者を探すべきであると改めて思いました。勇者マーティンの志を継ぐ、新たなる勇者を私たちの手で見つけ出しましょう!」
「おぬしは本当に儂の話を聞いておったのか? いいか、マーティンの代わりなどおらん。勇者とは、真に選ばれし者。僧侶であるおぬしも知っておろうが、長い歴史の中でも勇者であったとされる者は数人しか確認されておらず、それも伝承の中でわずかの逸話が残されているだけだ。本当に存在していたのかもわからんし、人々の願望が生み出した創作の可能性もある」
「伝承に語られる勇者については私も真実であるか確信はしておりませんでした。それゆえに≪
すごいポジティブ思考だ。
本当に頭が下がる。
「呆れた僧侶脳だな。儂の仲間にもひとり、
「それは当然ですわ。私も、自らの勇者様を見出せたなら、この身も心も全て捧げるつもりですもの」
うーん、この人をこのままリーダーにしていて大丈夫だろうか。
「でも~、どうやってその≪勇者≫の≪職業≫を持った人を探す気~? まさか、『あなたのステータス見せてくださーい』って聞いて回るわけにもいかないよね」
「ラウラの言うとおりだよ。見ず知らずの人に自分のステータスを見せびらかすような人なんてそうはいないし、探そうとして探せるものではないと思う。パーティを率いてる以上、もっと現実的な目標を立てた方がいいんじゃないかな。お金をためて、引退後は、何か商いをする店を持つとか」
引退後に店を持つとかは却下だが、ようやくまともな意見が出た。
テレシアの主張には現実味がまるでないと、俺も思う。
「では、あなた方はどうしたいとお考えですか?」
「わたしは勇者じゃなくて王子様がいいな。お城とか国とか持ってなくても良いから、私のことを一生大事にしてくれる、強くて、頼りがいがあって、お金いっぱい稼げそうなイケメン!」
それって王子様ではないのでは……。
「私は少しでもお金を貯めたいな。前から叶えたい夢があるんだ」
知ってるよ。
でもその夢は叶っても、きっと幸せにはなれない。
俺よりも商売に夢中になっちゃうんだもの。
「ユウヤよ、さっきから黙っているが、おぬしの意見はなんだ? 」
ウォラ・ギネが急に俺の方に話を振って来た。
「ダメダメッ、ユウヤは、こういうことにあんまり興味が無いんだよね~」
俺より先に、ラウラが先に答えてしまった。
だが、俺の答えもまさにその通りで、別にやりたいことは無い。
それなりに楽しく過ごせて、死に直面するような危険な目に遭わなければそれでいい。
それと最近女の子とエッチしてないなと、つい浮かんでしまったがそれを口に出してしまったら、絶対に白い目で見られてしまうに違いない。
欲求不満なのかな、俺……。
「強いて言うなら、毎日同じようなこと繰り返すような単調な感じにならなければいいよ。同じようなルートを延々と行き来したり、数えきれない数の弁当に飾り用の花を一個ずつのせるお仕事とか」
「なんだそれ、そんな仕事あるのか?」
なぜかみんなのツボに入ったらしく、割とウケた。
「ふむ、つまりユウヤは刺激を求めておるということかのう? 各地にいるであろう猛者たち、未知の魔物。それらの強敵を求め、天下無双を目指す武者修行の旅に出たいのではないかな。わかるぞ、儂も若い時はそうであった。俺こそが一番。ナンバーワンであると世の中に認めさせたいのだな?」
「いや、勝手に決めないで。俺はそんな
「なんだ。つまらんやつだな。その若さで、何の目標も、夢も持ち合わせておらんのか。そのくせ、常識外れの実力だけは持っておる。本当にもったいないな」
「
「そうですわ。ウォラ・ギネ導師のお考えを聞かせてください。そもそもどうして私たちのような新米冒険者のパーティに加わろうなどと考えたのか、もっとくわしく知りたかったのです」
「儂の目的は一つだ。ここにいるユウヤにムソー流のすべてを授け、流派を絶やさぬこと。年老いた儂の人生の後悔は、奥義を授けるにふさわしい後継者を持つに至らなかったことだった。優れた才を持つ息子でもいれば良かったが、修行と血なまぐさい戦いに明け暮れた日々で、すっかり婚期を逃してしまった。あのグラッドにしても、あらゆる武器の、あらゆる戦闘技術を容易に習得できるというスキルにほれ込みはしたものの、生来の飽きやすさと不真面目さで、修行に本腰を入れることは
「そこに現れたのがこちらのユウヤさんというわけなのですね」
「うむ、そなたらを鍛えてやろうというのはそのついでと言ったら失礼だが、ごらんの通り、
おいおい、酒が入っているせいか、ぶっちゃけるなあ。
「やだー。おじいちゃん、下心見え見えじゃないですか~」
「まあまあ、今のはちょっとした老人ジョークだとしてだ。話をこうして聞く限り、おぬしらは非常に危ういパーティじゃな。特に、テレシア。おぬしのように理想だけが高く、実力が伴わぬ奴は、すぐ死ぬぞ。冒険者の世界とはそういう世界だ。実際に戦っているところを見たわけではないが、バンゲロ村での働きぶりなどを見るに勇者を求める旅など完全に力不足だ」
「そ、そうでしょうか……」
「自覚が無いあたりが、またな……。勇者を探すということは、より危険に自ら近づいてゆくことになる。それに、おぬし自身が精進しなければ、もし勇者を見出せたとて、今の実力では仲間として認めてはもらえまい」
流石のテレシアも意気消沈し、下を向いてしまう。
「テレシアは勇者、アレサンドラは金銭、ラウラは理想の男性、ユウヤは退屈しない日々だったな。これらを総合するともはやこの王都を出て、旅に出るしかあるまい。この国は広いし、世界はもっと広い。見聞を広めつつ、それぞれの目的を果たせるように努力するというのはどうかな?」
「いや、俺はべつにどっちでもいいけど、強引過ぎない? 特にアレサンドラは、旅に出る意味ほとんどないんじゃ……」
「浅はかな考えだな。ちまちまとした商売をコツコツやっておったのではあっという間に、儂のような年寄りになってしまうぞ。人生は短く、華の命も短い。玉の輿の相手に出会うこともできるかもしれないし、秘宝を発見して一攫千金ということもあるかもしれんぞ。冒険には危険も伴うが、無限のロマンが存在するのだ。魔王たちと殺し合うよりよっぽど楽しい人生が遅れるぞ。さあ、わかったらいざ行かん、冒険の旅へ!」
ウォラ・ギネがそう言って景気よく杯を掲げると、まずはラウラが「玉の輿、最高~!」と杯をぶつけた。
そして、他の二人も戸惑いながらそれに続く。
テレシアの勇者探しも具体性が無くて無謀だけど、ウォラ・ギネの提案も同じようなものだと俺は正直、呆れていた。
「どうした? おぬしは乾杯せんのか。おぬしが行かぬならこの話は無かったことにするぞ」
どうするかな?
まあ、あの王様たちから遠ざかりたい気持ちもあるし、各地を見て回るのも面白そうかも……。
そろそろ≪ぼうけんのしょ≫にセーブし忘れていた日がやってくる頃だし、もし問題が起きたら、全部なかったことにすればいい。
話に乗って、試しに行ってみるか!
未知の冒険の旅路へ。
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