第29話 グラッド師匠

ゴブリンの耳を数え終わったグラッド師匠に、冒険者ギルドの訓練室で手合わせしてもらうことになった。


「おい!今のステータス見せてみろ。どうせ、アレサンドラがほとんど倒したんだろうが、あれだけのゴブリンを倒したんだ。少しはレベルも上がってマシになったんだろ?」


一瞬、どうしようか迷ったが、アレサンドラ以外の反応も見てみたい気がしたので言うとおりにした。

いい加減で、粗野な感じはするが、悪い人ではなさそうだし、実力的には確かだ。

この異世界での数少ない知り合いの一人でもある。


名前:雨之原うのはら優弥ゆうや

職業:

レベル:13

HP83/83

MP44/44

能力:ちから22、たいりょく22、すばやさ22、まりょく13、きようさ22、うんのよさ13


職業クラス≫とスキルは他の人には見えていないようだから、きっとこんな感じに見えていることだろう。


職業クラス≫無しの、スキル無し。

それで、このレベルと能力値ならどういう印象を人に与えるのだろうか。


ちなみに俺の仮説のとおり、≪ぼうけんのしょ≫の部屋から戻ったのでレベルがまた一つ上がっている。

能力値はすべて1ずつの上昇だ。


「……」


グラッド師匠は目を見開いたまま、固まってしまっていた。


無理もない。

前回、見せた時には能力値はオール2だったのだ。

それからまだ十日ほどしか経っていない。


「うわっ、またレベル上がってる。HPと≪ちから≫と≪たいりょく≫以外はもう抜かれちゃったよ。私の半分以下のレベルなのに……」


沈黙してしまったグラッド師匠の代わりに、ステータスを覗き込んだアレサンドラが、驚いているのか、呆れているのか分からないような声を出した。


「……お前、本当にユウヤなのか?」


「えっ? どういう……」


グラッド師匠は突如、鬼気迫る表情になり、手に持った訓練用の長杖を構えた。


「魔物の中には、人間を殺し、その姿形そっくりに化ける能力があるものがいるという。お前が、それだな」


「いや、違うけど」


「問答無用。俺はギルドマスターであり、≪バトルマスター≫でもある。言葉は交わさなくても、手合わせすればすべてわかる」


マジか。

そんな能力まで持っているのか。


「貴様の脳天を打ち砕き、魔物かどうか吟味してくれよう!」


えっ、そういうこと?

殺してから検死して、人間だったってわかったらどうするつもりなんだ?


やばい。

手合わせなんか、頼むんじゃなかった。


いきなり、グラッド師匠の必殺技≪彗星打ち≫が俺の頭部めがけて振り下ろされる。


ただの木の棒が杖先に青白い光を纏い、凄まじい速度で目の前に迫って来る。


前に指導を受けた時に、この技で五回殺されている。


「なにくそっ!」


だが、驚いたことに今の俺には対処できないほどの速さではなかった。


グラッド師匠に教わった通り、ザイツ樫の長杖クオータースタッフを素早く縦に起こし、杖頭で、攻撃の軌道を逸らしつつ、身を躱す。


そしてそこから流れるような足運びで回転し、長杖を体に寄せるようなイメージで軽く引き、突きを放つ。


長杖を振り回すな。身体から遠ざけるな。そして決して手放すな。

身体の一部として扱い、杖先から伝わる感触に常に耳を傾けろ。


270日以上分の指導で得られた技術を今の強くなった能力値に上乗せして、今の本気をぶつけてみる。


グラッド師匠の目の色が変わり、殺意が漲る。


だめだ。このパターンは完全に殺されて、リロードさせられる流れだ。


グラッド師匠は次々と俺が見たことが無い技を繰り出してきて、どうやら≪彗星打ち≫が必殺技などではなく、数ある技のうちの一つに過ぎなかったことを身をもって体感させられる。


命綱とも言える長杖を弾き飛ばされ、無防備となったところを激しく打ちのめされる。


だが、おかしい。

俺、まだ生きてる。


全身あざだらけだが、致命傷は免れている。


身体がグラッド師匠から繰り返し受けていた痛みを覚えており、それを避けようという動きがダメージを軽減してくれたこともあるが、なんというか、俺の体、頑丈になってる?


「ちょっと、グラッドさん!ユウヤを殺す気?」


背の大剣を両手に持ち、鬼気迫る表情でアレサンドラが割って入った。


そうです。このハゲは完全に俺を殺す気でした。


ふと我に返ったのか、グラッド師匠が構えるのをやめた。


「すまん、すまん。つい、熱くなるタチでな。いや、あの能力値なら、こんな棒っ切れでは殺せないとは思っていたが、案の定、死ななかったな。それに、こいつの動きは俺の教えを忠実に守っていた。どうやら、魔物ではなく、本物のユウヤだったようだな」


グラッド師匠は悪びれた様子も無く笑顔を浮かべると、手を差し出し、俺を立たせてくれた。


そして、手を握ったまま、俺に言った。


「お前、異世界から召喚された勇者だろ?」







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