第57話 志低き者
「……ウォラ・ギネ、戦いを途中で投げ出したあんたには何も言う資格は無い。俺には俺の生き方があるし、そのユウヤを新たに弟子に取ったなら、あんたにとって俺はもう不要だろう。金輪際、俺にはもう関わらないでくれ」
それだけ言い残すとグラッドはどこかに去っていってしまった。
ウォラ・ギネは少し寂しそうな顔をしたが、それを引き留める様子も無く、「見苦しいところを見せてしまったな」と皆に頭を下げた。
気まずい雰囲気になってしまったこともあり、とりあえず場所を変えようということになった。
ギルドを出て、近くの酒場に向かう。
新メンバーも加わったことだし、今回の反省も交えて、パーティの今後について話し合う必要があった。
まず料理などの注文をして、先にやって来た飲み物で、皆の無事と依頼達成を祝う乾杯を行う。
アレサンドラによれば、これは命懸けの仕事を終えた冒険者のお決まりの儀式のようなもので、どのパーティでもこのようにするものらしい。
張り詰めていた緊張と疲れから己を解き放つという意味もあるということで、仕事モードのオンとオフを切り替えるみたいな発想なのだろう。
俺とアレサンドラは麦酒、ウォラ・ギネは芋酒だった。
女神リーザに仕える僧侶の戒律によって酒が禁じられているテレシアと、酒が飲めないラウラは、ショロという甘酸っぱい実のしぼり汁と水を割ったものを頼んでいた。
「あの虫魔人と遭遇した時はもう駄目かと正直、覚悟してたんだけど、一人も欠けることなく王都に戻ってこれて、本当に良かったよ。あれは、ユウヤが言ってた通り、撤退するのが正解だった。私の判断ミス。本当にごめんなさい」
開口一番、そう頭を下げたのはアレサンドラだった。
「そんな! お姉さま。頭を上げてください。結果的には、お姉さまが虫魔人たちを倒してくださったわけですし、この国を未曽有の危機から救うことになったのです。王都からも近いあのような場所で、≪
テレシアの話に何か思うところがあったのか、ウォラ・ギネがちらっと俺の顔を見た。
「そ、そうそう。まさにアレサンドラ無双という感じだったな~。ちょっと怖かったけど、なんていうか勇ましくて恰好よかったよ」
「やめてくれよ。本当は、ユウヤにはあんな姿見られたくなかった。でも、あの時はああしなきゃ全滅してしまうって思ったんだ……」
「えっ、なんで俺に見られたくなかったの?」
「そ、それは……」
アレサンドラはなぜか顔を真っ赤にし、自分の唇に指を軽く当てたままうつむいてしまう。
「おい、話が横道に
「そ、そうですわね。まずはリーダーとして、このテレシアがこの話し合いを仕切らせてもらいますが、皆さんは今後の活動について、なにか意見がありますか?」
「俺は特になし。みんなの意見に付き合うよ」
皆がそれぞれ考え始める中、俺は即座にそう答える。
「ユウヤさん、あなた確か、この間もそんな風に人任せと言うか、関心無さそうでしたが、なぜですか? 」
なぜって、……聞かれても困る。
特にやりたい依頼なんかはないし、お金がもらえて、それなりに楽しければそれでいいんだ。
元の世界でも、夢とか目標とか特になかったし、別にそれに対しても不満とか持ってなかった。
「ユウヤって、クールと言うか~、ちょっと冷めたところがあるよね~。そこがステキなところでもあるんだけど、もうちょっと心を開いてほしいな~」
隣の椅子に座っていたラウラが、自分の椅子を俺に寄せて、腕を組んできた。
顔が近い。
上目遣いのあざとい可愛さにちょっとドキッとしてしまう。
「いや、本当に何もないんだよ。冒険者の仕事に詳しいわけでもないし、みんなの決断を信頼しているというか……」
「ユウヤさんはなんで冒険者になったんですか?」
「いや、なりたくてなったわけじゃないっていうか。生活のために仕方なく……」
「そうなのですね。私たちと同じ新人でありながら、それだけの実力をお持ちなのに、……その志の低さは残念でなりません」
うわっ、今後の方針を話し合っているはずなのに、なんで話が俺の話題に向いてくるんだ。
しかも、軽くディスられているし。
「ユウヤは目標とかないのか? 一流の冒険者になりたいとか、名を上げて国に仕官したいとか、勇者を目指し世界を救いたいとか」
「そうです!ユウヤさんは、その若さでそれだけの実力をお持ちなのです。勇者を目指されてはいかがですか。そして、≪世界を救う者たち≫のような勇者パーティを私たちも目指すというのはどうでしょうか?」
興奮したテレシアが席を立ち、俺からラウラを引きはがし、迫って来た。
「勇者パーティなど、くだらん!」
いきなりそう切って捨てたのは、他でもなく、かつて≪世界を救う者たち≫に所属していたウォラ・ギネだった。
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