第25話 二つの仮説

村長の孫娘と浮気なんかしていないし、アレサンドラも悲しませることは無かった。


夜の宴は、強引にアレサンドラの近くに座り直して、惚気のろけ話を連発してやったし、酒も飲み過ぎない程度でやめ、ゴブリン退治の疲労を理由に早々に二人で退席した。


あの白濁した酒は、飲み口は良いけど後でガツンと酔いが来るんだ。



翌朝、アレサンドラが村では不足しがちな魔法薬ポーション類や病に効く薬などを、村人に比較的薄利で販売するのを見届け、村を出た。


村長から依頼達成の署名をしてもらったので、もうこの村に用はない。


「ねえ、村の女性たちがみんな、ユウヤのことをあれこれ聞いてきて大変だったよ。あの黒い髪に、黒い目。あの神秘的な顔立ちはどこの土地から来た人だ?って。モテる男はつらいね」


ギクッ。


「……俺は、アレサンドラ一筋だから」


「……私もだよ」


「……そうだ!村長のお孫さん、サンネちゃんって言うらしいんだけど、あの子も宴の間中、ずっとユウヤのこと見てたよ。私も目が合ったんだけど、睨まれちゃった。女の直感だけど、あの子もユウヤのこと好きになっちゃったのかもね」


ギク、ギクッ。


あの娘、サンネって言う名前だったのか。


「……気のせいだよ。俺は全く気が付かなかったな~。そんなことより、別の話をしようよ。そうだ!そういえばレベルが上がってたよ」



名前:雨之原うのはら優弥ゆうや

職業:セーブポインター

レベル:9

HP44/44

MP24/24

能力:ちから15、たいりょく15、すばやさ15、まりょく9、きようさ15、うんのよさ9

スキル:セーブポイント

≪効果≫「ぼうけんのしょ」を使用することができる。使用時は「ぼうけんのしょ」を使うという明確な意思を持つことで効果を発揮することができる。



「あんなにゴブリンを退治したのにレベル一個しか上がらなかったよ。これってやっぱり成長限界が近い証拠なのかな?」


「……」


「アレサンドラ? どうしたの?」


「ああ、ごめん。驚きすぎて、固まっちゃった。レベルが一個しか上がらなかったのもおかしいけど、それが気にならなくなるくらい能力の上がり幅が異常だよ。満遍なく全体が上がってるし、もう昨日とは全く別人みたいになってる。ユウヤって本当に無職ノークラスなんだよね? どう考えても、上位の職業クラスの成長恩恵があるとしか……」


いや、無職ではないんだけど、言っても誰にも信じてもらえない。

何せ、俺以外の人の目には、職業欄が空白になっているように映っているらしいのだ。


「俺は実はセーブポインターなんだ」などと打ち明けても、セーブポインターが何なのか俺自身がわかっていないので、話が余計にややこしくなる。


とりあえずアレサンドラの反応からわかるのは俺のステータスが他の人とは相当に異なる上がり方をしているのだということで、あまり彼女以外の人には見せない方がいいのではないかと内心でふと思った。



王都への帰り道。


二泊ほど野宿しながら、街道をひたすら戻り、さらにその次の日の深夜近くに無事、王都に戻ることができた。


その間も、俺は、毎朝、危険が多い夜間を乗り越えれたことに感謝し、≪ぼうけんのしょ≫の≪一番≫にセーブし続けたのだが、ここでレベルアップに関する二つの仮説に辿り着くことができた。


一つ目は、俺のレベルアップには魔物の討伐の有無を要さないということ。


魔物に遭遇しなかった日にもしっかり一つ上がったし、ゴブリンを大量に倒した日にも結局一つしかレベルは上がらなかった。

俺のレベルはきっと魔物を倒そうが倒すまいが、上がるレベルは毎日1で固定されてしまっているのだ。


そしてもう一つは、レベルアップは≪ぼうけんのしょ≫の部屋から帰って来た瞬間になされるということ。


これは振り返って見ても全部そうだったので、もう間違いないと思ってる。


≪ぼうけんのしょ≫の部屋が俺のレベルアップに深く関わっている。



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