第53話 新しい仲間

新たな長杖を貰った俺は、ウォラ・ギネの家仕舞いを手伝い、そのまま仲間たちの待つプレメントの宿屋に戻った。

ウォラ・ギネもしっかりついて来ており、どうやら先ほど語った通り、パーティの仲間に加わる気らしい。


コマンド≪どうぐ≫の中には、ウォラ・ギネが自ら作った様々な長杖八十四本と家財の中でも貴重だというものがそのリストに名前を連ね、弟子にされてしまった俺が責任を持って預かることになった。

長杖には「世界樹の長杖」や「白銀の長杖」など色々な種類があり、ちなみに俺が貰ったのは「ヒノキの長杖」だった。


この「ヒノキの長杖」は、ウォラ・ギネが理想の長杖を作るための過程で、練習用として生み出されたものらしい。

ヒノキはたぶん、俺が元にいた世界のものとほとんど同じであると思われ、特有の良い匂いがした。

飾り気無く、地味で素朴な見た目だ。


本音を言えば、もっとかっこいい長杖が欲しかったが、「杖をすぐ折るへたくそには、これで十分」とのことだった。



「ユウヤ~、日が暮れるまでには戻るって言ってたから、みんな心配してたんだよ~」


部屋の扉を開けると、ラウラがいきなり抱きついてきて、あざとい上目使いで俺を見た。


「ラウラ、人前でそのようなはしたない真似はやめなさい。ほら、ユウヤも困っているでしょう」


女の子に触られのは嬉しいし、別に困ってないが、テレシアがラウラを強引に引き離しにかかる。


そんな様子を寝台の上のアレサンドラが、指先で唇をそっと触れながら、呆然と見つめていた。


「アレサンドラ、もう起き上がっても良いのか?」


俺の問いかけに、アレサンドラはふと我に返り、なぜか頬を赤くした。


「あ、ああ。すまない。心配かけたな。この負傷は、言わば≪狂戦士化≫の副作用で、呪いに近い部分もあるから、テレシアの回復魔法も効力が薄いんだ。でも、あと数日もすれば元通りになるよ」


「それは良かった。でも無理しないでゆっくり休んでよ」


「ありがとう。それと、ユウヤが気を失っていた私をここまで運んでくれたんだよな。デカい女だし、重かっただろう?」


「いや、そうでもないよ。虫魔人たちを倒してもらって、命を救ってもらったんだし、それくらいは俺も役に立たないと……」


「そうか。……あのさ、変なことを聞くけど、私とその……口づけを……」


「おい、中に入るぞ!」


小声でぼそぼそとしたアレサンドラの言葉を遮るように、ウォラ・ギネが入り口のところに立っていた俺を押しのけて、ずかずか入室してきた。


タイミングを見て、俺からうまく紹介しようと思っていたのだが、年寄り特有の気の短さゆえか、放っておかれたことに腹を立てているのか、我慢できなかったらしい。


「ユウヤ、この御方はいったいどなたですか?」


「パーティの加入希望者なんだけど……」


「うむ、儂の名はウォラ・ギネ。ここにいるユウヤの師匠だ。よろしく頼むぞ」


ウォラ・ギネの自己紹介に一瞬、その場が静まり返る。


「ウォラ・ギネ!!!」


そして、アレサンドラたち三人の驚く声が同時に重なった。


「ユウヤ! この人、いやこの御方は本当にあの有名なウォラ・ギネ様なのか? それに今、ユウヤの師匠だって……」


「いや、昨日いつの間にか弟子入りさせられていただけで、俺も面識があるわけじゃないよ。アレサンドラ、この爺さん、そんなに有名なの?」


「何を言ってるんだ? 冒険者じゃなくても、その名前くらいは子供だって知ってる。≪導師マスター≫ウォラ・ギネ。人知を超えた不思議な術を使い、ありとあらゆる武器にも精通した達人中の達人!あの≪世界を救う者たち≫を立ちあげた創設期の人物で、ほとんど伝説上の人物だぞ」


「ふーん、そうなんだ」


確かに俺の突き技をものともしてなかったし、実力は本物だった。


「そうなんだ、じゃないよ。あ、いたっ……」


ウォラ・ギネに対して無礼だと思ったのか、アレサンドラが寝台から下りようとして顔を歪ませた。

まだ相当に全身が痛むらしい。


「あ~、怪我人はそのままで善い善い。全身に≪理力りりょく≫のさわりが出ておる。相当に無茶をしたらしいな」


「わかるの?」


「わからいでか。おそらくその娘のスキルは、自らの肉体に制御不可能なほどの≪理力りりょく≫を宿し、強化する類のものなのだろう。格上相手に、長時間使用したために、普段以上の反動が来た。そう言ったところじゃろう」


ウォラ・ギネは胸を張り、その白くなった顎髭を撫でた。


アレサンドラはその解説に目を丸くし、「本物かも……」と呟いた。


「私はこのパーティのリーダーで、テレシアと申します。それで、偉大なウォラ・ギネ様がどうして私たちのような駆け出しのパーティに?」


「うむ、実はもう冒険者稼業はやめにして引退しておったのだが、昨夜、訪ねて来たこのユウヤが気に入ってな、昔の血が騒ぎ始めたのよ。なかなかに見どころがある若者ゆえ、少し鍛えてやろうとな。テレシアだったか、もし儂をパーティに入れてくれるなら、お前さんたちも一流の冒険者に育て上げてやるぞ。どうだ、悪い話ではあるまい」


「それはもう光栄な話ですが、……しかし本当によろしいのですか」


「うむ、二言は無い。約束しよう」


「それでは是非! 実はこの間の依頼クエストで、自分の実力不足と不甲斐なさを痛感していたところだったのです。女神リーザに仕える身でありながら、魔物に怖気づき、何もできませんでした。勇者を見出し、導く存在に一日もはやくなるため、ご指導ご鞭撻のほどどうかよろしくお願いいたします」


おいおい、メンバーに相談も無く、勝手に入れるなよ。

ここで断らなきゃ、この爺さんずっとついて来るぞ。


しかも本物かどうか、もっと確かめなくても良いのか。


「私も、≪狂戦士化≫に頼らなくても皆を守れるように強くなりたいです!」


頼みのアレサンドラもすっかり本物だと信じてしまっていて、メンバー入りを断ってくれそうな気配はない。


ラウラは……、「みんなが良ければ、別にわたしはどっちでもいいよ~」と能天気な笑みを浮かべている。


「善し、決まりじゃな。今日から儂は、おぬしらの仲間だ。ユウヤ以外には師匠風吹かせる気はないから、様付けや師匠呼びは不要だぞ。まあ、よろしく頼む」


自分の酒の不始末が原因とはいえ、なんか妙な方向に進み始めてしまった。


俺は新しい杖がもらえれば、別にこれ以上強くならなくても良かったんだけど、みんなは妙に盛り上がってしまっているし、困ったなあ。


師匠付きだと、女の子たちと恋愛とかしにくいだろうし、なにか色々とやりづらい。


ロードして、≪ぼうけんのしょ≫三番の城門前のシーンまで戻らないといけないほどの状況でもないし、俺の心中は複雑だった。



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