第13話 無かったことに

あれは酒に酔った上での過ち。

過去に戻り、アレサンドラとの一夜を無かったことにするのが、互いのためである。


そう思い覚悟を決めたその瞬間、突然だれかに、服を掴まれ、床に引き倒された。


「アレサンドラ、昨夜はだいぶお楽しみだったようだな。こんなガキをお持ち帰りしたなんて話、嘘だと思いたかったが、まさか……まさか、……本当だったとは」


見上げるとモヒカン頭の男が、こっちを血走った目で睨んできた。


モヒカン男の後ろには取り巻きらしき者たちがいて、歪んだ笑みを一様に浮かべている。

その取り巻きたちの顔には、見覚えがあった。

昨夜、この酒場で俺たちに下卑たような視線を向けていた男達だ。


「ちょっと、ユウヤに何するのさ」


アレサンドラが血相変えて立ち上がり、壁際の大剣の柄に手をかける。


「おい、待てよ。俺はお前と喧嘩しに来たんじゃないぜ。忠告しに来たんだ。そんなすぐにでも死にそうな雑魚はやめておけってな。ぞっこんだったルーペルトのやつに捨てられてヤケになってるのはわかるが相手は選ばねえとな。すっかり年増になって行き遅れになっちまったが、まだまだ良い女なんだからよ~」


「余計なお世話だよ。それにユウヤとはそんな関係じゃない。こんなに歳が離れているんだ。わかるだろう。彼を巻き込まないでくれ」


……そうなんだ。

俺が一人で舞い上がっていただけだったのか。


アレサンドラが歩み寄ってきて、俺を立たせてくれた。

そして耳元で、「変なことに巻き込んで、すまない。昨夜のことは忘れてくれ」と申し訳なさそうに囁いた。


「アレサンドラ、リックの兄貴の気持ちはわかってんだろう。十年以上も前から兄貴はお前に惚れてたんだ。別のパーティなのにお前の後ろを付け回したり、酒も飲めないのに酒場でよく絡んでいたのは、全部、ピュアな兄貴のお前に対する恋心から出た行動なんだぜ」


「お、お前、余計なことを言うんじゃねえ!!!」


取り巻きのうちの一人が背後から声をあげ、モヒカン男はそれに腹を立てて、そいつの頭を殴る。


そうだ。確かに昨夜、酔っぱらったアレサンドラが長年パーティを組んでいた男に振られた挙句に捨てられたようなことを怖い顔で言っていた気がする。

その男は、同じパーティの新入りの女僧侶とどこかに消えたって話だった。


「アレサンドラ、俺の女になれ。ルーペルトのへなチンよりずっといい思いさせてやるぜぇ」


リックというらしいその男はセックスアピールとばかりに腰をカクつかせた。

そんなことをすれば相手に嫌われるということは、ついさっきまで童貞だった俺にもわかるのに、馬鹿な男だ。


それにしてもこいつ、いきなり乱暴しやがって。


普段はあまり怒らない俺もさすがに、頭に来た。


俺は心の中で、≪ぼうけんのしょ≫を使用する決意をした。




「セーブポインターよ。よくぞ参った。吾輩は、記帳所セーブポイントの妖精、名前は、……まだない」


このおじいちゃん、まだ自分の名前を思い出せないのか。


……以下略。


「あれ?前回来た時よりもなんか広くなってない?」


気のせいかとも思ったが、確かに四畳半が六畳になっている。


「ロードじゃな? あの女とのことを無かったことにしたいんじゃろう」


この爺さん、俺が外で体験したことを知っているのか。

それじゃあ、昨夜のことも……。


「当然知っておる。だが、儂はお前さんが何をしようが口出しはせぬし、興味も無い。ただ、後悔だけはせぬように、よく考えて行動することだな」


「……ロードはしない。≪一番≫に今の状態をセーブしてくれ」


「セーブじゃと? 本当に良いのか。怒りに任せて決めると、後悔することになるぞ」


「いいから、≪一番≫にセーブしてくれ。椅子から床に落とされて頭に来たのは本当だけど、それ以上にアレサンドラを侮辱されたのが頭に来た。無責任なエッチしちゃったのはあとで彼女にしっかり謝るとして、あの野郎だけは二度とアレサンドラに近づかないように釘を刺しておかないと、彼女がこの先も困るだろう」



ぼうけんのしょ1 「ウンコとの激闘の果てに」

→「無責任な夜を越えて」


ぼうけんのしょ2 「チキン野郎、扉の前で」

ぼうけんのしょ3 「はじまり、そして追放」


相変わらず、なんかむかつくタイトルの付け方だな。


この爺さん、俺のこと、絶対に馬鹿にしてるだろ。

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