第34話 愛の終わり、そして

全てが順調だったアレサンドラとの恋は、突然終わった。


王都と山岳都市カロブローを往復し、鉄よりも高価な魔鉱石の売買で莫大な利益を得た俺たちは、その利益を元手に王都で商会を立ちあげ、短期間でそこそこの金持ちになった。


二人の夢であるマイホームも、王都の郊外の居住権を手に入れ、建てたのだが、俺たちがそこで暮らす時間はあまり無かった。


事業拡大し、日増しに忙しくなっていったアレサンドラとは対照的に、あまり商売に興味が無かった俺は、大量の商品を輸送し続ける毎日に嫌気がさしてきたのだ。


王都に自分の店を持ったアレサンドラとは、別々の時間が増え、俺は物資を運んでいた各都市に愛人を作るようになった。


次第に、アレサンドラへの気持ちが冷めていくのを感じつつも俺にはどうすることもできなくなっていた。


金遣いが荒くなり、酒の量も増えた。


この異世界に来てから、暦の上で一年ほどが経とうとしていたが、ゼーフェルト王国と魔王勢力の戦いが激化したおかげで、慢性的な物資不足になり、俺という最高の物資輸送手段を抱えたアレサンドラの商会は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長し、王都近郊の各都市に複数の店舗を持つほどに急成長した。


アレサンドラは二人の将来のためだと言っていたが、今の俺にはその言葉をそのまま素直に受け取ることができなくなっていた。


たまに顔を合わせてもどこかギクシャクし、口論が増えた。

各地に愛人を作っている後ろめたさもあって、アレサンドラとうまくコミュニケーションを取れなくなっていたのだ。


俺の生活態度に対してあれこれ言ってくるアレサンドラが疎ましくなり、そしてついに「別れよう」と俺の方から言い出してしまった。


泣きながら、「どうして?」と詰め寄って来るアレサンドラの顔を見た瞬間、愚かさに気が付いた俺は深く後悔し、そして≪ぼうけんのしょ≫の部屋に逃げ込んでしまった。



≪ぼうけんのしょ≫の部屋を訪れるのは実は久しぶりだ。


物資輸送の退屈とストレス、そして寂しさを解消すべく、酒と女に溺れていたこともあるが、かなりレベルが上がってこの異世界で生命の危機を感じることがなくなったため、セーブをめんどくさがってサボっていたのだ。


毎日何か起こるのを怖がってセーブしていたのが週一になり、次第に月一以下になった。


保存しておきたいほど幸せな日々ではなくなっていったことも理由の一つだろう。



名前:雨之原うのはら優弥ゆうや

職業:セーブポインター

レベル:44

HP:799/799

MP:487/487

能力:ちから63、たいりょく63、すばやさ63、まりょく43、きようさ63、うんのよさ63

スキル:セーブポイント

≪効果≫「ぼうけんのしょ」を使用することができる。使用時は「ぼうけんのしょ」を使うという明確な意思を持つことで効果を発揮することができる。


解放コマンド:どうぐ

≪説明≫自らに占有権があるアイテムを≪どうぐ≫の中に収納できる。「コマンド、どうぐ」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。所持数制限なし。使用回数制限なし。


解放コマンド:しらべる

≪説明≫対象のアイテムがどのようなものなのか調べることができる。「コマンド、しらべる」と有声無声関わらず、意志を持って唱えると使用可能。使用回数制限なし。


今のステータスはこんな感じだ。


ゼーフェルト王国の領内に出現する魔物などほぼ一撃だし、俺の存在に気が付くと逃げ出すやつまでいる。


≪解放コマンド:しらべる≫は、セーブ特典ポイントを消費して取得した。


この能力のせいで、アレサンドラと別行動することになり、輸送だけではなく買い付けまで任されるようになってしまった。

アレサンドラとの破局の遠因に放ったと思う。



「セーブポインターよ。よくぞ参った。吾輩は、記帳所セーブポイントの妖精、名前は、……まだない」


一年近く経っても、まだ思い出せないのか。

少し不憫だな。


「久しぶりに顔を見せたが……荒んだな、おぬし」


「そういう妖精の爺さんは羽振りがよさそうだね」


かつて四畳半の何もない和室であったのが、今や三十畳の広さで床の間や床脇、書院などを備えている。

欄間も凝った彫刻が為された見事なものだ。


飼い猫が三匹に増えており、妖精の爺さんの着物もかなり上等なものだ。


「何度も言うが、吾輩が望んだことではない。そんなことより、そんな涙跡がついた情けない顔をして、何をしにここを訪れた?」


「……」


「なんじゃ? 時間は有限。はやく言わんか」


「……≪三番≫をロードしたい」


「≪三番≫じゃと? これまでの≪ぼうけん≫を何も無かったことにするというのか」


「駄目かな?」


「別に駄目ということは無い。お前がそれでいいなら、吾輩は何も言うまい」


妖精の爺さんは、立派な文机の上の≪ぼうけんのしょ≫を開いた。


ぼうけんのしょ1 「愛人同士が喧嘩する前で」

ぼうけんのしょ2 「ヒモ野郎、彼女に寄生する」

ぼうけんのしょ3 「はじまり、そして追放」



「じゃあ、頼むよ。ああ、そうだ! ひとつ確認だけど、≪ぼうけんのしょ3≫をロードした場合、俺のレベルってどうなるの?」


「なんじゃ。お前、何度もロードしておきながら、把握しとらんかったのか」


「いや、そんなに頻繁に自分のステータスって確認しないでしょ。今回みたいにかなり前に戻ったこともないし……」


「ふん、お前のステータスは今までもそうだったが、現時点の状態がそのまま引き継がれる。なぜなら、これまでに使用したセーブポイントはすべて消費されておるからだ」


「えっ、ちょっと待って!消費されているってどういうこと?」


「言ったじゃろう。セーブは一日一回だと。すなわち、過去に戻っても、暦の上で、すでにセーブをした日にはもう新たにセーブし直すということなどできんのだ。その代わりお前さんは、今のレベルと能力を維持したまま、何度でもやり直すという恩恵を受けられるわけだ。消費された日々のセーブポイントはもう二度とも戻らん。だからよく考えてセーブせよと忠告していたのだ」


なんてこった。

『強くてニューゲーム』なのはいいけど、やり直すと今度はセーブをサボってしまった日まで、こまめなセーブができなくなるのか……。












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