第40話 怪しい依頼

互いを知るためには、一緒に依頼をこなすのが一番だということで、さっそく俺たちは受注する仕事の検討に入った。


壁一面に貼られた依頼書の中から、より良い条件の仕事を探そうとテレシアとラウラが真剣になっている。


その様子を俺は背後から眺め、テレシアって、けっこう良いお尻の形をしてるなと感心していた。


「ねえ、依頼書見なくていいの?」


アレサンドラの指摘に、一瞬、心臓が止まりそうになる。


やばい。

テレシアの煽情的なお尻の動きを目で追ってたのがバレたのか?


「い、いや、リーダーはテレシアなんでしょ。俺はテレシアが選んだ依頼でいいよ」


「ふーん、何だか新人らしくないな。やりたい仕事とかないの? 」


「正直、無いかな。どんな依頼が良いのか分からないし、そんな奴が口をはさんでも邪魔でしょ。まあ、あえて言うなら、癒し草の採集はもう飽きたから他のがいいかな。ああいう単調な作業って、すぐ飽きるよね」


「まあ、私もどっちかと言うとそれ系は苦手かな。報酬が高くない割に、知識と経験が必要だし、根っこを残してきれいに刈り取るのは意外とコツがいるんだ」


確かに見た目は普通の地味な草だし、俺も≪しらべる≫のコマンドが無かったら、何倍も時間がかかったことだろう。


「アレサンドラさん、こんな感じでどうでしょうか」


テレシアとラウラが持ってきた依頼書は次のようなものだった。


C級案件『救助依頼:ゴブリン退治、依頼者:バンゲロ村』


おい、なんでこれだけたくさんある依頼の中から、よりにもよってこれを選ぶんだよ。


村長の孫サンネとの貞操観念乱れた農村の夜が、脳裏に生々しく甦る。


「お、俺たち三人ともE級じゃないか。背伸びは良くないんじゃないかな~」


俺は何か言おうとしたアレサンドラを遮り、慌てて横槍を入れる。


「でも~、アレサンドラさんがB級だから問題はないんですよね~」


ラウラが不満そうにそう言った。


「なんで、この依頼を選ぼうと思ったの? バンゲロ村って遠いんでしょ? 報酬も銀貨8枚だし、四人で分けたら2枚ずつでしょ。割に合わないんじゃ……」


「ユウヤさん、私たちはお金のために冒険者になったのではありません。魔王の侵略と各地で猛威を振るう魔物に苦しむ人々を救いたいという思いで、この世界に足を踏み入れたのです。聞こえませんか? バンゲロ村の人々が救いを求める声が……」


いや、サンネの喘ぎ声しか、俺の心には聞こえてきません。


「いや、そんなこといっても、日々の生活だって大事だし、報酬が釣り合わなきゃ、準備にかかる経費だって、持ち出しになっちゃうわけで……」


「ユウヤくんって、なんか商人みたいな考え方するんだね。つまんないな~」


ラウラの鋭い一言が俺の心に突き刺さる。


俺はいつの間にかアレサンドラの影響で、商売人的な考え方に染め上げられてしまっていたようだ。


「待て待て、お前ら、ユウヤの言うことにも一理あるぞ。冒険者は突き詰めれば、一人一人が自営業。その辺のお金の管理は重要だよ。資金にひっ迫すると、パーティ内のトラブルが増えるし、活動が行き詰る。依頼の達成率にだって影響してくるんだ」


アレサンドラの言葉に、テレシアたちは、𠮟られた子供のように下を向いた。


「でも、まあ、志を高く持つのは良いことだよ。私も応援してやりたくなってしまったな。よし、ここはひとつ私が、手本を見せてあげよう」


アレサンドラはそういうといくつかの依頼書を壁から剥がして持ってきた。


C級案件『護衛依頼:王都~プレメント間、依頼者:クラッセ商会』

C級案件『洞窟調査依頼:プレメント近郊ロブス山中、依頼者:プレメント領主』

E級案件『討伐依頼:ウルフ、依頼者:冒険者ギルド本部』

E級案件『討伐依頼:オーク、依頼者:冒険者ギルド本部』

E級案件『討伐依頼:ゴブリン、依頼者:冒険者ギルド本部』


おや? 見慣れた依頼書の中に、一つだけ前には無かった依頼がある。


「いいか、どうしてもやりたい依頼があった時は、その周辺でこなせそうな依頼を同時に受けると効率がいいんだ。護衛依頼なら馬が支給されたり、乗れなくても荷馬車の荷台に乗せてもらえる。徒歩で行くより、楽だし、ついでに討伐依頼もこなせる」


「さすが、お姉さま!頼りになりますわ」


「おい、お姉さまはやめろよ。同じパーティの仲間になったんだ。アレサンドラでいいよ」


目を輝かすテレシアたちにアレサンドラが照れて、困った顔をする。


「あのさ、盛り上がっているところ、申し訳ないんだけど、この洞窟調査依頼って何?」


「ああ、それか。全体的に経験不足な感はぬぐえないけど、後衛職も充実しているし、四人パーティなら可能かなって。まあ、私もついているし、問題は無いよ。探索の技術や知識は、上位クラスの冒険者を目指すなら必須だし、学ぶ場としては、都市近郊の洞窟なら丁度いい」


くわしく見てみると内容は以下の通りだ。

C級案件『洞窟調査依頼:プレメント近郊ロブス山中、依頼者:プレメント領主』


最近、領内で見つかった洞窟の調査を依頼したい。

いかなる些細な情報でもいい。

持ち帰っていただきたい。

調査後、情報の聞き取りを行い、下記の報酬を直接支払うものとする。


尚、以来の達成は先着順とし、必要な情報が集まり次第、当方の都合で打ち切ることがある。


成果型報酬

外部調査(外観、地形など) 銀貨4枚

内部調査(洞窟全体)    金貨1枚以上

内部調査(一部情報)    応相談


周辺地形、内部構造等の詳細な図、報告書があった場合は追加の報酬を加算するものとする。


「これは成果型報酬だから、外の様子だけ報告しても報酬が貰えるみたいだし、内部に万が一、厄介な魔物でも住み着いていたなら、そこで引き返してもいくらかはもらえるだろう。報酬額も、依頼者が領主だけあって申し分ない。プレメントについたら、そこの冒険者ギルドに確認を取って、達成済みならあきらめよう」


なんで、自分の領内で見つかった洞窟を、自分の家来に調査させないんだろう。

しかも洞窟の外の様子を見に行っただけで銀貨四枚くれるっておかしくないか?


ランク設定もC級であるのは少し高すぎる気がした。


強さとベテランとしての自負ゆえか、アレサンドラは何の不安も抱いていないようだが、どうにも俺にはこの依頼が怪しく思えて仕方なかった。


『いかなる些細な情報でもいい。持ち帰っていただきたい』


この一文がやけに引っかかる。

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