第46話 洞窟の闇より出でし者
この調査以来の目的であった洞窟の入り口に到達した。
この付近の様子や地形を持ってきた紙に記し、領主に提出すれば、中に入らなくてもいくらかの報酬は得られることにはなっている。
だが、もう帰ってもいいんじゃないかと思っている俺とは対照的に、アレサンドラは洞窟内を調査する気満々で、その表情も真剣そのものだ。
俺がなんで帰りたいと思っているのかと言うと、それは少し考えたら誰にでもわかる。
この山で異常発生していたのは、≪
やつらが近付けまいとしていたこの洞窟は、おそらく奴らの巣であり、その内部には、あの魔物らを生み出した親がいて、想像するだに気持ち悪いのだが、卵とか幼虫がうじゃうじゃしているに違いない。
屋外でさえあんなに気持ち悪いのに、限定された空間内で周りを囲まれたら、どれだけおぞましい思いをすることになることか。
「ねえ、あのさ、やっぱり中に入るのはやめない? 枯れ木とか葉っぱとか放り込んでさ、それに油撒いて火をつけて、出口を塞ぐとかどうかな?」
「おそろしいことを思いつくなあ。でも洞窟の奥行きも分からないし、煙が充満したら、私らも入れないだろう」
いや、だから入りたくないんだって。
「アレサンドラさん、わたしも、この洞窟に入るのはちょっと嫌かも……」
ラウラがやってきて、俺の腕にしがみつきながら同調した。
俺はナイス援護と内心でガッツポーズした。
肘に当たっている小ぶりなおっぱいの感触も少し嬉しい。
「テレシア、お前はどう思う? このパーティのリーダーの意見が聞きたい」
「私は……、お姉さまと同意見です。先ほどは一度退くべきだと言いましたが、お姉さまの話を聞き、考えを改めました。私も恐ろしさを感じていないわけではありませんが、私たちがこの洞窟を調べる事になったのも女神リーザの思し召しかもしれないという気がしてきたのです。女神リーザに仇為す魔の者どもの、何らかの企みがあるのなら、命に代えてもそれを挫くのが僧侶たる私の役目……」
くそっ、テレシアめ。
何が僧侶たる私の役目だ。
そういうのは自分の力で解決できるようになってからいってくれ。
テレシアの言葉に勇気づけられたのか、アレサンドラは頷き、「よし、行こう!」と俺たちの方に向かって言った。
一応、アレサンドラのことも心配してないわけではないので、仕方ない。
俺も行こう。
げっそりした顔で入り口の方を見た瞬間、俺の目が洞窟の入り口の暗がりの中で動く何かを捉えた。
「みんな! 気を付けて。何か出て来るよ」
俺の呼び掛けに、皆が身構えた。
このメンバーが並んで通れそうなほどに大きな洞窟の入り口から出てきたのは、先程のバッタモドキではなく、人間のように手足のある何かだった。
黒と緑を基調の色とした全身鎧に身を包み、背は俺よりも高い。
パッと見で、人間だと思ったがそれをすぐに打ち消してしまったのは、頭部の形状だ。
口から下は人間に似ているが、それ以外の部分は≪人喰い蝗≫そのものだったのだ。
額から生えた二本の触角が蠢き、それがただの被り物などではないことを証明している。
「アレサンドラ、あれは何?」
「わからない。でも少なくとも普通の人間じゃないよね?」
アレサンドラも珍しく少し不安げな表情でこちらを見てきた。
「小賢しき人間どもよ。よくも我らが手塩に育てた大事な子らを大勢殺してくれたな」
そして、蝗人間の背後からぴょんと人間サイズのバッタモドキも一匹出てきた。
でかい。そして気持ちが悪い。
「お前たちは何者だ? この山で一体何をしている?」
アレサンドラの問いかけに蝗人間が、無い鼻で笑った。
「我らの食料ごときが、それを聞いてどうするというのだと言いたいところだが、子らの仇であるお前たちには名乗るほかあるまい。我は魔王様の使いにして、ゼーフェルト王国侵略のための尖兵である虫魔人ライドだ。ここに控えるは我が最愛の伴侶にして≪
なんだってー。
あのデカいバッタが伴侶?
つまりこいつ、あのデカいバッタとエッチして子作りしてるってことだよね。
何て恐ろしい想像をさせるんだ、こいつは……。
「虫……魔人だと? お前、魔人だというのか」
何かに気が付いたらしいアレサンドラが問い返すが、俺の頭の中はそれどころではない。
「ほう、お前、魔人が何たるかを知っているのか。さすがは完全体ではなかったとはいえ、あそこまで育った我が子らを殲滅せしめただけのことはあるようだな。あの子らにせよ、あと数年、いや一年ほどあれば貴様らなど相手にならなかったであろうが、それだけに口惜しい事よ」
「ねえ、取り込み中のところ悪いけど、魔人って何?」
ようやく正気に戻れた俺が尋ねる。
「魔人は文字通り、魔王に従う闇の眷属たちの総称だ。魔人が姿を現わすところに滅びは訪れる。そう恐れられているんだ。魔人は魔王の手足となって、魔物たちを率いる存在。しかし、その存在は謎に包まれていて、その姿を知る者はほとんどいないとされている。まさか、こんなに王都の
「この王国の滅びはすぐそこまで近づいていたのだ。我が子らが立派に育ち、魔王様の軍勢としての訓練を終えた暁には、その喉元であるこの地から挙兵する計画だった。それを邪魔した罪、万死に値する!」
虫魔人ライドが滑稽なぐらいの異常な跳躍力で、アレサンドラめがけて飛び掛かって来た。
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