第12話 未練を断て!

……チュン、チュン。


「うっ、頭痛え……。しかも酒臭い……」


見たことも無い天井……。


気が付くとそこは俺が泊まっていた宿の部屋ではなかった。


慌てて身を起こすと傍らには見知らぬ女性が裸で寝ていた。


いや、見知らぬではない。

アレサンドラだ。


アレサンドラはすやすやと寝息を立て、起きる気配はない。


やばい。

とんでもないことになってしまった。


俺の脳裏に少しずつ昨夜の記憶がよみがえって来た。



調子に乗って蒸留酒の果汁割りを何杯もおかわりしながら、互いの身の上話をした。

アレサンドラは俺の話を不思議そうな顔をしながら聞き、少し半信半疑だったが、そのうちお互い酔っぱらって、話の真偽などどうでも良くなってきた。


盛り上がって、彼女が泊まっている宿の部屋で飲み直そうという話になり、ここに辿り着いたのだが、中に入るなり、いきなりアレサンドラが抱き着いてきて、そのまましばらくキスしたり互いの体を弄ったりしていた。


「俺のファーストキス……」


俺は自分の唇に指を当て、呆然とした。


いつ、どこで、誰とするのか。

妄想を膨らませながら、その日が来るのを楽しみにしていたのに一瞬で通り過ぎてしまった。


そして、急に恐ろしいことに気が付いてしまった。


初キスどころか、避妊もしないで何度も何度もアレサンドラとセックスしてしまった!


記憶が無かったのならどれだけ良かったことだろう。


寝台に押し倒され、そのまま為すがまま……。


俺も途中からなんか火がついちゃって、あとはもう勢いだけだった。



そうだ!


俺には≪ぼうけんのしょ≫があったんだ。


セーブしていた記録をロードすれば、昨夜の全てをことに出来る。


再び買い物とゴブリンの集団との激闘を演じなければならないが、この状況から逃げ出すにはそれしかない。


「……ん、おはよう」


アレサンドラが起きてしまった。


アレサンドラは寝ぼけまなこのまま俺の手を引くと、豊満な胸に俺の顔を押し付けて、優しく抱きしめてきた。


「……お、おはようございます」


おっぱいの心地のいい感触に思わず力が抜けてしまう。

身体は凄く引き締まってるのに、おっぱいは弾力がありつつも柔らかい。


「昨日はすごく良かったよ。かわいい顔して、……やるね」


疲れ果てたけど、俺もすごい気持ちよかったです。


顔を上げてみると、アレサンドラは顔を少し赤らめて、恥ずかしそうに目を逸らした。


うっ、二十七歳だという話で、かなり年上だけど、不覚にもかわいいと思ってしまった。


しばらく寝台の上でゴロゴロしながら、イチャイチャしていたが、お互い腹の虫が鳴ったので、いい加減起きることにした。


重だるく、昨夜の快感の余韻が残る身体をようやく起こして、身支度をする。


身体中から、そこはかとなく淫らな匂いがしている気がして落ち着かなかったが、アレサンドラは落ち着いたものだった。



宿は冒険者ギルドのすぐ近くだったため、食事はそこの食堂でとることにした。

アレサンドラが泊まっている宿屋は、宿泊専門で食堂はついてないらしい。


アレサンドラとテーブルで向かい合って、ほぼ昼飯になってしまった朝食を食べていると、異世界に連れてこられてしまった不幸と孤独が和らいでいくのを感じた。


「あっ、口にソースが付いてるぞ」


アレサンドラが俺の口の端についていたそれを、ひょいと指で拭って、自分の唇に運ぶ。



どうしよう。

≪ロード≫すべきか、すべきでないのか。


今のところ、「中に出しやがって、責任とれよ」とか言われてないが、万が一そうなって口答えしようものなら、この体力差では殺されてしまうだろう。


それにもしアレサンドラが妊娠していたら、俺が父親になるということだ。

こんな覚悟も無いままの無責任な奴が親父だったら生まれてくる子供はきっと不幸になってしまうことだろう。


何を迷っている?


未練を断て!

もういい加減に≪ロード≫に踏み切るんだ。


これは、正しい未来のための、正しい選択だ。


俺の目の前に半透明のメッセージウィンドウが現われる。



『≪ぼうけんのしょ≫を使用しますか?』


はい

いいえ









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