第55話 資質と特異性
「馬鹿たれが! 消費する
意識が戻ってすぐ、俺はウォラ・ギネに長杖で小突かれ、しこたま怒られることになった。
俺が全MPを使ったらしい謎の一撃を放った方向は、山側を背にした麓の方であったため、正面の木々を吹き飛ばし、空に浮かんでいた雲の形を少し変えるだけで怪我人はでなかった。
だが、もし反対の方向だったら、ゴブリンたちが洞窟の中に運び込んでいたバンゲロ村からの略奪品はおろか、保護した子供たちさえもすべて無事では済まなかったというのだ。
「まったく! 巻き添えを食ったのが儂だからこうしてピンピンしていられるが、お前の仲間の娘っ子たちであったなら、おそらく命は無かったぞ」
「……面目ない。仰る通りです」
本当はどさくさに紛れて教えるのではなく、もっと丁寧に教えてくれてればこんな大惨事にはならなかったと反論したかったのだが、説教が長引くだけだと考え、口にするのはやめた。
「まあ、このぐらいにしておくが次は気を付けることだ。ちなみにMPはどうなった?ステータスで確認してみろ」
「あっ、はい。ステータスオープン」
名前:
職業:セーブポインター
レベル:44
HP:799/799
MP:2/487
能力:ちから63、たいりょく63、すばやさ63、まりょく43、きようさ63、うんのよさ63
スキル:セーブポイント
≪効果≫「ぼうけんのしょ」を使用することができる。使用時は「ぼうけんのしょ」を使うという明確な意思を持つことで効果を発揮することができる。
スキル:場所セーブ
≪効果≫任意の場所を三か所までセーブできる。「場所セーブ」を使うと≪おもいでのばしょ≫の一番から三番まで指定してセーブが可能。セーブした場所はロードすることによって、いつでも訪れることができる。仲間など、視野内の認識可能な複数対象にも効果を及ぼすことができる。使用回数制限なしだが、対象人数に応じてMPを消費する。
解放コマンド:どうぐ
≪説明≫自らに占有権があるアイテムを≪どうぐ≫の中に収納できる。「コマンド、どうぐ」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。所持数制限なし。使用回数制限なし。
解放コマンド:しらべる
≪説明≫対象のアイテムがどのようなものなのか調べることができる。「コマンド、しらべる」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。使用回数制限なし。
やっぱり、MPは消耗し、2しかなかった。
そのせいだろうか、疲労感で頭がかなり重たく感じ、かなりの眠気がある。
「……た、たまげた。お前さん、≪
「うわっ、なんで人のステータス、勝手に覗き見てるんですか!」
しまった。迂闊だった。
ウォラ・ギネは最初からこうするつもりで、俺にステータスを出させたのだ。
俺は慌てて、ステータスボードを閉じた。
「儂は師匠だ。弟子のステータスを確認して何が悪い。それに、やはり確認して善かったぞ。憶測でしかなかったお前の資質と特異性を把握できた」
「資質と特異性……ですか?」
「そうだ。初めて会った時、儂は不意打ちを仕掛け、お前はその攻撃を躱したな?」
「はい。あの時はやばい爺だと正直思いました」
「ふん、それはお互い様じゃ。お前は気が付いておらんようだが、儂はあの時、かなり遠くからお前さんの気配を察知していたのだ。何せ、とんでもない≪理力≫を身の内に秘めた化け物が、何の警戒もせずに、儂の方に真直ぐ向かってきたのだからな」
「そうだったんですか。俺の方は、留守なのか、そうでないのか全く分かりませんでしたよ」
「だろうな。そして、最初に不意打ちを躱された時に、二度目の驚きがあった。お前さんの眼球の動きだ。これだけの≪理力≫の持ち主であれば、扉の向こうに儂が潜んでいたことに気が付いても良さそうなのに、まったくそれに気が付いていなかった。杖先が視界に飛び込んできて、その動きを見てから、体が反応したのだ。しかもそれで回避が間に合ってしまったのだから、恐れ入る。≪理力≫の力も使わずのこんな芸当は、弟子であったグラッドでさえ不可能じゃっただろう」
