第15話 自分の居場所

その日を境にリックたちは、冒険者ギルドから姿を消した。


衆人環視の中、俺の様なまだ二十歳にも満たない若い新人に敗れたことでこの街に居づらくなってしまったのかもしれない。

しかも愛しのアレサンドラの前だったこともあり、彼の心境は察するに余りある。


リックは見た目も性格も好きになれそうにない感じだったが、去り際の潔さはとても男らしかったと思った。


勝者となった俺は一躍、冒険者ギルドの有名人となってしまい、しかもアレサンドラの恋人であることが公認となってしまった。


アレサンドラがルーペルトという男に捨てられたという話は、割と広く知られていたらしく、帰り際、すれ違う人が、「今度は幸せになりなよ」といった応援の声を俺たちにかけてくることが度々あった。


リックとの決闘で疲れ果てた俺は、アレサンドラの宿に戻り、それからまた二人でイチャイチャしたり、エッチしたりして過ごした。



翌朝、再びけだるい雰囲気で起きた俺は、ベッドの上でアレサンドラと今後のことなどを色々と話し合った。


よく考えたら、俺はアレサンドラのことについてそれほど多くを知っているわけではなかった。

一昨日の夜はほとんど別れ話に関することしか口にしていなかったし、俺の方も異世界から転移してきたなどと語ったら、頭がおかしいと思われかねなかったので、その辺はぼかして身の上を語った。


全てを伝えるには時間が無さすぎたし、お互いのことを実は互いに知らぬまま、勢いと酒の力でこういう関係になってしまったわけである。


「アレサンドラは、冒険者ギルドの仕事で生計を立ててるんだよね?」


「ああ、そうだよ。ギルドの酒場にいたってことはお前もそうなんだろう?」


「いや、一応そうなんだけど、あの日、初めて一人で受注したゴブリンの討伐依頼に失敗しちゃって、まだ仕事は便所掃除くらいしか達成したことが無いんだよね。正直、この街で暮らしていけるか全く自信が無い……」


「あきれた。よくその状態で、リックと決闘して無事だったわね。ああ見えてもそれなりに名前が通った冒険者なんだよ、あいつは……」


そうなのか。

道理で手強かったわけだ。


「でも、お前もすごかったよ。正直最初は止めなきゃって気が動転するくらい焦ったけど、あいつの攻撃、まるで当たらないんだもの」


いや、当たりまくってました。

十回以上は殺された上に、その倍以上は半殺しの目に遭いました。


「いや、そんなことは無いことは追々おいおいわかって来ると思うけど、俺は完全にド素人の冒険初心者だから。冒険者としての知識も無いし、アレサンドラに会うまでは本当に右も左も分からなくて、これから先どうしたらいいか、絶望してたんだ……」


暗い顔をした俺を、アレサンドラが胸元に引き寄せ、抱き締めてくれた。

そして額にキスまで。


「大丈夫よ。私がついてるわ。冒険者の先輩として色々教えてあげられると思うし、これから二人で頑張っていきましょう」


アレサンドラの言葉に俺は言いようのない深い安心感を感じ、そしてこの運命の出会いに感謝した。

居酒屋の接客バイトくらいしかやったことがないこの俺でも、この異世界でなんとか生きていけるかもしれないという希望を見出せるほどに、アレサンドラが輝いて見えた。


エッチも最高だし、美人で、頼りがいもある。


俺はひとりぼっちのこの異世界で自分の居場所を手に入れることができた。


よし、これ以上うまく行くことなんかそうはないだろう。


俺は今日のこの時点の記録を、≪ぼうけんのしょ≫の≪二番≫に保存することにした。



「セーブポインターよ。よくぞ参った。吾輩は、記帳所セーブポイントの妖精、名前は、……まだない」


不憫な爺さんだな。


……以下略。


だが、前回来た時よりも部屋がきれいになっている。

畳が貼り変えられて、出入口の襖も煤けていない。


「あれ?なんか、来るたびに部屋が良くなってない?」


「さあな。前にも言ったが、吾輩が望んでこうなっているわけではない。そんなことより、さっさと用件を言え。時は限られているぞ」


妖精の爺さんに急かされ、俺はさっそくセーブすることにした。



ぼうけんのしょ1 「無責任な夜を越えて」

ぼうけんのしょ2 「チキン野郎、扉の前で」

→「ヒモ野郎、彼女に寄生する」


ぼうけんのしょ3 「はじまり、そして追放」


くそっ、このタイトル誰がつけているんだ?


確かにアレサンドラに頼りたい気持ちでいっぱいだが、それでもヒモ野郎は酷いと思う。

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