第9話 強敵

殴り合いの喧嘩すらしたことも無い平和主義者の俺が、まさかこのような命がけの戦いに身を投じることになるとは。


真新しい装備品を手にした俺はテンションが上がっていて、スライムくらいならどうにか倒せるのではないかとギルドで討伐依頼を受けてしまった。


だが、近くの森にいるという目的のスライムに出会う前に、街道で、ある魔物に遭遇してしまったのだ。


強敵。


それは人によっては強敵ともと読む。


そう呼ぶにふさわしい相手と俺は今、対峙している。


ゴブリン。


小柄な体格だが、その動きはましらの如くすばしっこく、鋭く尖ったぎざぎざの歯と鋭そうな爪をしていた。

手に石斧を持ち、それをやたらめったらと振り回している。


俺はグラッド直伝の杖術でそれを防いでいたのだが、全身筋肉痛の影響もあって動きは冴えない。


足がもつれて転んだところに、ゴブリンの渾身の一撃が頭部に命中した。


くそっ、こんなことなら「禿げるのが嫌だから兜はいらない」などというんじゃなかった。


頭から温かい血液が流れだし、意識を失ったところで、俺の記憶は途切れている。




「おお、ユウヤよ!死んでしまうとは情けない!」


……以下略。


「それで、何番のセーブポイントをロードするんじゃ?」


おお、このセリフは初めて聞いた。


「あのさ、その前に聞きたいことがあるんだけど……」


「なんじゃ?」


「俺、何回も死んでるじゃない。これって無制限なの? 所持金が半分になるとか、何かペナルティ的なものは無いの?」


「ペナルティだとか、回数制限的なものは吾輩が知る限り、無い。お前の魂が諦めたら、そこで試合ゲーム終了じゃよ」


「それって、つまり不死身だってこと?」


「ああ、そうじゃ。最初に言っておらんかったかのう」


「言ってないよ!すごいスキルじゃん。つまり、うまくいくまで何度でも人生をやり直せるってことでしょ?」


「まあ、そういうことになるな。おい、時間が無いぞ。はやく番号を選べ」


ぼうけんのしょ1 「ウンコとの激闘の果てに」

ぼうけんのしょ2 「チキン野郎、扉の前で」

ぼうけんのしょ3 「はじまり、そして追放」


なんかタイトルのつけ方むかつくな。


「まあいいや、じゃあ1番で」




気が付くと俺は宿の自室だった。


どうやら冒険者ギルドを訪れる前に戻ったらしい。


もう例の店の場所はわかっているので、冒険者ギルドには寄らずに直接向かい、ザイツ樫の長杖クオータースタッフなどの装備を再び買った。


今度は兜もしっかり買ったのでもうあいつに敗れることは無いだろう。


俺が向かったのは、先ほど自分が殺されたあの場所だ。


しかし、冒険者ギルドに寄らなかったり、買い物がスムーズに行ったりして、到着時間がズレたためだろうか。


その場所にいたゴブリンは一匹ではなく、五匹であった。


くそっ、こいつコミュ障のぼっち野郎じゃなかったのか。

四人も彼女連れやがって、リア充じゃねえか。


残りの四匹が雌かどうかは知らんけど……、そもそも前回戦ったあいつはどれだ?


そんなことを考えているとすぐに発見され、取り囲まれたあげくに袋叩きに遭った。


前回は頭を一撃でかち割られたので、苦しまずに死ねたけど、今回は酷かった。


ゴブリンたちは、まるで俺を玩具にでもするかのようにいたぶり、そして殺した。



「おお、ユウヤよ!死んでしまうとは何事だ!」


……以下略。


「おい、さっき来たばっかりだろう。何をしておるか」


妖精の爺さんは、呆れ顔だ。


「面目ない。まさか、相手が五匹に増えてるなんて、想定外だった。それに、本当に、ひどい目に遭ったよ。棍棒だの、石斧だので滅多打ちにされた挙句、チンコと金玉を根元から切り取られた。そうして俺が泣き叫ぶ様子を楽しんでやがったんだ……」


俺はつい先ほどの苦しみを思い出し、身震いしながら股間を押さえた。


「……それで?≪一番≫をロードするんだな」


「いや、今度は≪二番≫を頼むよ。城に行ってしまう前のグラッド師匠にもう一度鍛え直してもらう」


あのゴブリンどもめ。

絶対に復讐してやる。


俺の局部を切り裂き弄んだ罰を、必ず受けてもらうぞ。


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