第32話 二人だけの秘密

ある特定日時の自分の状況全てを≪ぼうけんのしょ≫に記録し、何度でもやり直すことができるというのがセーブポインターという≪職業クラス≫の特徴なのだと俺は考えるようになっていたのだが、どうやらそれだけではないようであった。


もちろん、このやり直しできる能力だけでも十分にチートなのだが、セーブポインターという≪職業クラス≫に備わった特殊能力には、まだ先があったのだ。


セーブを1回するごとに1ポイントずつ点数が溜まっていき、その累積した点数と≪ポイント交換リスト≫に列挙されたいくつかのスキルを交換することができる。


俺が最初に交換したスキルは、≪どうぐ≫という名称で、これはいくつかあるらしい≪解放コマンド≫という能力のうちの一つであった。


なぜ、いくつかあるという推測が成り立つのかというと≪どうぐ≫が置かれている半透明のコマンドウィンドウの余白が少なくともあと五つ分はあり、≪ポイント交換リスト≫にも≪しらべる≫というスキルがあったからだ。


現時点で少なくとも二つは確実にあることが分かっており、もしかしたら俺のレベルアップやセーブ回数などによって、リストに追加されていくのかもしれない。



自らに占有権があるアイテムを≪≫の中に、自在に出し入れができるというとんでもない能力を目の当たりにしたアレサンドラは、最初こそ戸惑い、半ばパニックになっていたが、冷静さを取り戻すと、この能力の活用法について、あれこれ提案し始めた。


その提案のほとんどが、冒険者稼業や彼女お得意の行商に関することであったのだが、目を輝かせ、夢中になって話を膨らませるアレサンドラを見ていると、グラッド師匠に異世界人であることを看破されそうになったこととか、魔王関連のことなど、どうでも良くなってくるから不思議だ。


「ねえ、アレサンドラ。お願いなんだけど、この能力のことは二人だけの秘密にしておいてほしいんだ」


「それは、……当然そうすべきだよね!まあ、話したところで誰も信じてはくれないと思うけど、ユウヤがこんなすごいことができるってわかったら、きっと悪いことに使おうって人がたくさん出てきそうだし。私だって一瞬、億万長者になれるかもって夢見ちゃった……」


アレサンドラが申し訳なさそうに舌を出して、自分の頭をコツンと叩いた。


億万長者か……。

確かになれるかもしれない。


荷馬車などしか輸送手段がなさそうなこの世界で、大量の物資を一度に運べるこの能力は革命を起こしかねないほどの可能性を秘めている。


軍事的な利用法もありそうだし、戦争とかで兵糧や武具などを運んだりといった使い方もできるかもしれない。


あの悪人面の国王に、こんな力を持っていると知られたら、また厄介ごとに巻き込まれそうなので、なんとしても秘密にしなくては……。



この≪どうぐ≫という≪解放コマンド≫で一体何ができるのかをまずは把握しようと、俺とアレサンドラは様々な実験を試みた。


まずは所持数制限についてだが、これはどうやら無さそうだった。


次々とアイテムを収納していくと、≪どうぐ≫リストがどんどん埋まっていき、20項目超えたところで次のページに移行する。

同じアイテムについては99個まで1項目で保管可能だ。


≪どうぐ≫リストのページ数については、最低でも5ページ以上はあることを確認したのだが、あまり増やし過ぎても、アイテムの「表記」があまり詳細ではなく、どれがどのアイテムであったのか区別がつきにくくて混乱するので、取り出す際の利便性を考えると、何でもかんでもむやみやたらに収納するのは駄目だと思った。

≪どうぐ≫リストはアレサンドラなど俺以外の人には見えず、俺が忘れてしまえば、もうどれがどれだかわからなくなってしまうからだ。


さらに収納するものが何であっても単位は「個」で、椅子も一脚ではなく、1個となり、さらに区別がつきにくく、見づらい。



収納できる物品については、やはり個別のアイテムもしくは物質である必要があり、例えば「地面」や「空気」などは収納できなかった。


たぶん、大きさ制限などはあるのかもしれない。


砂粒99個は収納できるが、個数を把握できない一握りの土のようなものは収納できなくて、水のような液体であれば水筒などの入れ物に入れる必要がある。


それと収納した物だが、これは≪どうぐ≫リスト内に入れた瞬間の状態がそのまま維持される。


熱々の料理であれば熱々のまま、生の新鮮な野菜なども傷む様子は無かった。


つまりこの能力は、アイテムの状態および存在を、そのまま記録としてなのである。


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