第42話 謎の洞窟

目的地であるプレメントの街までは荷馬車で三日。


アレサンドラと俺は馬に乗れるので、前方と後方を各自担当し、テレシアたちは一番前を行く荷馬車の荷台に腰を掛けている。


俺は経験済みだからわかるが、荷台の乗り心地は決して良くない。

整備が行き届いていない街道の凹凸のせいで、打ち付けられる尻が痛くなるし、じっとしているので体がなまってしまう。



何度かウルフやゴブリンなどの魔物に襲われつつも、俺たちはプレメントまで無事に、クラッセ商会の商隊を送り届けることができた。


そしてプレメントの街の冒険者ギルドで、護衛依頼達成の諸手続きを済ませ、例のC級案件『洞窟調査依頼:プレメント近郊ロブス山中』が達成済みかどうかを含めて、情報を集めることにした。


まずはギルドの職員にこの依頼の達成状況を聞いてみた。


「ああ、この依頼を受けてくれたんですね。いや~、このプレメントのギルドでもしばらく募集していたんですが、パーティが二組ほど行方不明になってましてね。怖がって誰も受注してくれない状況になってしまっていたんですよ。それで王都のギルドなど他の支部にも協力をしてもらい、広く募集させていただいたんですが、よかった。これで領主様にウチのギルド長も面目が保てます」


「ちょ、ちょっと待った。二組が行方不明って、それはいつの話?」


「そうですね。もう半年ほど前になるでしょうか。受注してくれるというE級パーティが見つかったんですが戻ってこず、その捜索と救助を請け負ってくれたC級パーティも戻って来ませんでした」


「それで、その領主様はどうしたの?」


「はい、領内に変な魔物でも住み着いたら大変だということで、家来たちにその場所を確認に行かせたのですが、いつの間にか湧いて出てきていた、たくさんの魔物たちに邪魔されて、その場所に辿り着くことさえできなかったというんですよ。その山を狩場にしていた猟師たちがその洞窟を見つけた時にはそのようなことは無く、魔除けの鈴を鳴らして歩けば、まずめったに魔物や妖魔の類と出会うことは無かったそうなのです。ただ、その洞窟の中からは、気味が悪い呻き声のようなものが絶えず聞こえていたらしく、さすがの猟師たちも怖がって中を確かめることができなかったそうですがね」


「たくさんの魔物か……。国境付近ならともかく、この王都からもそれほど離れていないこの土地でというのは妙だな」


アレサンドラが不思議そうな顔で首を傾げた。


「はい。このようなことは長いプレメント支部の歴史の中でも初めてのことです。ですが、その魔物たちはなぜかその山から出てこようとせず、付近の被害もそれほどではないため、騒ぎにならなかったのです。ロブス山に近づきさえしなければ特に犠牲者が出ることも無く、様子を見ようという判断が下ったのです。我々庶民よりは腕っぷしが立つとはいっても、≪兵士≫や≪衛兵≫といった一般職の≪職業クラス≫持ちでは、魔物相手にはかないっこありません。領主の家来たちは、魔に属する者たちと戦うべく女神リーザ様から大いなる加護を授かっているあなた方、冒険者とは違うのですから」


「そうなの?」


俺はアレサンドラの方を見て、尋ねる。


「……そうだな。数が互角なら、ゴブリンとかの下級の魔物とは渡り合えるとは思う。≪兵士≫や≪衛兵≫は、そのクラスの特性上、人間相手の戦闘には限定的にかなり有利になるけど、魔物相手にはその恩恵ボーナスが受けられないからな」


なるほど、そういう縛りがあるのか。


俺を乱暴に追放した衛兵たちの顔が、思わず浮かんでしまう。


この間の感じだとその恩恵とやらがあっても、もう力の差がかなりあるようだったし、あいつら一人一人はもはやあまり強そうな感じがしなかった。


そして、ふと、冒険者がそれほどに強いのなら、王様や貴族がなぜ直接、召し抱えたりしないのか気になったが、話が脱線しそうだったので、その質問は今はやめておくことにした。


「なるほどね。でも、その冒険者でさえも、二組が行方不明になってるんでしょ? この依頼はやめておいた方がいいよ」


「ユウヤさん、何を言うんですか! 私たち冒険者の力は、こういう時のために女神リーザから授かっているのです。勇者とは、第一に、勇気ある者。いくら腕が立つと言っても、困難を避けてばかりいてはその高みには近づけませんよ」


テレシアが真剣な顔で俺に食って掛かって来た。


俺が気絶させたウルフをあんな凶器を使ってようやく仕留めてるくせに、どこからこのような高邁なセリフが湧いて出てくるのだろう。


「お姉さまも、ユウヤさんも強いし、わたしたちならやれますよ~」


ラウラが、普段よりは少し早口で、テレシアの援護をする。


お前もお前で、どうして他力本願でそんなに自信たっぷりなんだ?


皆の視線がアレサンドラ集まったが、こういった時にどういう決断をするか想像できる俺は、一人、諦めのため息をついた。


「ユウヤの心配も分かるけど、やれるだけのことはやってみよう。魔物がそんなにも出没しているんじゃ、猟師さんや近隣の村々もさぞ困っているだろう」


やっぱりね。

もう一度、ため息をつきたくなる。


「そうなんですよ。これに付随した、山中の魔物退治などの依頼も増えてましてね。それらも一緒に受注してみてはいかがですか? ほら、これとか、こっちなんかも報酬良いですよ」


依頼案件の一覧が書いてある台帳を開いて見せ、ギルド職員は何とかこの依頼をやらせようと鼻息を強くし始めた。


俺はそのギルド職員の話に喰いつく三人を冷ややかな目で見つつ、内心、ある危惧を抱かずにはいられなかった。


こんな問題が発生している自体、前にこの町に来た時には全く気が付かなかったが、プレメントの町とバンゲロ村はそれほど離れていない。


もしかしたら、バンゲロ村のゴブリン退治で想定よりもかなり多いゴブリンがいたこととも、何か関係があるんじゃないだろうか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る