第23話 ゴブリン退治

バンゲロ村到着の翌日、ゴブリンたちの襲撃をあえて促すために農作物の収穫作業が始められた。


俺も村の人たちに混ざって、キャベツに似た球状の野菜の収穫を手伝いながら、襲撃を待つ。


昨日、俺たちを歓迎してくれた宴は、このゴブリン駆除に関する打ち合わせも兼ねており、万が一の際の避難場所や各自の役割分担、防衛に当たる全員の持ち場の確認などの詳細が詰められたが、この作戦の立案は、経験豊富なアレサンドラによるものだ。


よその村で同様の依頼を達成した際に同じ手を使ったそうで、その時はとてもうまくいったらしい。


収穫された様々な農作物は村の広場に集められ、その警護役はアレサンドラだ。

ゴブリンたちが集まってきたところを、得意の大剣で一網打尽にする狙いらしい。


俺は村人たちに紛れて潜み、彼らが危険な目に遭わぬように守る役割を当てられたというわけだ。


俺は熟慮の末、毎朝日課になりつつあった≪ぼうけんのしょ≫へのセーブを、今日は行わなかった。


ゴブリンの正確な数が不明であったことと、向こうがどのような行動に出るのか未知数な部分があったからだ。

これなら不測の事態が起きても、それを見てから前の日に戻れば、如何様にも対処ができる。



収穫作業が進み、農作物が広場に積まれて置かれるようになるとにわかに村の飼い犬たちがけたたましく吠え始めた。


そして木の柵を乗り越えて、方々から、赤黒い肌をもつ小鬼たちが村内に侵入を開始し始めた。


「ゴブリンだ。ゴブリンたちがやって来たどぉー!」


村の若い男が大声で皆に報せ、場に緊張が走る。


俺は鎌を置き、傍らに置いていたザイツ樫の長杖クオータースタッフを手に取る。

この長杖は、ステッキとは異なり、棍のような真直ぐの棒状をしており、俺の背丈ほどの長さだ。


ゴブリンたちも、棍棒や石斧など、それぞれ手作りの武器をその手に携えており、奇怪な声を上げながら、村人を襲ったり、広場の方に駆けていこうとしている。


俺の方にも二匹来た。


俺は長杖を頭上でくるりと回転させたあと、その遠心力を乗せて、薙ぎを打つ。


そして次の瞬間、俺は自分の攻撃にもかかわらず、自らその威力に驚いてしまった。


初めてゴブリンと戦った時は何発殴っても致命傷に至らなかったのに、長杖ながづえのシャフトの先端が、ゴブリンの横っ面を陥没させ、さらにその小柄な体を一撃で吹き飛ばしてしまったのだ。


倒れたゴブリンはそのままピクリとも動かず、もう一匹も驚いて、足を止めてしまった。


「あっ、ごめん」


思わず、そう声が出てしまった。


ウルフなどとは異なり、人の形に少し似ているせいもあって、精神的に少し辛い。

これだと人間相手に戦う時には手加減する必要があるのかもしれない。


「ギャッ、ギャッギャーッ!」


意を決した様子で、もう一匹のゴブリンが飛び掛かって来るが、その動きは前に戦った時と違い、しっかりと目で追うことができた。


俺は一度、長杖を引き、回転させて向きを変えると今度は金属の補強が為された杖先の方で、喉元を突いた。


「グエッ」


いやな感触が手に伝わるが、俺はその不快感を抑え込み、すぐ近くで襲われている村人を助けに走った。


グラッド師匠に杖の扱いを習った時には4しかなかった「ちから」が、今やその三倍の12だ。


この「ちから」で殴ると、この長杖も立派な凶器になるのだということを身をもって実感した。


これがレベルアップで得た力なのか。


かつてあれほど苦戦し、激闘を繰り広げたあの強敵とも五匹と同格のゴブリンたちが明らかに俺を恐れている。



それから俺は村人を助けつつ、ゴブリンを七体ほど倒した。


農作物が集められた広場の方を見ると、アレサンドラの大剣が大量の死体と血だまりを作っていた。


俺の視線に気が付き、笑顔を見せてくれたが、その美貌は血化粧に彩られており、少し……怖い。


やがて、群れの一匹が、角笛のような者を吹くと、ゴブリンたちは恐慌状態に陥り、武器を投げ捨てて、必死に逃げ始めた。


「追うよ!」


アレサンドラが駆け寄ってきて、肩をポンと叩いた。


アレサンドラの勇ましい立ち姿に呆然としていた俺はその声によって、我に返り、その背を追う。


どこに向かっているのか、この件については聞かされておらず、なんとなく後を追いかけていくと、どうやらアレサンドラは逃げるゴブリンを追っているようだった。


「あいつらの住処を見つけて、根絶やしにするんだ。ゴブリンは繁殖力が強くて、放っておくとすぐに増えてしまう」


振り返ることなく、アレサンドラが走りながら説明してくれた。


根絶やし……。

そこまでしなくちゃ駄目なのか。


俺は冗談を言っているようには見えないアレサンドラを見つめつつ、この異世界がつくづく、俺が住んでいた日本とまるで違う価値観なのだと思い知らされていた。





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