第16話 アレサンドラ組

ヒモ野郎呼ばわりに発奮したわけではないが、俺はとにかくやる気に満ちていた。


冒険者として大成し、アレサンドラと二人で幸せになってみせる。


宿を出たアレサンドラと俺は、さっそく二人で何かの依頼を受けてみようと多くの依頼書が張り出された壁の前に立った。


もう昼も近いということで冒険者の数はだいぶ少なくなっていた。


「これと、これと、あとこれとこれもいいかな」


アレサンドラが無造作にいくつかの依頼書をはがして、俺に手渡す。


C級案件『支援依頼:ゴブリン退治、依頼者:バンゲロ村』

C級案件『護衛依頼:王都~プレメント間、依頼者:クラッセ商会』

E級案件『討伐依頼:ウルフ、依頼者:冒険者ギルド本部』

E級案件『討伐依頼:オーク、依頼者:冒険者ギルド本部』


「えっ、一度にこんなに! 俺が受注済みの『討伐依頼:ゴブリン』もまだ未達成なんだけど……」


「それは聞いたから、知ってるよ。だから、バンゲロ村の救助依頼をメインに据えたんだ。王都からプレメントまでを商会の荷馬車を護衛しながら移動して、そこからバンゲロ村に徒歩で行く。そうすると地理的に無駄が無い。ウルフやオークは出現する個体が多いから、たぶん自然に達成できると思うし、複数の依頼を組み合わせて受注した方が稼げるんだ」


なるほど、そういうものなのか。

アレサンドラ、すごいな。


「あっ!でも俺、たしかランクEだから、このC級の二つは受けれないよね」


俺は腰下げ袋から自分の冒険者カードを出して見せる。


「それも問題ない。私がBだからね。パーティ組めば問題なく、受注できるよ」


そういうことであれば、知識も経験も全くない俺が反対する理由も無く、ここは素直に彼女に従うことにしよう。


依頼書を持っていくと、受付にはメリルがいて、昨日の決闘の件を興奮気味に称賛され、アレサンドラとの関係について冷やかされた。


「アレサンドラ、あなた、本当に羨ましいわ。自分を巡って、二人の男が決闘をする。そんなロマンチックな恋愛、私もしてみたいわ~」


「放っておいてくれよ。あんな恥ずかしい思いをするのはもう二度と御免だ」


アレサンドラとメリルは旧知のようで、しかも普段からかなりよく話すそうだ。

長話になりそうだったが、後ろに別の冒険者が並んだため、諸々の手続きをあわてて再開してもらった。


パーティ名はどうするかと聞かれたが、特に思いつかなかったので「アレサンドラ組」という仮名での登録となった。

これで俺もB級までの案件を一緒にであれば、受注することができるようになったらしい。



手続きを終えると、アレサンドラがステータスを見せてくれと言ってきた。

なんでも冒険中の役割などを考える参考にしたいらしい。


「ステータス、オープン」


名前:雨之原うのはら優弥ゆうや

職業:セーブポインター

レベル:4

HP20/20

MP8/8

能力:ちから5、たいりょく5、すばやさ5、まりょく4、きようさ6、うんのよさ4

スキル:セーブポイント

≪効果≫「ぼうけんのしょ」を使用することができる。使用時は「ぼうけんのしょ」を使うという明確な意思を持つことで効果を発揮することができる。



おっ、またレベルが上がってる。


ほぼ1か、2ずつだけど全体的に満遍なく上昇している。


リックとの決闘を乗り越えたおかげなのかな?

レベルについては普通のゲームみたいに経験値制なのか、そして人間相手でもレベルは上がるのか、その辺の仕様は不明だ。

あとでアレサンドラに詳しく聞いてみよう。


ただ、今まで俺のステータスを見た人は皆一様に、微妙な反応になっている。

できればアレサンドラには見せたくなかった。


俺のこと、嫌いになったりしないよね。


「う~ん、なるほどな。見事に新人冒険者という感じだな。しかも、スキル無しなんだね。これでリックに勝てたのは本当に、奇跡としか言いようがないね」


やはり、スキル≪セーブポイント≫は、俺以外の人には見えないようだ。


それと能力値についてはやはり異世界に来たばかりの頃のオール1というのは追放したくなるレベルの無能だったんだな。

なにせ、新人の五分の一以下だったんだから。

あの王様の目には、殺すまでもない虫けらという風に映ったのだろう。


アレサンドラは予想通り難しい顔をしたが、すぐに明るい笑顔を見せ、背中を強くバンと叩いた。


「そんな顔するなよ!私が付いているって言っただろ。立派な冒険者に育て上げてみせるから、大船に乗った気持ちでいろよ」


「うぃっす」


「なんだ、その『うぃっす』って」


アレサンドラはなぜかツボに入ったらしく腹を抱えて笑った。



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