第33話 アレサンドラの夢、俺の夢

「いや~、ついつい沢山買いすぎて、コツコツ貯めてた全財産の半分も使ってしまったよ。これはもう後には引けないな」


そう言いながらも、アレサンドラの顔はすっかり緩みっぱなしで、困っているようには見えない。


怖れていたことだが、商魂たくましいアレサンドラは、これから向かう旅先で高値でで売れそうな品々を次々と買い込み、それを俺に預けてきた。

あまりに大量購入すると目立ちすぎてしまうし、商人たちにも怪しまれてしまうということで、1品目につき50個まで、品物は20種類だけという制限を付けたのだが、夜遅くまでかかって作っていた販売計画書なるものに沿って、仕入れを進めていき、商人顔負けの交渉術で、値切ったり、おまけをつけてもらったりしていた。


田舎では手に入りにくい魔法薬ポーションの類や瓶に詰めた酒類、珍味、調理用の刃物、織物など多岐にわたる商品の在庫を預かる倉庫と化した俺は、その他にも旅に必要な道具や食料、水の入った水筒なども用意して、それも≪どうぐ≫の中に納めた。


ちょっと無理かなと思ったが、荷車なども≪どうぐ≫の中に入れておけたので、行商の際には、どうやって持ってきたのかと不審がられないで済みそうだ。



旅の準備を終えた俺たちは、ひとまず宿に戻り、翌朝の出発に備えることにした。


今回の目的地は北東の山岳都市カロブローだ。

カロブローには鉱山があって、そこで産出される鉱石を買い付けて、王都の鍛冶職人たちに売るのがアレサンドラの狙いであるらしい。

ギルドの依頼の中にカロブローに絡む依頼があり、そこでこのアイデアを得たらしい。


武器や防具の材料になる鉱石の価格は、長引く魔王との戦いの影響で高騰しており、その輸送にかかる経費などを考えると、≪どうぐ≫の能力でかなりの利益が見込めそうなのだとか。


俺の目には、だんだんアレサンドラが女戦士ではなく、女商人にしか見えなくなってきているが、殺伐とした魔物との戦いに明け暮れるよりかはよほどいいと思った。


この≪どうぐ≫の能力で、ひと財産築いた暁には、二人でなにか店とか構えて、平和に暮らすのもいいかもしれない。



俺たちは買い付けをする前に、冒険者ギルドでいくつかの依頼を受注してきていた。


C級案件『護衛依頼:王都~カロブロー間、依頼者:カロブロー領主』

E級案件『討伐依頼:ウルフ、依頼者:冒険者ギルド本部』

E級案件『討伐依頼:ゴブリン、依頼者:冒険者ギルド本部』


この他にもまだ未達成のままになっているE級案件『討伐依頼:オーク』があり、これらをこなしながら副業として行商をするのがアレサンドラのプランであったようだった。


前回の依頼の時もそうだったが、この冒険者と行商の二刀流がアレサンドラの冒険者としてのスタイルであるらしい。


ただ、パーティで活動していた時はどうしても制約が多く、メンバーからも守銭奴だと揶揄からかわれていたらしい。


「でも確かに、冒険者の依頼をこなすだけでも大変なのに、なんでアレサンドラはそんなに行商にこだわっているの?」


この質問にアレサンドラは俯き、答えるべきか迷うそぶりを見せた。

そして突然、地図を広げたテーブルの上に突っ伏したまま動かなくなった。


「いいじゃないか。教えてよ。アレサンドラの商売に協力するわけだし、俺には知る権利はあるよね?」


「でも……。じゃあ、絶対に笑ったり、馬鹿にしないって約束できるか?」


テーブルの上に乗せた腕に顔をうずめたまま、アレサンドラは聞いて来た。

なんだろう?

もったいぶられると、余計に気になる。


「もちろん。絶対に笑ったりしないよ」


「…………家を、……買うためさ」


「家を? それって秘密にすること?」


「冒険者になる前からの夢だったんだ。いつか見晴らしが良い場所に、庭付きの素敵な家を建てて、そこで大好きな人と二人で幸せに暮らすって……」


アレサンドラは耳まで真っ赤になった状態で、うつむき、ぼそぼそと小声で教えてくれた。


たぶん、その当時に夢見てた相手は、例のルーペルトとかいう元カレだったんだろう。


俺はそのことに少し嫉妬しながらも、今付き合ってるのは俺なんだと自分に言い聞かせて、気を落ち着かせた。


「なんで恥ずかしがるの? いいじゃないか。それ、俺の夢にもしよう!二人で協力して、素敵な家を手に入れよう。お金もたんまり稼いで、そこで悠々自適に暮らすんだ! 」


俺はアレサンドラに身を寄せ、手を取ると、顔を近付け、その鼻先に軽く口づけした。






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