第10話 討伐依頼
「ぬっ、今のも躱すか。やるな!とても今日初めて杖術を習った者とは、思えない動きだ」
グラッド師匠は隻眼の怖そうな顔に笑みを浮かべ、喜々として突きを繰り出してくる。
俺はそれを次々と避け、グラッド師匠にお返しとばかりに横薙ぎを見舞う。
しかし、これはあっさりと防がれ、下からの鋭い振り上げで俺のスタッフは宙に飛ばされてしまう。
「グラッド師匠、参りました」
グラッド師匠の寸止めに両手を上げて降参する。
ゴブリンの集団に嬲り殺しにあった後、俺は≪ぼうけんのしょ≫の≪二番≫を267回ロードし、五回殺された。
グラッド師匠の動きを研究するとともに、「こういう動きをしたら、こうなる」と試行錯誤して、その動き出しの前に回避行動をかなりとれるようになった。
杖術の腕前はそれほど上がっていないが、このシチュエーションの対グラッド師匠の対応はうまくなったといった感じだ。
それでも自分より強い相手との組み手と基礎指導を繰り返し受けれたのは、完全素人の俺としては収穫が大きかった。
殺された五回は、少しだけ本気を出してしまったグラッド師匠の技を避け損ねたもので、手加減はしてくれていたものの、当たり所が悪かったのだ。
グラッド師匠の杖術における必殺技は「彗星打ち」というらしく、高めた闘気を杖先に乗せて、文字通り彗星に例えられるような速度と威力で相手を打つというものだ。
いくら攻撃が当たらなくてイライラしたとはいえ、このような危険な技を出会ったばかりの新人に使うとは本当に大人げない。
今わざとスタッフを手放し降参したのは、この後、「彗星打ち」を使われるのを回避するためだ。
あれは、仮に使われるのがわかっても、今の俺の能力値では躱すことも防ぐこともできなかった。
全力ではなかったと思うのに、喰らった瞬間、即死だった。
その後の肉体の損傷がどれほどか確認できないほどに、頭部を一瞬でぐしゃっと潰されたと思う。
このグラッド師匠は、決して悪い人ではないが精神年齢が思ったよりも低く、「つい、かっとなってやってしまった」とか供述するタイプであるようだった。
「ステータス見た時は、あまりにも酷すぎて愕然としたが、お前、なかなかに武の素質があるぞ。これなら、この辺の弱い魔物相手ならなんとかなりそうだな」
グラッド師匠がポンと頭を軽く叩き、どうやら今回の訓練は無事、死なずに終わることができたようだった。
翌日、俺は再びザイツ樫の
報酬は一体につき銅貨20枚。
討伐の証明は右耳あるいは鼻を切り取ってくればいいということだった。
この説明を受けた時は一瞬、ウゲッとなったが、こっちはチンコを切り取られた経験があるので不思議と嫌悪感は少なく、逆にやってやるぞという気になった。
受付のメリルさんは、グラッド師匠が城から戻ってくるまで討伐依頼はやめた方がいいと心配してくれたが、俺はそれをやんわりと流した。
王都の城門を出て、再び例の場所に向かう。
メリルさんとのやり取りで少し遅くなってしまったが、ちょうど五匹のゴブリンはその場で解散でもするかのような雰囲気で、辛うじてまだそこにいた。
「五匹まとめてかかってこいっ!」
俺は、己の心を奮い立たせるかのように
その声に一瞬、たじろいだような挙動を見せたが、ゴブリンたちはすぐに邪悪な笑みを浮かべ、襲い掛かって来た。
俺の心は不思議と冷静だった。
グラッド師匠に比べれば、このゴブリンたちなど少しも怖くはない。
動きの速さだって、俺とそう変わりは無いのだ。
そうであるならば、270日近いリロードによって身に着けた杖術の敵ではないはず。
俺は多対一の不利など感じることも無く、長杖の間合いを常に把握しながら、そこに侵入してくるゴブリンをひたすら突き、そして殴りつけた。
俺の非力さでは、致命傷にならないようであったが、ゴブリンたちも俺の体に触れることはできないようだった。
やがて一匹、また一匹と繰り返し与えられる痛みと疲労から戦意を喪失し、逃げ去っていった。
やがて日が少し傾き、その場には俺一人だけが残った。
最後に逃げ去っていくゴブリンが最初に出会ったあいつであるのかという確証は無かったが、おれはそうだと思うことにした。
「
さて、俺も帰ろうかと踵を返したところで、あることに気が付いた。
やべっ、討伐依頼だったの忘れてた!
殺さないで逃がしたら、駄目じゃないか。
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