第27話 お前も暇だろ?

C級案件『支援依頼:ゴブリン退治、依頼者:バンゲロ村』

C級案件『護衛依頼:王都~プレメント間、依頼者:クラッセ商会』

E級案件『討伐依頼:ウルフ、依頼者:冒険者ギルド本部』


翌朝、上記三つと俺が受注していた『討伐依頼:ゴブリン』の達成報告を王都の冒険者ギルドにして、報酬を受け取った。


オークは遭遇できなかったので依頼達成できなかったが、個体数が多いらしいからいずれ達成できるだろうという話だった。


「え~と、バンゲロ村のが銀貨8枚、クラッセ商会のが、銀貨6枚。ウルフはクラッセ商会の買取署名があるから十匹分の銀貨1枚と、ゴブリンが……うひゃ、これは数えるのが大変だ。しかも臭ッ!」


袋を開けて、ゴブリンの耳の数を確認しようとした受付嬢のメリルが悲鳴を上げた。


「グラッドさん! 暇でしょう。これ数えてもらっていいですか?」


メリルが建物の奥に向かって叫ぶと、欠伸をしながらギルド長グラッドがのっそりと出てきた。


「おお、ユウヤじゃねえか!まだ生きてたんだな。それに、なんだ? 少し見ないうちに随分と逞しくなったみてえじゃねえか」


「師匠も戻って来てたんですね。この間の異世界勇者のお披露目でお見かけしました」


「たった一日見てやっただけで師匠はやめろ。グラッドでいい。それにお前、最初からけっこう扱えてたじゃないか」


師匠からすればたった一日だが、俺にしてみればほとんど一年分くらいみっちり鍛えてもらったようなものだ。

何度もロードを繰り返したし、五回も殺された。


「グラッドさん、異世界の勇者に会ったんでしょう? どんな感じだったんですか?」


隣でやり取りを聞いていたアレサンドラが、待ちかねたように尋ねた。

異世界勇者のお披露目会場でも目を輝かせていたから、よほど興味があるのだろう。


「おお、アレサンドラ。そこのユウヤとくっついたんだってな。まずはおめでとう」


「私の事は……。それより、勇者様たちの話を聞かせてくれませんか?」


アレサンドラは頬を染め、視線を逸らした。


「勇者か……」


グラッドは腕組みし、急に難しい顔をした。


「何か問題でもあったんですか? 」


「いや、なんていうか。思ったより普通だったぞ。ステータスはかなり高かったし、職業クラスも魔王と戦うのに相応しいと思われるものばかりだったが、いかんせん、戦いの素人ばかりだった。俺の右目は、実は魔王の配下の一人と戦った時に失ったものだが、あの異世界勇者たちが全員でかかっても、そいつに勝てたかどうか」


「そうだったんですか」


アレサンドラは急にがっかりしたような顔になった。


「俺が現役の頃に参加していた≪世界を救う者たちパーティ≫の方が総合的に見ても上だったと思う。まあ、現時点での話だし、元が素人な分、伸びしろだってあるんだろうがな。……というか、そうでなくては生贄にされた者たちが浮かばれないだろう」


「……その生贄にされた人たちはどうやって選ばれたんですか?」


その場にいた全員がキョトンとした顔で俺の顔を見る。


「ああ、そう言えばお前、よその国から来たばかりの難民だったな。うーん、そうだな。言い方は難しいが、国王が国中の貴族に命じて、決めた人数をそれぞれ差し出させたんだ。ほとんどが罪人、年寄り、それから不治の病の者などだ。自ら女神にその身を捧げた者たちもいないわけではなかったようだが、それは家族を魔物たちに殺されたり、何らかの恨みを持つ者たちだ」


「よく反対がでませんでしたね」


「反対は出たさ。怪しげな儀式などに頼るなと俺も反対したし、そういう声もそれなりにはあったが、国全体で見れば、皆、魔王や魔物との戦いに疲れ果てていたし、そういう声はかき消されてしまった。二十年ほど前に魔王が現われてからというもの、魔物の数は激増し、人々の暮らしは一変した。これまでも魔物はいたが、今ほどではなかったんだ。北の魔王領から侵入してくる魔物たちがこのゼーフェルト王国にもたくさん住み着き、俺たち冒険者が討伐を続けても一向に絶滅する気配がない」


「ユウヤ、私の故郷は魔王の軍勢によって滅ぼされた小国だ。この国のような軍隊も持っていなかったし、グラッドさんたちのような凄腕の冒険者もいなかったから、一月も持たずに占領されてしまった。病気の母と二人でこの国に逃れてきたんだけど、その母もすぐに亡くなり、私はひとりぼっちになってしまった。ユウヤも独りぼっちだって言ってたけど、同じようなものだろ? 私たち、国を失って逃げてきたような人間はいつの日か魔王を倒し、仇を取ってくれる勇者が現われてくれるのを熱望してるんだ」


そっか、そういう過去がアレサンドラにはあったのか。


なんだか、無神経な質問しちゃったかな。


「なんか、辛気臭い話になってしまったな。どうだ、ユウヤ。久しぶりに杖術の稽古をつけてやろうか? 城にいた異世界勇者たちではまったく物足りなかった。依頼を終えたばかりで、どうせ、お前も暇だろ? 」


いや、そんなこと言ったって、あんた、熱くなるとすぐ本気出すじゃん。


一瞬、嫌そうな顔をしてしまったが、ここでふと思い直した。


レベルも上がったことだし、どのくらい強くなったかグラッドさんに見てもらおう。


今朝はまだ≪ぼうけんのしょ≫にセーブしてなかったし、ちょうど良かった。


「グラッドさん!暇じゃないでしょ。まずは、ゴブリンの耳、数えてください。うちのギルドは王都でも零細で人手不足なんですから、ギルド長にも働いてもらわないと!」


受付嬢のメリルが頭から湯気を立てて、頬を膨らませた。


王都には、東西南北にそれぞれ一つずつ冒険者ギルドがあって、その他にも国営のギルド本部があるらしい。


ここは南地区に位置するギルドで、グラッドさんが現役引退後に立ちあげた支部の一つであるらしい。

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