第14話 決闘の先に
「ここだと、みんなの迷惑になる。外で決着をつけよう」
これと似たような台詞を俺はもうすでに58回も言っている。
つまりそれは、ぼうけんのしょ1の「無責任な夜を越えて」を57回もロードしたって言うことだ。
「外に出ろだと?いい度胸だ、小僧。その威勢のよさだけは買ってやるぜ」
アレサンドラのストーカー、もとい旧知の男リックはそのモヒカン頭をこっちに近づけて威圧しながら言った。
「なんだ?喧嘩か?」
「いいぞ!やれやれ~」
「あれはスチールボールのリックじゃないか。あの少年可哀そうに」
「おい、お前、どっちに賭ける?」
この時間帯は決して人が多いとは言えないが、冒険者ギルドの建物内にある食堂なので気が付くと野次馬が集まって来ていた。
俺とリックはそれぞれの得物を手に取り、ギルド前の通りで対峙した。
俺はザイツ樫の
「いいか、てめえら。これは喧嘩じゃねえ。神聖な決闘だ。衛兵の旦那、そこんとこ証人になってくれよな」
リックの呼び掛けに駆けつけてきていた衛兵が「リック、ほどほどにするんだぞ」と不謹慎な笑みを浮かべた。
アレサンドラが衛兵に駆け寄り、決闘などやめさせるように懇願するが、聞き入れてはもらえない様子だった。
「小僧、これでこの勝負は決闘と認められた。お前が死んでも俺は罪に問われることはねえ。土下座して、許しを請うなら今のうちだぜ」
「神聖な決闘なら約束しろ。俺が勝ったら、二度とアレサンドラに妙なちょっかいをかけないって……」
「ヒュー、あの小僧、口では負けてないぜ。おい、リック。お前完全にナメられてるぜ」
冒険者らしい野次馬が火に油を注ぐ様なことをリックに言った。
野次馬はますます増えて、通行人までが足を止めて見物し始めた。
他に娯楽などが少ないのか、小さな子供たちまで皆一様に興奮し、「はやく、始めろ」と囃し立てる。
「……おい、小僧。殺す前に一つ聞かせろ。それで……、アレサンドラとは手ぐらい握ったのか。まさか……、キスなんかしてねえだろうな」
この質問にも52回答えてる。
俺は心配そうなアレサンドラに向けて、はにかんだ様な笑顔を見せ、目で言う。
大丈夫、僕は死なないよ。
「エッチしました。それも何回も……」
この答えに対するリックの反応は決まっている。
こいつ、語彙が少ないんだ。
「……てめえだけは、絶対に殺す!」
リックは鎖の先の鉄球を振り回しながら突進し、それを俺の頭部に向けて振り下ろす。
最初から殺す気の一撃。
俺は最初のこの一撃を躱すために二回も殺されている。
リックの使う
長杖の間合いの広さを生かして近寄らせない作戦も試してみたが、それだと武器を破壊されたり、奪われたりした。
だから、初撃はあえて攻撃させて躱す選択をしたのだ。
当たり前だが、リックの攻撃は速すぎて、基本その動きを捉え切れてはいない。
リックの鉄球は空を切り、俺が立っていた位置の少し先の地面を打った。
俺は、左に全力で飛び退き、そして長杖の先をリックの喉元に突き付ける。
「寸止めだと? てめえ、何の真似だ。ふざけやがって!」
頭に血が上ったリックは、何度も何度も俺に向かって大振りの必殺の一撃を繰り出してくる。
「くそ、ちょこまかと。その気に食わねえ面、ぐちゃぐちゃにしてやるぜ!」
リックが肩で息し始めた。
俺も当然疲れている。
だが、隙をつき、できうる限り、何度も寸止めをした。
「おいおい、何でリックの攻撃が当たらないんだ。それに相手の少年、さっきから寸止めしかしてないぜ」
「あの少年、なかなかやるぞ。目で見て躱してるというよりは、動きそのものを見切っているみたいだ。歳の割にかなり使うぞ」
次第に野次馬たちが静かになってきた。
なぜ、俺が寸止めしかしないのかというとそれには幾つか理由がある。
まず第一に俺が非力すぎること。
おそらく能力値の差なのだろう。
突こうが、叩こうが、ほとんどリックにダメージを与えることができなかったのだ。
第二に相手の肉体ではなく、プライドを傷つけるにはこの方が効果的だった。
俺の目的は、リックを殺す事じゃない。
アレサンドラに付きまとうのを止めさせたいだけなんだ。
だから非力さを悟られずに格上だと悟らせるためにはこの方法しかなかったのだ。
攻撃を当ててしまったら、俺が雑魚だとバレてしまう。
「くっ、……いい加減に……」
そんなに重いものを振り回していたせいだろう。
リックの足元がおろそかになって来た。
俺はリックがよろめいた隙をついて今度は顔面に杖先を突き付ける。
「殺す気になれば、いつでもお前を殺せた。だが俺はお前を傷つけなかった。それが何でかわかるか?」
「……」
リックは屈辱の表情を浮かべ身をのけぞらせたまま、睨んでいる。
肩で大きく息をしているし、相当に苦しそうだ。
俺もふくらはぎがもう限界で、尻の筋肉もピクピクしてる。
「それはな。お前が、アレサンドラという素晴らしい女性の魅力に気が付いている男だからだ。同じ一人の女性に好意を示した俺たちは、ある意味、同志。いや
リックの表情が途端に曇り、険が取れていく。
「リック、アレサンドラは俺がちゃんと大事にするよ。だから、認めてくれ。あと、お前の次の恋を、俺も応援するよ」
「お、お前、若いのに……グスッ」
リックが膝から崩れ落ちた。
「……俺の負けだ。今後一切、お前たちにはちょっかいを出さねえ」
話が通じるやつで良かった。
単純で、頭も悪いけど、悪人ではないようだ。
ちなみにこのタイミングで説得に入らないと、泥仕合の末、結局、俺は殺されることになる。
武器を捨てた殴り合いに突入し、一旦身体を掴まれた時点でジ・エンドだ。
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