第43話 場所セーブ

少し用事がある。

そう告げて、俺は一旦、パーティと別行動をとることにした。


店が立ち並ぶ賑やかな通りに向かい、食料や物資の他、登山や洞窟の探検に役立つと思われる道具類を買い込んで、コマンド≪どうぐ≫の中に入れていった。

この辺りは、アレサンドラの商売を手伝っていた時に何度も来ているし、どこに何の店があるか、だいたい把握している。


いくつも買った水筒には食堂で水を入れてもらい、弁当にすると言って注文した温かい料理の包みもそのまま≪どうぐ≫リストに保存する。


自分でも小心者だと思うが、山や洞窟で遭難することもあるかもしれないし、≪どうぐ≫リスト内のアイテムの状態はそのまま保存されるので、持ち出しにはなるがストックが多くあるに越したことはない。


アレサンドラはどうか分からないが、残りの二人は、魔物が多く出没するという山を、まるでハイキングにでも行くような認識の無さで楽しみにしているようであるし、ここは俺がしっかりするしかない。


今までは、上手く行かなくなったらすぐロードできたのだが、当面はセーブできる日も無く、やり直すのであれば、またあの城門前まで戻らなければならない。


どうなるかある程度分かっている日々を繰り返すというのは想像以上に面倒なものなのだ。



買い物と準備を終えた俺は、四人でとった宿に戻る前に、あの不思議な≪ぼうけんしょ≫の部屋に寄ることにした。


「セーブポインターよ。よくぞ参った。吾輩は、記帳所セーブポイントの妖精、名前は、……まだない」


……以下略。


「どうした? この日はセーブできんぞ。吾輩に何の用だ」


「いや、今日はセーブじゃなくて、ポイント交換リスト見せてもらえる?」



セーブ特典ポイント:33


ポイント交換リスト


場所セーブ(使用回数制限なし):10ポイント

人セーブ(使用回数制限なし):10ポイント

「まほう」解放:10ポイント

「とびら」解放:5ポイント



別にラウラが羨ましくなって、コマンド「まほう」を解放しに来たわけではない。


今回の『洞窟調査依頼:プレメント近郊ロブス山中』を達成する上で、役に立つんじゃないかと気になっていたスキルがあったのだ。


場所セーブ(使用回数制限なし):10ポイント



このポイント交換リストにあるスキルはどれも取得してみるまでその効果は不明だ。


正直、≪場所セーブ≫って何だって話だが、今までセーブ特典ポイントで取得したスキルはどれも有用であったし、文字通り場所をセーブするのであれば、険しい山の移動などが楽になるのではないかと思ったのだ。


セーブ特典ポイントも33貯まっているし、交換してみよう。



現実世界に戻った俺はさっそくステータスをオープンし、取得した≪場所セーブ≫の効果を確認した。


スキル:場所セーブ

≪効果≫任意の場所を三か所までセーブできる。「場所セーブ」を使うと≪おもいでのばしょ≫の一番から三番まで指定してセーブが可能。セーブした場所はロードすることによって、いつでも訪れることができる。仲間など、視野内の認識可能な複数対象にも効果を及ぼすことができる。使用回数制限なしだが、対象人数に応じてMPを消費する。


おお、なんか俺が想像してた能力っぽい。


しかも、視野にさえ入っていれば仲間も一緒に移動できるらしく、これなら万が一、洞窟内で危険な状況に陥ってもみんなを連れて脱出可能だ。


もっとも、コマンド≪どうぐ≫にまつわるアレサンドラとの破局で懲りたので、これは本当に最終手段として使おうと思う。

人は常識を超えた力を目の当たりにした時、ろくなことを考えつかない。


誤魔化すのも大変だし、できるだけセーブポインターの力は隠すに越したことは無いと俺は学習したのだ。


とはいえ、我ながら、ナイス思い付きだった。


気分を良くした俺は意気揚々と、三人が待つ宿に戻った。




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