第38話 面倒で不便

次の日、普段以上に髪形などの身だしなみを整えた俺は、待ち合わせ場所であるギルドの酒場兼食堂で待っていた。


緊張したせいか、いつもより少し早い時間に目が覚めてしまい、この場所にもかなり早く来てしまった。


午前中、それもまだ早い時間帯ということもあり、他の客の姿は無い。


どんな二人組なんだろう?

性別はおろか、名前さえ明かしてないので、余計に想像が膨らんでしまう。

新人冒険者の二人組と書いてあったから、たぶん俺と歳は近いのではないだろうかと思うが、昨日のハルバードのおっさんの件もあるから何とも言えない。


二人の≪職業クラス≫は「魔法使い」と「僧侶」であるらしいが、一緒に冒険したことがあるのは「女戦士」だったアレサンドラしかいないので、どんな感じなのかまったくわからない。

他の冒険者について知る前に、商売人に転身してしまったので、その辺りの事情に疎いのだ。

「魔法使い」は、その名の通り魔法を使えるんだろうけど、「僧侶」に関しては何をする職業なのかすらイメージがわかない。


死んだ仲間の供養を祈るとかじゃないよね。



実は、魔法については、俺も使える可能性がある。


≪ぼうけんのしょ≫にセーブした回数分もらえるセーブ特典ポイントと引き換えに取得できるスキルの中に、『「まほう」解放:10ポイント』という項目がレベル20を超えた辺りで、リストに追加になっていたはずだ。


けっこうポイントをたくさん食うし、運送業務において、魔法を覚える必要性をまったく感じていなかったので放置したままになっている。



「あのぅ……、応募してくださったユウヤさんですか~?」


おっとりとしていて、間延びした声で声をかけてきたのは、まさしく俺と同じか、それより少し下ぐらいの女の子だった。


黒いとんがり帽子に、黒マント。

同じ色のワンピースのスカートは短めで、ほっそりとした太腿と膝こぞうが眩しい。


やった!

ビンゴだ。


かなりかわいいじゃないかと喜んだのも束の間、その背後の二人を見て、俺は凍りついてしまった。


何か神聖な感じがする紋章が入った西洋風の法衣シャーマンローブを纏った同じくらいの年齢の少女の横に、アレサンドラの姿があったのだ。


またかよ。

なんでどこにでも現れるんだ?


俺、ストーカーでもされてるんだろうか……。


俺は一気にテンションが低下するのを感じながら、それを顔に出さないようにした。


「あれ? たしか、二人組って話だったよね」


「その件についてはお詫びしなければならないことがあるのですが、説明させていただいてもよろしいですか?」


法衣を纏った少女の問いかけに俺は頷き、テーブルにつくように促した。


「私の名前はテレシア。女神リーザに仕える見習いの僧侶です。こちらは魔法使いのラウラ。メンバー募集をかけていたのは、私たち二人です」


「俺は、ユウヤです。それじゃあ、こちらのお姉さんは?」


「この方は、南支部にその人ありと謳われる凄腕の冒険者、≪狂乱の刃≫アレサンドラさんです。御存じないのですか?」


いや、たぶん君たちよりも為人ひととなりはよく知ってるけど、ここは当然、しらを切っておこう。


そんなヤバい二つ名がついていたのは初耳だったが、知らない方がいいこともある。


「いや悪いけど、俺は昨日、冒険者登録したばっかりだから知らないよ」


「そうだったのですね。実はちょっとした行き違いがあって、メリルさんと面接をすることが決まった後に、有名なアレサンドラさんが仲間を募集していることを張り紙で知って、話だけでも聞いてみようということになったのです。女性という条件の他には、ランクは問わないと書いてあったので……」


ああ、たしかにアレサンドラの張り紙もあったな。


「その後、運よくギルドに戻って来ていたアレサンドラさんと直に話をすることができて、メンバーに加えていただけることが決まったのですが、その……、ごめんなさい。ユウヤさんのことをすっかり忘れていて……」


テレシアが深々と頭を下げると、少し遅れて、ラウラも同じようにした。


「そっか、まあそう言うことならしょうがないね。でも良かったじゃない、仲間が見つかって。俺もお試しで応募してみただけだから、そんなに気にしないでいいよ。それじゃ、俺はこれで……」


アレサンドラも一緒なら、これ以上食い下がる意味もないし、こういう運命だっだのだと諦めよう。


退散、退散。


俺は席を立ち、その場を去ろうとした。


「ちょっと待ちなよ」


逃げるように背を向けた俺の背後から、アレサンドラが呼び止めてきた。


「な、なんでしょうか?」


俺は嫌な予感がしつつも、無視するわけにもいかなかったので足を止め、振り返る。


「なあ、テレシア、ラウラ。なんか私が割込みしてしまったみたいな感じになってしまったし、彼も仲間に加えたらダメかな?」


おいおい、何を言い出すんだ。


「でも、お姉さま。私たちは構わないのですが、たしか男の人は募集してないはずじゃ?」


「いや、色々あって男と冒険するのは当分嫌だなって思ってたんだけど、その……可哀そうだろ! 新人みたいだし、ソロだと何かと苦労するかなって、思ったわけだよ。私のせいでパーティからあぶれて、それが原因で命でも落とされた日には夢見が悪くなるっていうか……」


なぜか顔を少し赤らめながら、しどろもどろになっている。


「いや、俺は本当に大丈夫なんで。他のパーティ探します」


「そんなこと言うなよ。そうだ!実は昨日、偶然、このユウヤと街道で一緒にゴブリン退治することになったんだが、かなり実力はあるぞ。私が保証をする。前衛職二人いた方がパーティ的にはバランスが良くなるし、お前たちからもお願いするんだ」


「そうなんですね。お姉さまがそう仰るなら、私も歓迎いたします」

「ユウヤくん~、よろしくね~」


テレシアとラウラ、それとアレサンドラに囲まれ、何だか断りにくい雰囲気になってしまった。

逃げようにも両手をいつのまにか、それぞれ掴まれてしまっている。


アレサンドラは、ロード前の記憶がないはずなのに、なんでこんなに食い下がって来るんだろう。


参った。

アレサンドラと全く異なる道を歩もうと決意したはずなのに、どうしてこうなっちゃうんだ?


俺は再び、城から追放される場面に戻ろうと思ったのだが、また同じようなことを繰り返すのは面倒で嫌だなと感じた。


やっぱり直前セーブできないのは不便だな。


暦の上で過去にセーブしてない日までは、まだだいぶ先だし……。



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