「師匠、さっきから何が言いたいんですか。話長くて、回りくどいし、分かりにくいっすよ」
「五月蠅い。良いから黙って聞け。常識が欠落したお前にもわかるように順を追って説明しておるのではないか。いいか、そして、最後に、杖の選別をするために儂と手合わせしたな。あれで、だいたいは把握できていたのだ。お前がわしらとはまったく異なる認識を持った人間であるとな」
ギクッ。
なんか勘付かれたのかな。
別の世界から来たのだとバレたら、面倒くさいことになりそうだ。
「お前は、何から何まで常人とは異なる。それだけのメンタル・パワーを持ちながら、赤子よりもそれに対する認識が無い。まったくの皆無だ。普通の人間はこの世に生を受けてすぐ、呼吸をするのと同様にMPの使い方を本能でわかっているが、お前はMPの使い方をまるで知らず、剝き出しの生の肉体の力のみを使っていた。だからあえて、他の者には言う必要が無い『消費するMPは1だ』というような言い方をしたのだ。本能に備わっていないのであれば、頭を使うしかないからな」
「なるほど、納得しました。たしかに俺の中には最初からMPを使うという概念すらなかったので、あの教え方はわかりやすかったです」
「そうか。儂も初めての試みだったから、まずは発動できてよかった。だが、おぬしの場合は、ここからが問題だ」
ようやく怒りが収まったのか、話し方がすこし穏やかになった。
ここは余計な口を挟まず、大人しく聞こう。
「儂もかつてはそうだったが、普通の人間は、MPを最初は少なくしか引き出せない。ステータスの数値で言うところの1から始めり、徐々にその数字を大きくしていく。それに応じて、使える技を習得し、増やしていくのが修行の基本なのだ。だが、お前の場合は逆だ。最初から余すことなく膨大なMPを引き出すことができてしまっている。何が原因でそうなのか分からないが、想念に限りが無いのだ」
「想念ですか?」
「そうだ。≪想≫と≪念≫。これは我がムソー流の概念なのだが、人は皆、己がどのようなことができるのかその想像力の枠の外のことは、為し得ない生き物であるのだ。こういうことがしたい、これならできる、といった具合に何かを試みる前にそれを想いつかなければ、そもそもが実現しようがないのだ。先ほどのお前さんの暴発は、ただ単に制御しきれなかったメンタル・パワーが発射されただけにも思えるが、一定の方向性と拳の形をした不完全なイメージがあった。あれは頭の中になにかそのような≪想念≫があったのではないか?」
う~ん、本当は拳に込めて殴ろうとしてたんだけど、アニメや漫画の必殺技のイメージが混ざっちゃったのかな?
「とにかく、お前の場合は使えるメンタル・パワーを大きくする修行は必要ない。むしろ、その持てあまし気味なMPをどうやって制御し、技のイメージと固定化するのかが、課題だ。ひとところにMPを留める技術も学ばねばならんな。あのようにただMPを素のまま放出するのは無駄が多すぎるし、その力を生かし切れておらん」
「そうかな? あのぐらいの威力が出るなら十分に奥の手の必殺技として機能しそうだけど……」
「たわけ。この爺一人殺せないで、何が必殺技か。あんなのはただの事故、災害の類に過ぎん。あの時のお前さんのメンタル・パワーは先っぽの拳の形をした気の部分以外は集約しきれておらず、駄々洩れしていただけで、密度も強度もまるで無かったから、≪理力≫でガードした儂には傷一つ付けることができんかった。いいか、メンタル・パワーは何かに宿したり、具体的な≪想念≫をもって、具象化することにより真価を発揮するんだ。その辺のところを忘れるなよ。まあ、ムソー流を学び、その根底にある信念を我が物にすればいずれ体でわかってくるじゃろ。期待しておるぞ、若き継承者よ」
ウォラ・ギネは先ほどまでの剣幕はどこへやら、傷だらけの悪い人相に、人懐っこい笑みを浮かべ、俺の肩をポンと叩いた。
正直、そのムソー流とかいうものの継承だとか、今以上に強くなりたいとかは特にないが、とりあえず先ほどみたいなMPの暴発は、周りの人を巻き込んでしまう恐れがあるので、そうならないようにもっと学ぶ必要性はあると思った。
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