第41話 危なっかしい二人

クラッセ商会の荷馬車を護衛する任務で、俺は迫りくるウルフたちをザイツ樫の長杖クオータースタッフで事もなげに捌きつつ、その加減した打撃で次々と気絶させていった。


出発の時刻が幾分ズレたせいか、遭遇した狼の頭数が少し多かったが、もはや俺は、かつての俺ではない。


そして、ウルフたちがぐったりと動かなくなったところをテレシアとラウラが止めをさし、レベル上げを図る。

俺のレベルはモンスターを倒してもが上がらないので、パーティ強化の効率を考えるとこれがベストなのだろう。


テレシアは、鉄の分銅が先についた連接棍棒フレイルで容赦なく撲殺し、ラウラはというと……。


「し、熾烈しれつたる火の眷属神ドラヌスよ~。我が声を聴き~、願いを……叶え給えー。我が~、敵を~焼き殺す≪火球≫を~、放てぇ!」


のんびりとした声の響きとは、まったくそぐわない内容の言葉だ。

しかも発声が普段と同じでゆっくりなので、見ているこちらがもどかしくなる。

ラウラが呪文を唱えている間に、テレシアはもう三匹目に取り掛かろうとしていた。


そして気絶したウルフ一匹の息の根を止めるには不必要なほどの火の玉が、ラウラの持つ小杖ワンドの先から発射される。


この小杖ワンドという武器は、完全に≪魔法使い≫用で、俺のクオータースタッフのように打撃系の武器としては使うことができない。

見た目は細く短い棒のような感じで、オーケストラなどで指揮者がもっている物よりも一回り大きい程度のものだからだ。


「きゃあ、ラ、ラウラ、 危ないでしょ!」


命中した≪火球≫が爆ぜて、テレシアのすぐ近くにまで飛んできた。


「ごめ~ん、テレシア~。だいじょうぶ~?」


ラウラはすぐに慌てて、テレシアのもとに駆け寄る。


おいおい、なんか思ってたのと違うんだが、この二人、大丈夫か?

新人ということだが、もし、俺とアレサンドラがいなかったら、このウルフの群れにさえやられてしまいそうだった。


テレシアの連接棍棒フレイル捌きは不安定で、動かない相手にも拘らず一撃では仕留めきれず、何度も打ち付けなければならない感じだったし、ラウラに至っては論外だ。

呪文を発動する前に接近されると尻餅をついて、恐れおののくばかりであったし、俺が助けなければどうなっていたことやら。


その危なっかしい姿に、この異世界にやって来たばかりの頃の自分の姿が重なって見える。


それと、魔法というものを初めて見たわけだが、驚きよりもがっかりした気持ちの方が大きかった。

威力は凄いけど、発動するまでに時間がかかり過ぎだし、やっぱり俺はいらないかなと内心で思ってしまった。


あのような呪文をいくつも暗記しなければならないのだとすると、とても大変そうだ。



「見事な動きだった。完全に新人のレベルではないよ。下手すると、私より強かったりして」


先ほどまで、二人の奮闘ぶりを苦笑しながら見守っていたアレサンドラが近づいてきて、ポンと背中をタッチした。

ここまでくる間に思ったが、アレサンドラは俺に対するボディタッチが多い。

何かにつけて、二の腕を触ったり、肩を揉もうとしてくる。


「いや、相手はただのウルフだし、こんなの相手に無双しても、自慢できることじゃ……」


「いや、私の目に狂いは無いよ。かなり余裕があったし、自分でトドメをささないのは、ひょっとしてあの二人に譲ったのかな? レベルが高いとあのくらいの魔物じゃ、ほとんど上がったりしないからね」


「まあ、そんなところです」


アレサンドラは、俺のレベルがいくつなのか興味がありそうだったが、それを察したので、話を打ち切って、その場を離れる。


アレサンドラはまだ話したそうだったがしかたない。

俺のステータスは誰にも知られるわけにはいかないのだ。


それに必要以上に仲良くなりすぎると、前の時と同じになりかねない。


あのような辛い別れはもうしたくないんだ。


俺は自然な感じを装い、クラッセ商会の人たちに被害の有無を確認するようなそぶりを見せながら、アレサンドラから距離を取った。


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